知識
「働きたい?」
「うん、あ、はい」
「奥様、クロードが・・・」
「・・・そういうこと」
ボクが働きたいと言うとタチアナママは渋い顔になった
邪魔になるからダメなのかな・・・
朝の着替えからお世話してくれた侍女さんは、そっとタチアナママの耳元に口を寄せて話した。
うんうんと頷くと
「ねえマロンちゃん」
「はい」
「お勉強しましょうか!」
「はい! えっ? お勉強?」
「そう、お勉強は大事よ、働くとひと口に言ってもある程度教養は求められるわ、肉体労働という手もあるけど私はマロンちゃんにそういう仕事はさせたくないの」
アランからの報告、タチアナからもオコジョ時代のマロンの事を聞いていた夫人。
腕っ節がいくら強かろうと女の子を矢面に立たせたり重い物を持たせたりするのは外聞が悪い。
「教養・・・」
「そ、教養! クロードの時は一応テストさせて貰ったんだけどね」
夫人が侍女に視線を送ると、心得たとばかりに数枚の紙を取り出してマロンに渡す。
そこには沢山の試問が書かれていた
「これは?」
「予備知識の確認ね、クロードは計算が得意でマナーや歴史はまるでダメ、でも得意だからっていきなり侯爵家の収入や支出に関する仕事を与える訳にもいかないから」
つまりタチアナママが言いたいことは
出来る事があればそれに合わせた仕事を任せられる
仕事を任せるにしても内容によっては信頼を得られないとダメ、ということらしい。
「これを出来たら仕事していいの? ・・・です」
「そうね、必ずとは言わないけど活かせる仕事があれば任せるかも知れないわ」
「やる! ・・・です」
「え?」
「マロン様、ではこちらに」
「ちょっとメイリース?」
夫人には夫人の思惑と計画があった
誘導するように会話を進めていたが、夫人付きの侍女メイリースがその考えに反するように動く。
「良いではありませんか、何事も挑戦して知るべきです」
「それはそうだけど・・・、もう!」
夫人は不満顔だが止めることはなかった
そこまで怒ってもいないし、結局テストの結果から勉強に持って行けると踏んでいたのだ。
しかし、その思惑はすぐさま覆されることになった。
「はい! 1枚目!」
机に案内されたボクは書き終わった1枚目を侍女さんに渡す
「・・・これは」
「どうしたのメイリース、見せて」
メイリースは目を見張り、横から夫人が覗き込む
1枚目、計算問題のテスト
サッと目算した限りは殆ど正解していた
そして次々とマロンはテストを書き上げる
「はい!」
2枚目、国語のテスト
お手本の様に読み取っていて、これもまた理解を示していた
3枚目、歴史
国の興り、年代毎の主要な出来事、背景、歴代国王の名前
出来は言わずもがな。
4枚目、外国語
国交のある主要な国の言語で読み、書き、文章構成・・・
5枚目、礼儀作法
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「素晴らしいですね」
「やだもー、計画修正しなきゃ!うふふっ」
マロンのテスト結果は素晴らしいものになった
用意されたテストにおいて教養の高さを示したのである。
しかし・・・
「文字が・・・」
「そうね・・・」
書いた文字は書きなれていないために、ちょっぴり、否、とても下手であった。
更に、インクと羽根ペンにもなれていないため、用紙と机にポツポツと零していた。




