これから?
「ボクも働いた方がいいのかな?」
「ん?うーん・・・」
クロードは前世の記憶があるので黒猫生活が10年を越えても人としての意識が強かった。
対してマロンは前世の記憶がなく
野良オコジョの記憶とエリザベスに拾われて公爵家で飼われた記憶しかない為、社会性にかなり乏しかった。
公爵令嬢のペットの扱いは貴族そのものと言っても過言ではなく
食事は出る、お風呂も毎日入るし洗ってもらえる、寝床もあるし、勿論危険なんてあるはずも無い。
箱入り娘もとい、箱入りオコジョのマロンは昨夜の神から渡された人間の体を手に入れて初めて産まれたと言って良いだろう。
そんなマロンに働け、とは中々言えない
寧ろ働く前に学ぶべきことが沢山あるだろうともクロードは考えていた。
「おま・・・、マロンはさ、焦ることないと思うぜ」
「え?」
「奥様もマロンの事を気に入っているみたいだし、相談してみるのも良いんじゃねえかな」
「うん・・・」
「言い難いなら俺に話してくれてもいいし、アランとタチアナだって知らない仲じゃないんだ、良い考えを授けてくれるかも知れない、昨日大変だったんだ、ゆっくり身の振り方を考える位の時間は許されるさ」
「ん、ありがとクロスケ・・・」
「いや」
本音で言えばクロードも力になりたいのは山々である
しかし自分は見習いの身、余裕があるとは言えなかった。
「マロン様、食事後に奥様がお話をしたいと」
「あ、うん」
「ほらな?」
よし、ボクもお願いして働かせてもらおう!
エリーの事はアランがレオンと話をしてくれるって約束してくれたし、ヒトになったんだから飼われてるだけじゃダメだよね、うん!
——————————————————————————
「さあさあ、こっちに座って」
案内された部屋に入ると笑顔のタチアナママ、侯爵夫人が待っていた。
示された椅子に座ろうとすると、静かに侍女さんが椅子を引いてくれた。
「ありがとう」
「いいえ」
ボクが座るのに合わせて位置を調整してくれた
侍女さんは浅く頭を下げるとタチアナママの後ろに控える
その間に別の侍女さんが紅茶を淹れて目の前に置いた。
「マロンちゃん、朝食はどうだったかしら」
「美味しかった、です」
「そう良かったわ」
ボクは何とか敬語を意識する
食事を摂った部屋から移動する時にクロスケから
「一応、奥様と話す時は敬語使えよ」
と言われたからだ。
言われないと気付かなかった
ボクはずっと普通に話していたつもりだったけど
立場や年齢、相手に合わせて話し方は変わる
基本は歳上には敬語、貴族相手にも敬語
そう言えばエリーも公爵と公爵夫人、レオン、タチアナ、アランと話す時の口調と雰囲気が違っていた。
クロスケが言うには
「正しい敬語は流石に教えられないけど、相手に敬意が伝わるならそれで必要十分だと思うぜ」
との事だけど、ボクはそもそも敬語が中々出てこなかった。