観察
おかしい・・・
おかしすぎる!
なんなのコイツ!
「小麦、こっむぎ、パンパパーン♪」
あたしはマロンを横目に様子を伺った
変な歌を陽気に歌うコイツは、平然と小麦粉を持って歩いている。
ひと袋25kgもある代物を苦にする様子もない
まあいいけどね、そもそも小麦粉を持ってこいなんて誰にも言われてない、無駄な労働ご苦労さま!
あたしは少しずつ歩く速度を遅くして、キッチン近くで静かに離れた。
「ダナン、小麦粉持って来たよ」
「ん、小麦粉? 別に頼んでないけど、まあ残り少ないから良いか、ありがとう」
「はい」ドスン
「うおっ、ははっ、相変わらずパワフルだな」
アイツ!ダナン様に話しかけるなんて何様のつもり!?
しかも小麦粉を押し付けて怪我なんてさせたら絶対に許さないから!
勝手に憤るレナ、小麦粉を受け取ったのは料理人見習い2年目のダナン
彼は子爵家三男で、優しい顔つきと物腰の柔らかさから陰で狙っている使用人も多い、レナもその1人だ。
マロンは先週料理人の元に付けられ、ピーラーでのじゃがいもの皮むきをダナンに教わっていた。
ダナンがじゃがいもを洗い、マロンが皮を剥く
屋敷で使うじゃがいもの量は半端ではなかったが、マロンは教わった通りに丁寧に皮を剥き続けたので真面目なダナンとは仲良くなったのだ。
「そうだ、丁度いい時に来てくれたな、ちょっと料理の感想頼むよ」
「いいの?」
「ああ、マロンの意見も聞きたいって料理長も言ってたから」
「わーい、いただきます!」
「ほら」
「あーん」
皿に盛り付けられた肉料理をダナンはひと口サイズに切って食べさせてくれた。
じんわりと肉汁が口の中に広がった
「・・・どうだ?」
「美味しいよ?」
「うん、それで?」
「うーん、これ煮たのか蒸したのかな、少し淡白な気がする、ボクはジュワーってしたのが好きだから物足りないかな」
「あー、蒸したんだけどやっぱり? でもあまり脂っぽいのも奥様や旦那様には重いと思ってさ」
「脂は落ちてるけど、蒸しすぎて肉かたくなってるかも」
「じゃあさ」
公爵家で最高の物を食べていただけあって舌は肥えているマロン
小腹が空いた時に調理場に行っては試作品などを処分していたので、料理にはそれなりに詳しくなっていた。
至極真面目な料理開発の話をしていたのだが・・・
「アイツ!あーんなんてっ、キィィィッ!」
小麦粉なんて頼まれていないので、戻して来いと怒られるマロンを期待して離れていたレナ
しかし予想に反して小麦粉は必要だったらしく、更には人気のあるダナンからあーんされる光景に不満が募っていた。
そんなレナを陰から見張っていた人物が居たのも気付かずに・・・
「——————という感じでしたよ、奥様」
「あらあら困った子ね」
「・・・奥様、失礼します」
クロードからの報告を侯爵夫人とメイリースが聞いていた。
その様子は対照的で、夫人は面白そうにコロコロと笑っているのに対し、メイリースは無表情で部屋から出て行った。
半刻後、メイリースに怒られるレナの姿があったとか・・・
「レナ、貴女の仕事を確認させていただきましたが、客間のベッドメーク、片方は丁寧に、もう片方は雑でしたが?」
「あ、あれはマロンが・・・」
「私は丁寧な仕事を心掛けるよう言いましたよね
仮に雑な方をマロン様・・・、マロンがやったとして先輩の貴女がそれで良いと判断したからそのままなのでしょう?」
2つのベッドメークでどちらがテキトーな仕事をしたかなどは問題ではない、後輩を預かった先輩が責任を負うからこそ指導は丁寧にするべきだ、静かに語るメイリースにレナは反論出来ない、因みに雑な方はレナである。