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おしゃま怪盗!レディ♡ピンクジュエル 番外編 九条ホテルでの一日

作者: 無名人

 

 ピンクジュエルの一件から三ヶ月が経った。中学生達は大きなイベントを終わらせ、後は期末考査の後の冬休みを待つばかりだった。


 そんなある日の休日の事、千歳と青葉の元に手紙が届いた。以前小百合に言われていた、九条ホテルに招待するという内容だった。ホテルには友達も連れて来ていいらしい。

「友達を連れて来ていいんだって」

「やっぱり…、いつメンの二人かな、でも…」

青葉は首を捻ってこう言った。

「涼平やりんかも連れて行った方がいいよな?それと、小百合の事だから誠も…」

「桜井君がどうして関係あるの?」

「誠と小百合って付き合ってるらしいぜ?」

「何それ初耳なんだけど…」

「そっか…千歳姉、夏祭りの時に会ってないのか…」

青葉は勝手に一人で納得している。

「とりあえず、みんなに話してみようよ」

「そうだな…」

千歳と青葉は、学校に行って、それぞれ話をした。


 それぞれ話をすると、みんなの予定がちょうど合う日を一日見つけた。千歳は、その日大丈夫かと小百合に聞く。

「えっと…、この日が良いってみんな言ってるんだ。私は、花恋ちゃんと結菜ちゃんとりんかちゃんを連れて行こうって思ってるんだけど…」

「分かった、それならご両親にそう伝えておくよ。部屋は何部屋いる?」

「えっと…、青葉は、健君と和人君と、涼平君と桜井君を連れて行くって行ってるんだけど…」

千歳の話を聞いて、小百合は並んでいたが、ある事を閃いた。

「そっか…、そうだ、スイートルームがあった。丁度二部屋あるから、そこに男女分かれて泊まれはいいんじゃない?」

「それ…、大丈夫なの?」

「平気、その部屋は半分自分の部屋みたいなものだから」

「そっか…、流石お嬢様、格が違うねぇ」

「私に掛かればそれくらい容易い事だよ」

小百合はそう言って、一組の教室に戻って行った。


 そして、お泊りの日、千歳達は九条ホテルのシャトルバスに乗って、青崎湾にあるホテルに向かった。そこは、みんなで海水浴に行った時に休憩したホテルだった。

「あれ、九条ホテルのホテルだったンスね」

「いや、凄いね。バス簡単にチャーター出来るなんて…」

「今は閑散期なので、お客様は少ないですよ」

「俺泊まるの初めてかもしれない」  

千歳と青葉は何度も泊まった事があるが、それ以外のみんなは、滅多に泊まれる場所ではない。


 九条ホテルは、主にリゾートホテルや都市の高級ホテルを運営している。洋司が九条家と親しかった事から、二人は旅行の時はいつも九条ホテルやその関連のホテルに泊まっていた。

