アランの長い一日 1
公爵様から聞いた家令の怪我の話
自分の中の確信に近い可能性を話すか迷ったが止めた。
公爵家の家令が賊の侵入時に大怪我を負わされた
しかも公爵の目の前で、というのが頭が痛い。
明確な調べと、信ずるだけの証拠を提示しなければ公爵も納得しないだろう。
あの子の気持ちを慮れば、一連の行動も筋が通っているのだが・・・
現状では貴族を害した傷害事件、殺人未遂もつくのだ
一度侯爵家に戻ると父と母が上の兄とエントランスで立ち話をしていた
盛装から着替えたタチアナも居る
「父上、母上」
ちょうど良かった
「!?アラン、なんだその格好は、怪我を」
「メイリース!お医者様を手配して」
「は、はい!」
「アラン大丈夫か!」
「お兄様!?」
アランの姿は襲撃を受けた時のままなので返り血やら切り傷、汚れでまともではない。
侯爵は目を見開き、侯爵夫人は慌てて医者の手配、上の兄ウィリアムは駆け寄り、タチアナは腰を抜かした。
「あ、これはまあ大したことありません、ちょっと襲われまして」
「襲われた!?」
「あー・・・、詳しい事は後ほど、今は急ぎますので馬車を借ります」
「ちょっと待て!襲われたと言うのは」
「えー、レオン様がエリザベス様を送る途中に賊に」
「なんですって!エリザベスは?無事なの?」
「大丈夫、大丈夫だから!俺もかすり傷だけだし、レオン様もエリザベス様も無事だ、二人は城へ戻ったし、公爵家にも連絡は入れた」
いかん、確かに自分の姿を大丈夫と言うには酷すぎたな
アランも気が回りきってないことに気付いた、疲れてる。
「取り敢えず詳細は後で、クロードを連れて行きたいのですが」
「クロード?何故・・・、いや急ぎなんだな、誰かクロードを呼んでくれ」
兄ウィリアムは冷静なアランが珍しく気がせいている事に気がついた
「アラン、・・・サマ、俺に用って?」
一人の従僕が呼ばれてエントランスに姿を現した
「クロード話は移動しながらする、来るんだ」
「了解」
軽妙な口調で答えるクロードの態度は使用人と言うには敬意に欠けている
「お兄様、まさか・・・」
「その、まさかだ、ただあまり状況は良くない、誰よりも先に保護しないと」
「アラン、人手は要らないのか?」
「王族が襲われた直後なので、侯爵家の人間を深夜に出すのはマズイでしょう」
要らぬ勘繰りをされては堪らない
「分かった、必要なら言いなさい」
「ありがとうございます」
家族は皆察しが良く、アランはクロードを連れて馬車で再び出掛けた。
パーティー後に、一戦交えてからで疲労もあったが今夜中にあの子を見つけておいた方が良いと判断していたので、多少の無理は承知の上である。