男二人
スー・・・、スー・・・
寝息をたてるマロンを抱え直し、そっと目元を拭う
人になって戦い、住処を追われ
悲しくて泣き、嬉しくて泣き、感極まって泣く
全てに全力で体力気力を使い果たしたのも当然だった。
「アラン慣れてんな」
「小さい妹の時と一緒だからな、同じ女の子だし大体は」
「あー、タチアナね・・・」
どうりで慣れてると思ったわ、ふーん・・・
とクロが納得したところでピタリと止まった
「えっ!?コイツ、メスなの!?」
「クロード、女性に対して雌なんて言うんじゃない」
「あ、ごめん、・・・じゃなくて!」
クロードはマジマジとマロンを見た
黒猫とオコジョの時に仲良くしていたが、わざわざ性別を確認するなんてこともなく
マロンの一人称が「ボク」なので男だと思い込んでいたのだ。
「眠る女性の顔をあまり覗き込むんじゃない」
「あ、ああ、涙でグチャグチャの顔で襲いかかってきたから気づかなかったぜ」
マジかよ、顔は良いし、強さチートもあるし
俺は前世と殆ど同じなんだけど・・・
神様、贔屓が過ぎねえ?
アレか? 前世記憶持ちだとそういうのナシか?
ブツブツとクロードは神様に不平不満を漏らした
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侯爵邸に帰ると、エントランスに家族全員が待っていた
「全員待っていたんですか?」
「血塗れの服を着た息子が慌てて出ていったのに、呑気に寝てられる訳ないだろう?」
「まあまあ!この子がマロンちゃんなの?」
「わー、オコジョの時も美人さんだったけど人になっても案の定だね」
「クロードに続いて、エリザベス嬢のマロンさんもか」
父、母、タチアナ、兄ウィリアム、各々が口を開く。
「クロード、アランからマロンちゃんを」
「あ、はい」
「母上?」
「あなた、ウィリアム、アランの話聞いておいてね、タチアナ行くわよ」
「はーい」
口を挟む隙もなく夫人とタチアナ、マロンを受け取ったクロードはそそくさとエントランスから消えていった。
アランは状況が掴めずにポカンとなった
父と兄に視線を向けると二人は苦笑しながら説明してくれた。
「クロードの時に父上が強硬なことしただろう?」
「ええ・・・」
「だから今回は私の番よ、って母上が仰ってね、父上もクロードの件があるから強く出れなくて」
クロードが人化した時は夫人とタチアナがお茶をしていた時であった。
お茶をする二人の傍で寝ていたクロが、中空を見つめてニャンニャン鳴きはじめたかと思えば、突然真っ白に光り輝き人に成ったのである。
クロは神様が来て身体出来たから、はい!と言われて慌てた。
色々と準備というものがあったから、少し待てと言っても神様は自分勝手なので聞き入れて貰えない
女性二人の前に全裸を晒したクロ、あまりの光景に考えがついてこない夫人とタチアナ、口を開けて固まる傍付きの侍女。
いち早く動いたのは侍女、クロを床に叩き付けるようにして拘束した。
そこからは大騒ぎ
夫人とタチアナが「この男はクロだから」と主張しても
侯爵は妻と娘に裸を晒した男に怒り心頭、そもそも猫が人になるなんて馬鹿な事を、と聞く耳を持たない。
結局クロが侯爵の信頼を得るまで時間が掛かり
紆余曲折の末に漸く(監視付きで)出歩けるようになったが
この件については侯爵が全てを取り仕切り、黒猫クロは死んだことになり、従者見習いクロードとして屋敷内を動けるようになったのはごく最近であった。