「そういや、いっつもスイートルームだったよね」

「私、三人でツインルームですよ?」

りんかは母親が帰って来た時によく旅行している。だが、基本的にシングルかツインの部屋にしか入らないらしいのだ。 

「スイートルームだったら五人余裕で入るよね?」

「ベッドを追加すれば大丈夫」

「スイートルーム、楽しみ!」

一同は、滅多に出来ない体験に、胸を湧き上がらせていた。


 そして、一同は青崎湾にやって来た。

「凄い!誰もいない海岸なんて!」

「そりゃあこんな寒い海に人なんていないだろ?!」

誰もいない海岸は、普段よりも広く感じた。

 青葉と健は波打ち際で水切りを始める。和人と誠は、流木を集め始めた。

「これでイカダ作れるかな?」

「秋の海だろ?落ちたら寒いぞ?」

流木はあまり落ちていなかったので、人が乗れる程の大きさのイカダにはならなかった。


 千歳と花恋と結菜、それから小百合とりんかは海岸にあるベンチで話し始めた。 

「体育会と文化祭、成功して良かったよ」

「うんうん、朗読会も良かったし、アナウンスも噛んでなかった」

「裁縫部の作品も良かったよ〜」

「期末テストも良い点取らなきゃいけませんね!」

「うわっ、りんかちゃん現実を思い出させないで…」

りんかは、今回の期末テストも良い点を取ろうと勉強しているようだった。




 そして、一同はホテルにやって来た。予約は小百合がしているので、スイートルームじゃなくなる事はない。

「そういえば、今日って誰が泊まってるんだろ?」

 すると、部屋の一室が開いて、中から子供連れの家族が現れた。その家族に、青葉は見覚えがある。

「あれ?久美ちゃん?」

「ちえりちゃん!」

ちえりは、久美の前に駆け寄って来た。

「久し振り!元気だった?」

「うん!」

久美は、ちえりの背後にいる両親に目を向けた。

「お母さんとお父さんと楽しく暮らしてるんだね?」

「久美ちゃんと離れたのは寂しいけど…、元気にしてるよ!」

 ちえりは、両親と幸せに暮しているようだった。それを見て、千歳は安心した。自分達と違って、ちえりにはそんな日々が少しでも長く続いて欲しいと願うばかりだ。



 一同はホテルの長い廊下を通っていく。このスイートルームには、専用の道があるのだが、今は清掃中で使えない。小百合は、別の道を通って行った。



 すると、部屋の一室が開いて、中から見知った人物が現れた。

「あれ?千歳ちゃんと青葉君じゃない?」

「ホントだ、しかも健や他の友達まで居るじゃないか」

「玲奈さん、智さん!」

「みんな、久し振り!」

二つの部屋から、玲奈達四人が現れ、それぞれ二人に話し掛ける。

「みんな元気にしてるんだね?」

「二人とも立ち直れたのか?」 

「まぁ…、そうですね」

「丁度二人に会う為にここに来たんだ、会えて良かったよ!」

四人に親しく話す青葉に対して、四人と初対面の和人は不思議に思った。

「青葉の知り合いなのか?」

「そういう事にしとくっス」

二人は四人と別れて、それぞれスイートルームに向かった。



 小百合はスイートルームを二つ予約していた。女子達は左の部屋、男子達は右の部屋に入っていく。健の妹の久美は、ここで健と別れた。

「久美、俺と離れて大丈夫っスか?」

「私達が見とくから大丈夫だよ、健君」

花恋は久美を預かると、一緒に部屋の中に入っていった。


 スイートルームは、中学生五人が余裕で入る程の広さだった。室内には、大型テレビとベッドが三つ完備されていて、広い浴槽もある。ホテルというよりは、高級マンションの一室のようだった。

