練習
「おう、おかえりアラン」
アランは報告を挙げて、今後についての話し合いを終え帰宅した。
迎えたのはクロードのみ
いつもなら最低でも侍女か従者の1人がクロードと共に居るはずだが、それも無い。
「ただいま、皆は?」
「旦那様とウィル様はずっと篭って話してるな、奥様とタチアナはメイドらと一緒に集まって何かやってる」
父と兄が話し合っているのは恐らくマロンの処遇についてだろう、昨晩の説明の際も父はマロンを捕えるべきだと主張していた。
侯爵家の当主としてその判断は間違っていない
アランもクロードの件を母とタチアナから聞いていなければ、まずマロンを探そうとは思いもしなかったしオコジョが人になった前提で動いて保護も出来ていない。
幸い兄が取り成してくれたので父は渋々マロンの滞在を許したが、隙あらば追い出すか騎士団に通報してしまいかねないな。
アランは帰宅早々、クロードを伴ってマロンに事情を話しに向かった。
泣き顔が目に焼き付いていて、出来るだけ安心させてやりたい
公爵家に戻ること、エリザベスに会うこと
簡単にいく状況ではないが王家の情報で神獣の話が聞けたのは僥倖である
レオンの理解が得られた事は大きい
少しでも憂いを晴らして欲しいと思っていた。
「母上、マロンを少しだけ借りま、す・・・」
『いける?』
『はい、努力致します』
アランが部屋に通されるとそこには母とタチアナ、複数の侍女に囲まれた女性が居た。
長さは腰まである栗色の髪、顔はヴェールに隠されていて確認出来ない
ドレスは隣国である帝国風の意匠で作りは豪奢
椅子に座っている様は美しく、絵姿を切り取ったかのような非現実感がある。
王子であるレオンにつくアランは見目麗しいとされる姫や令嬢を見慣れているが、過去の経験からきっと高貴な出身の女性であるのは間違いないと考えた。
「アラン、お客様に挨拶もないの? 彼女は帝国の子だから帝国語で話してあげてね」
「あ、っと失礼しま、『失礼しましたレディ、私はアラン、メイベル侯爵家次男のアランです』」
『初めましてアラン様、わたくしはマローネと申します、訳あって家名を名乗らない無礼をお許し下さいませ』
「ん?」
『え?』
おや? アランはふと思った、聞いた事ある声だ
部屋の入口付近からは「スゲー美少女!」と素直な感想を洩らすクロードの声が聞こえていた。
——————————————————————————
敬語の練習をしていた
お母様とタチアナ、侍女さんと話していたけど母国語の王国語だとどうしても上手くいかない。
10年、物心ついた時からずっと使っていた話し言葉は中々抜けなかった。
途中で別言語だとまだマシな事に気付いた
先生とエリーの外国語の講義は綺麗な言葉遣いだったらしくて、ボクはボクじゃなくて『わたくし』と意識するだけで形になっているみたい。
「タチアナ、数年前に流行った帝国のドレスあったわよね」
「あるけど、あ!そういう事?」
「ふふ、そういう事」
キラリと目を光らせたお母様とタチアナ
以心伝心で動き始める侍女さん達の手によってボ・・・、・・・わたくしは脱がされた。




