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奴隷の国  作者: 猫人鳥
1章

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11/1638

11 失望

 服屋での支払いも終えて、アキナ様は入り口のところで待機していた私の所に戻ってきた。

 買った荷物は店員が持っている。


「あぁ、これだけ着ていくから」

「こちらですか?」

「そうそう。フィー、とりあえずこれ羽織ってね」

「か、かしこまりました」

「これで角と奴隷印を隠せるわね」

「は、はい。ありがとうございます」


 私は店員から受け取ったローブを羽織り、フードも被った。


「じゃ、いきましょうか。荷物もらうわ」

「え……あ、はい」


 店員も戸惑っている。

 普通なら奴隷の私に持たせるべきだからだろう。


「アキナ様。荷物は私が持ちます」

「そう? まぁ、全部フィーの服だしね」

「え……結構買ってませんでしたか?」

「そんな事もないわよ」


 そんな会話をしながら店を出た。


「じゃあ、一気に下町にまでいくわよ。さっき私がフィーを買ったことを知ってる人が少ない辺りね」

「かしこまりました」


 それから、1時間程歩いてこの国の端の方の町まで来た。

 さっきの広場とこれだけ離れていれば、魔神種の奴隷を買った少女の事を知ってる人もそういないだろう。

 私もずっとローブで角や奴隷印を隠して歩いてきたので、すれ違う人達には貴族の子供とその護衛くらいに思われていたはずだ。

 

 アキナ様が歩くのをやめて店に入ったので私も続いて入った。

 そこは結構大きな宿屋だった。

 1階には食堂も併設されているみたいだ。


「ベッドの2つある部屋を1部屋。宿泊日数は未定よ」

「1日大銅貨5枚ですよ」

「なら、とりあえず大銀貨1枚払っておくから、20日くらいは居座るわね」

「かしこまりました。3階の右奥の部屋をどうぞ」


 宿屋の主人も、アキナ様を旅の途中の貴族の子供か何かだと思ったようで、普通に話している。


「フィー、行くわよ」

「はい。アキナ様」


 3階の右奥の部屋につき、アキナ様が鍵をあける。

 私がその戸を引くと、


「ありがと」


と、私に言ってアキナ様は部屋に入った。

 本当なら私が鍵をあけるべきだし、戸をあけるのも当然の事で、お礼を言われるような事じゃない。

 やっぱりアキナ様は、どこからどう見ても貴族なのに、全く貴族らしくない。

 というか、奴隷を扱い慣れていない?


「ふぅー」


 溜め息をつきながら、リュックを下ろすアキナ様。


ドサッ


 という、とても重々しい音が部屋に響いた。

 あれだけ金貨や途中で増えた銀貨といった硬貨が入っていたら、重いに決まってる。


「やっと落ち着けるわね、フィー」

「そ、そうですね……」


 この流れは、いよいよ言われるのか?

 さっき話してる途中だった、転移魔法の話が……


「じゃあ、改めて。フィーには転移魔法を使ってもらうわ」


 やっぱりだ……

 でも、出来ないものはどうしようもないんだから、ちゃんと説明しないと……


「アキナ様、確かに私は魔力の多い魔神種ですが、転移魔法は使えません。特殊奴隷印も刻まれておりまして、これにより使える力は押さえられています」

「あぁ、そんなのあるわね。じゃあまずはそれの解除をしましょうか」

「は、はい?」


 奴隷印の解除?

 そんな事できるのか?

 奴隷印を解除できるのは、その奴隷印を刻んだ者だけのはずじゃ……


「そんな事、出来るのですか?」

「出来るわよ」


 アキナ様が出来るというのだから、出来るのだろう。

 これで奴隷印を解除してもらえれば、私は奴隷じゃなくなる?

 自由になれる……?


「その奴隷印は魔力も押さえているし、誰にも逆らえないようにしてる奴でしょ? そんなの私は要らないもの。だから私がちゃんと、紅血奴隷印を刻んであげるわ」

「……え?」


 今、アキナ様は、なんと仰ったんだ?

 紅血奴隷印を刻む?


 紅血奴隷印は普通の奴隷印とは違う。

 奴隷印に主人となる者の血が混ざっているもので、その主人の命令にのみ逆らえなくなるものだ。

 他の者に従わなくてよくはなるが、その分拘束力が強く、その主人の所有物である事を強く証明するものとなる。

 つまり、アキナ様が奴隷印を解除して下さるのは、単に奴隷印を皆用から自分用に変えるというだけのことだった。


 何を変な期待をしていたんだろう。

 本当にバカだな、私は。

 確かにアキナ様は凄い方で、私みたいな奴隷にも優しいけど、だからといって奴隷解放とかをしているわけではないんだ。

 魔法が使える、自分用の奴隷が欲しいだけなんだ。

 私は勝手に期待して、勝手に失望していた。


「よし、じゃあフィー。そこに座って」

「……かしこまりました」

「ちょっと痛いかもだけど、耐えてね」

「はい。アキナ様」


 この奴隷印が刻まれた日の事を思い出す。

 体が切り刻まれるような痛みに襲われ、喉が焼き切れるかと思う程の悲鳴をあげた。

 あの痛みは忘れたくとも忘れられない……

 紅血奴隷印は普通の奴隷印より強力なものだ。

 あの時以上の痛みを覚悟しなければ……


 アキナ様が契約呪文を唱え出した。

 私の下に魔法陣が形成されていき、その魔法陣が強い光を放つ。

 私の奴隷印が若干の熱を持ち、チクッと針に刺されたような痛みを少しだけ感じたと思ったら、奴隷印の形が変わっていた。

 魔法陣も消えていき、紅血奴隷印を刻み終わったのだと分かった。


 あまりにも呆気ない早さで終わり、本当に終わったのかと不安になるくらいだ。

 覚悟していた痛みも、あの針に刺された程度の痛みしかなかった。


 新しい形の奴隷印から、少しの熱を感じる。

 でもこの熱を私は、痛いとか焼かれそうとかではなく、温かく感じた。


「よし……完、璧ね……」


バタッ


「ア、アキナ様っ!?」


 アキナ様は、私の新しい奴隷印を見ると、まるで全ての力を失ったかのように、その場に崩れ落ちた。


読んでいただきありがとうございます(*^^*)

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