「凄い!こんなに広かったんだ!」

 窓からは、青崎湾が一望出来る。一番海が綺麗に見えるという事から、この景色の為にスイートルームに泊まる客も居る。

「家族みんなでここに泊まったな、懐かしい…」

「千歳ちゃんは家族総出でここに泊まってたね」

「今は程遠くなったけど、贅沢な暮らしをしてたな…」

千歳はバルコニーから海を眺めた。



 千歳達は、現在泉ヶ丘の外れにある一軒家に住んでいる。傍から見れば豪邸に見えるが、海洋邸より一回りか二回り小さい家だ。

 千歳と青葉、竜野夫妻の部屋がそれぞれあって、暖炉が着いたリビングがある。

 観月や両親の思い出までは持っていけなかったが、二人はそこで楽しく過ごしていた。



 贅沢な暮らしが懐かしく思える時もあったが、そうでもない暮らしも、中々いいものだと最近は思っている。

「贅沢出来るからと言って幸せとも限らないんだけどね…」

「そうだね…」

「でも…、たまにはしたいよ。デパートで美味しいお菓子食べたり、欲しい服買ったり」

小百合は椅子から立ち上がった。

「皆さん、晩ごはんにしませんか?レストランにご用意しておりますので、一緒に行きましょう」

「よし、行こう!」

「青葉達も誘わなきゃね」

女子達は、隣の部屋に居る男子達を連れて、レストランに向かった。





 レストランは、一流シェフが料理長をしている。洋食やフレンチが楽しめるとして、ホテルに泊まらない客からも好評だった。

 千歳達の前に差し出されたのは、分厚いメニューだった。

「好きなのを一品どうぞ」

「コース料理じゃなくて?」

「流石にそこまでのお金はありませんので…、セットなら出来ますが」

普段はコース料理を頼む千歳は、不満そうだったが、青葉は何とも思ってないらしく、平然と頼んでいる。

「じゃあ…、俺ハンバーグセット」

「それなら俺も」

「俺もっス」

「僕は…、オムライス」 

「俺は…、えっと…、ハンバーグセットでご飯大にしてもらおう」

男子達は迷う事なく料理を決めて、早速注文している。

「これ…、全部九条先輩の奢りなんですか?」

「太っ腹にも程があるよ…」

「ってか男子達!お子様ランチ頼むノリで高級料理を…」

結菜の言葉に男子一同は全く耳を貸さない。



 その一方で女子達は迷いながら注文を決めていた。

「私は…、どれにしよっかな…」

「フレンチはみんなコースか…、それじゃあ…、鮭のムニエルにしよ。スープはコーンスープで、ライスはフランスパンに変更で」

「千歳ちゃん注文しなれてるね〜」

「私、千歳先輩と同じのにしたいです!」

「私は欧州カレーで、後デザート注文していい?」

「一人一品までなら大丈夫だよ」

「私、お子様セット注文していい?」

久美が目を輝かせながらそう言う。

 お子様セットは、小学六年生までのメニューで、千歳達は残念ながら注文出来ない。

「花恋ちゃん、どうする?」

「えっと…、シーフードドリアかいいかな」

「私は…、茸のポットパイにします」

女子達も注文を決め、それぞれ料理を待った。


 そして、それぞれの料理が運ばれてきた。青葉達四人がハンバーグセットを注文したので、まとめてやって来た。青葉達は感想も言わずにむしむしと食べ始める。

「ちょっと男子達?!」

「まぁまぁ結菜ちゃん…」

「食べる時くらい食べる事に集中させろっス」

「でも、一流ホテルだからか?無茶苦茶美味い」

「俺はこのレストラン行く時毎回食べてるからな」

 そして、少し遅れて涼平のオムライスが運ばれてきた。

「あんたそういう趣味だったの…?」

「そういう趣味?僕は合理性を考えてこのメニューなんだけど…」

千歳の質問に涼平は感情を見せずに平然と答える。

「そういう千歳こそ、コース料理を注文したいと言ってた割には、質素なメニューを頼むんだね?」

「まあね…」

千歳は、涼平には言われたくないと思った。


 そして、千歳達の料理も運ばれてきた。

「ここのシェフの茸のポタージュは美味しいのよ」

「へぇ…、良いなぁ」

「このカレー、二日間煮込んだって言ってたね!」

千歳達五人は料理の話が弾んで、料理に中々手をつけない。

「何で女子達ってそういう話が好きなんだろうな」

「腹に入れば同じだろ?」

「話が弾んだらご飯が冷めるって事忘れてないのか?」

「まぁ、どんな料理もしっかり味わえって事っス」

ハンバーグセットを頼んだ男子達は、もう早々に食べ終え、女子達を待っている。


 そして、久美のお子様セットが運ばれてきた。

「うわぁ…、お子様セットだ!」

 お子様セットは、チキンライスにミニハンバーグ、エビフライとフライドポテト、それにスープとゼリーが付いていた。

「久美がずっと食べたいって言ってたっス」

「やった!やっと食べられる!」

久美は喜んで、お子様セットをパクパクと食べ始めた。


 最後に運ばれてきたのは、結菜が注文したベリーのタルトだった。結菜は一人でそれを食べ始める。

「うわっ、私も何か注文すれば良かった…」

「うん?これ美味しい!」

ベリーのタルトは、専門店顔負けの見た目と味である。

「デザートにはデザート専門のパティシエがいらっしゃるので…」

「そんな事するんだ…」

結菜は、それを見事にたいらげた。

「皆さんのご飯代は私が払うので、大丈夫だよ」 

「えっ…、太っ腹にも程があるんじゃない…?」

「なんか…、ゴメン」

小百合は、席から立ち上がって、みんなの分の勘定を払った。


 それから、男子と女子に分かれて、部屋に戻っていった。部屋のお風呂に入った後、それぞれ話を始める。

「小百合ちゃんって誠と仲いいってホントなの?」

「付き合ってるかどうかは分からないけど…、小さい頃から仲は良いよ」

結菜はベッドに飛び乗って、床に座っている久美を見つめた。

「そういえば…、久美ちゃんって、好きな人居る?」

「分かんない」

久美は首を捻りながらそう答えた。

「お兄ちゃんよりカッコいいと思う人は?」

「う〜ん…」

「久美ちゃんは子供だねぇ…、そういうお年頃じゃないのかな?」

久美は一体何の話をしているのか分からず、困惑していた。

「結菜ちゃんそういう話好きなの?」

「もうこの際だから夜が更けるまで恋バナしよう!」

 結菜の掛け声で、女子達の恋話が始まってしまった。

 

