価値
「アランよく分かったわね、マロンちゃんだって」
「いえ・・・」
顔はヴェールに覆われていたので即座に判断はつかない
声色は多少変わっていたが似ている
懐に入られたサイズ感は昨日の今日なので合致したのだ
帝国語に騙されかけたが・・・
「目を見れば間違いなく分かります、まあヴェールで見えませんので、その、感覚的にそうかなと」
言いつつ、マロンのヴェールをそっと上げて目を合わせるアラン。
「ほらマロンの瞳だ、これなら間違う筈がない」
アランのひと言にマロンは嬉しくなった
公爵は気付いてくれなかったのに、アランはボクの事が分かるんだ。
「えへへ・・・」
ぎゅううっと力込めてグリグリと顔をアランの胸に押し付けた
アランは苦笑しながらも栗色の頭をポンポンとして優しく髪を撫でる。
「「「「キャアアアー!!」」」」
その様子を見た侍女達は黄色い声を挙げ、夫人とタチアナは目を丸くしてお互いに顔を見合わせた
「私達が余計なことしなくても・・・」
「勝手にくっつきそうですね、お母様・・・」
アランとしては、マロンは小さい頃のタチアナのような意識だった、オコジョ姿もダブらせて見ているのでとても距離は近い。
それは本人ばかりが思っている事で他人から見れば
マロンとは血が繋がっている訳でもなく、妹でもない
女の子にする態度としては少なくとも気を許している存在なのは明白であった。
ましてやアランはレオンとエリザベスの結婚までは女性を近付けないと言っているのは周知の事実
なのにも関わらず抱擁を許し、苦笑(優しく微笑んだように見えた)した顔を見せていれば誤解と妄想は捗る。
「それよりマロンにこんな事させて何してるんですか・・・」
わざわざ帝国語まで仕込んで何やってるんだ、と呆れるアラン。
ドレスに宝飾品、うっすらと化粧を施し
長い髪の毛はつけ毛で、足下はヒールの高い靴
夜会や茶会にそのまま出掛けられるような格好だ。
「練習よ、マロンちゃん敬語が苦手みたいだから」
「練習?」
「ええ、母国語以外なら憶えた通りに話せるから、取り敢えず帝国語で練習してたの、どうせなら気分出したいしタチアナのドレスを着せてね」
さほど会話した訳では無いが、確かにマロンは敬語が出来ない事に納得したアラン
「なるほど、・・・・・・ん?」
「そうそう!マロンちゃん凄いのよ、初めてのヒールでも背筋を伸ばして安定するの!」
「それは、まあ、運動神経は良いと思いますが、それよりも母国語以外とは? 帝国語はこの場だけで仕込んだ訳では・・・」
運動神経の良さは昨夜の一件で分かる
賊を打倒する力、屋根に跳び上がるバネとバランス感覚、身体能力は1級品だ、恐ろしく体幹が強いと思われる。
それよりも母国語以外? その言い方ではまるで何ヶ国語も話せるように聞こえる・・・
「違うわよ、エリザベスさんと一緒に講義を聞いていたから王国語の他に3ヶ国語話せるのよ?」
「・・・」
「マジ!? え、マロンお前っ、え、え、嘘だろ!」
確かにその場しのぎの帝国語にしては流暢だった
まさかである、クロードの驚きは自然な反応で、アランも珍しく驚いていた
昨夜からマロンに対しては驚きっぱなしで思考が追い付かない・・・
「マロン」
「ん?」
『帝国語で何か話してくれるか』
『何かって、何?』
『そうだな・・・、あ、今日レオン様に話したんだがマロンの事は信じてくれたよ、但し今すぐ公爵家に戻るとかは少し難しい、きっと何とかするから待っててくれるか?』
『そうなんだ・・・、うん!ありがとうアラン、エリーは元気?』
『ああ、王妃様の宮で保護されてるから安全だ、まあレオン様でさえも会うのは難しい事になったけど』
『良かった・・・、エリーが無事ならそれでいいよ』
「本当なのか、凄いな・・・」
「でしょ!」
「マジかー・・・、ええー?」
まじまじとマロンを見つめるアランは
ニコニコといやに上機嫌な母親と、クスクス笑うタチアナに気付かなかった。
仕方ねえから俺がしっかり面倒見てやらねえとな、と思っていたクロード
侯爵家に入り込めた事で少し気が緩み必死さが足りなかったのだが、この日から一生懸命に仕事と勉強に打ち込むようになった。




