貴人
「それではマロン様、お着替え失礼しますね」
「え?」
音もなく侍女が数人に増えるとキャイキャイとはしゃぎながらパジャマを脱がされる
「はあー、なんて綺麗なお肌なの」
「朝日に透けてるわ」
「今日は天気が良いし明るい色かしら」
「下着は?」
「勿論白一択!」
「あ、あの」
「はあはあっ、び、美少女の生着替えっ」
「姫様は色素が薄いから、群青のワンピースとかいいんじゃない?」
「赤は?」
「オレンジ色の方が雰囲気には合ってるんじゃないかしら」
「ちょっと、待っ」
「あん、もう!靴はサイズ合うの黒しかないわ」
「奥様にお願いしてみましょ」
「赤とブラウン、グレー、最低でも三足は必要よね」
「あの、ボク、お金ない・・・」
ボクのひと言に盛り上がっていた侍女さん達はハッとして悲しそうな顔になった、中には涙を流す人まで
なんでだろ?
「「「お労しや・・・・・・」」」
ボクの声がやっと耳に届いたみたい、でも・・・
「苦労してきたのね」「ボクだなんて、これまで男の子として振舞って・・・」「姫様、ううっ・・・」
「え、姫じゃ、」
なんか分からないけど分かった
話が微妙に通じていないような気がする。
「あ、そういえば! 昨夜お身体を洗わせて戴いたのですが、香油と石鹸は肌に合いましたか? 普段は何を使っていらっしゃるので?」
「え? えと、」
香油と石鹸?
確か前にエリーとエマリーが話していたのは・・・
「スウィートローズのロイヤルハニーだっけ?」
「やっぱり!」
「一級品じゃない」
「スウィートローズなんて一見さんお断りのお店なのに」
「ロイヤルハニーって、あの一瓶金貨数枚は下らない・・・」
マロンはエリザベスと毎日お風呂に入っていた
オコジョの肌が荒れることも無かったので、エリザベスと同じものを使って洗われていた。
公爵令嬢が使用する物は当然一級品な訳で
マロンは値段やネームバリューを気にしていなかったが
神掛かった容姿、肌の美しさ、労働など知らない綺麗な手、一級品を使っていた、などなど。
多くの要素が侍女達の妄想を捗らせた
昨晩の内に侯爵夫人が「あの子の身元に関する詮索はなしよ」と言ったのも誤解を助長していた。
身元を探るな、つまり何かある身の上
怪我は別にして手荒れを知らない肌に、女っ気のないアランが連れて来た少女
一人称はボクなので、きっと性別を偽り男の子として生活してきたのだ、髪も短いことから説得力がある
とは言っても、どう見ても女の子だ
つまり性別を偽れなくなって何者かに追われ、アランに保護されたのでは?
昨夜の王家の馬車襲撃も関わりが・・・
貴族の庶子?
王家のご落胤?
他国の姫?
そんな壮大な物語が形成されていた。
クロードがノックをして「おーい、朝食届いたけどー」
と呼び掛けるまでマロンは着せ替え人形にされ、妄想は留まることが無かった・・・