 

 早速話題になったのは、千歳だった。

「千歳ちゃんって涼平君と付き合ってるんでしょ〜?」

結菜がそう言うと、千歳は驚き、大声を上げた。

「は?!何で私が涼平なんかと?!はぁ…、あいつはキザなのよね」

花恋は千歳の反応を見ながら、健の事を言った。

「健君は…、優しいけど過保護って思う事があるかな」  

結菜は健の事を思い出しながら、和人の話題に持っていった。

「和人は…、健君と違って優しくないし女子の扱いに慣れてないのよ」

「誠さんは、自分を格好良く見ようとする余り、空回りしてるね。私は一人で健気に頑張る誠さんが一番好き」

「青葉先輩って褪めてるように見えてアツいですね?」

りんかに突然青葉の事を言われて、千歳は焦った。

「ちょっ?!何でりんかちゃんが青葉の事を?!」

「みんな好きな人がそれぞれ居るんですね?」

りんかがそう言うと、千歳は考えながら唸った。

「やっぱり…、何だかんだで気になる?男子達の事」   

千歳がそう言うと、一同は頷いた。

「でも…、涼平は優しいよ。それに、レディーファーストだし」

「誠さんは憧れの人を追ってずっと健気に頑張っています」

「そういえば…、健君も頑張り屋さんだね、和人君も不器用だけど結菜ちゃんの事をエスコートしてるんじゃない?」

「そう、なの…?」

結菜は、花恋に和人の事をを言われて、困惑した。

「でも…、仲良さそうにしてる二人が、ちょっと羨ましいかな…」

「喧嘩する程仲が良いっていうじゃない?」

「喧嘩友達ですらないよ、あいつとは…」

結菜は、和人が居る部屋の方を見つめながら、そう言った。

 


 一方、青葉達も自分達の恋話で盛り上がっていた。

「やれやれ、千歳ちゃんは素直じゃないね」

「俺の前で千歳姉を悪く言うなよ!」 

青葉は、目の前に居ない千歳の事を庇っている。

「それなら…、青葉はりんかの事をどう思ってるんだ?」

「りんかは…、うるさいんだよ。あれからずっと青葉センパイ、青葉センパイと…」

青葉の話に続いて、健がこう言った。

「他のみんなには分からない思うっスが…、花恋ちゃんは無理してるっスよ。だから…、支えなきゃダメっス」

「結菜って…、色々ツンケン言ってくるからなぁ…。それと感情に流されやすい。後さ、お兄さんが野球やってるけど、野球自体には興味ないんだってよ」

「えっ、そうなの?」

「お兄さんの野球を応援してるだけだってよ」

和人は、ティーバッグのお茶を飲みながら、ため息をついた。

 

 散々人の悪い所を言った青葉達は、今度は良い所を言おうと考えた。

「じゃあ…、近くに居ないと分からない結菜の良い所って何?」

「青葉の方が付き合い長いだろ…、結菜は、面倒見良いよな。」

「花恋ちゃんはみんなの事をよく見てて、気が利くっス!」

「千歳ちゃんは…、自分の芯は曲げないよね」

「りんかは、一緒に居ると元気になるんだ」

「そうやって褒めるのも大事っスよ!」

健は部屋に居る男子達を一人ずつ見て、そう言った。

「それぞれお互いの事をどう思ってるんだろう…」

 一同は、お互いの部屋の方角を見つめながら、そう考えた。

 この関係は、ただの友達なのか、それとも恋人なのかも分からない。一同は、それぞれの相手の事を思い、考えながら話している。

 そうして、それぞれの夜は更けていった。

 

 

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