家出
パキン
「は?」
アンドレアスが振るった剣は根元から折られた
足を狙った一撃を完全に読んだマロン
剣のギリギリの間合いを見極め、自身の正面を空振りして通り過ぎる瞬間の剣の腹を全力で殴った結果である。
あっけに取られたアンドレアスは刃のない剣を手に思い知る
目の前の子供には絶対勝てない
警備としては畏怖を、戦士としては憧れさえ感じた。
気を逸らしたのは刹那
懐に入られた、やられる!
覚悟はしていた、警備という役職である以上
公爵家に危機が迫った時に自分達が盾となり剣となって戦うのだから、怪我もするし、負ければ死ぬ。
ス・・・、と手が上がった事でアンドレアスは歯を食いしばった
まあ食いしばったところで素手で剣を破壊する相手なので無意味だが。
「?」
「これ」
「え?」
「アダムスが知らない人から受け取ってた毒っぽいの、エリーの部屋に置こうとしてたから」
「・・・は?」
マロンはアンドレアスの手の平に毒の瓶を置くと、今度はアダムスの方へと歩みを進めた。
大の大人が怪我をして満足に動けない為、未だ警備二人は退かせずに手間取っていた。
アダムスを上から押さえ付ける、下の警備二人はズシリと掛かる力の強さに驚愕した。
「な、ぐっ、旦那様逃げっ」
「パ、・・・・・・公爵」
「・・・目的はなんだ」
公爵は傍から剣が殴り折られるのを見たのか、顔色が悪い
それでも貴族の振る舞いを崩さないのは流石公爵である。
マロンは公爵から怯えを感じた事で余計に落ち込んだが、今更気にしても仕方ないと諦めた。
「アダムスがウチを裏切ったんだ 、さっきエリーを襲った奴らの一味と組んでるかも、」
「・・・」
エリザベスの話をしたことで公爵の眉がピクリと動く
基本ポーカーフェイスを崩さない公爵も、愛娘に関してはそうもいかない。
「大丈夫エリーは無事だよ、アランが頑張ってた」
返事を聞く必要は無い、だから必要な事だけ勝手に言った
「アダムスの懐に白金貨が数枚ある、受け取ってた」
「な、旦那様、嘘ですっ、これは罠ぐあああっ」
「黙っててアダムス、ボクは公爵と話をしている、公爵、信じるも信じないも公爵次第、でもエリーを護るなら使用人を全員調べ直した方がいいと思う、そもそも男の入室が禁止されている部屋にアダムスが踏み込んだ事自体がおかしいんだ、調べて」
「キミは・・・」
ゴキン
鈍い音が部屋に居る全員の耳に届いた
「ギャアアアアッ、あ、ガッ、ううあ」
「なっ、何を」
ボクはアダムスの足も折った
さっき戦った時は夢中で意識しなかったけど、最悪な感触だ。
一歩引いた公爵に背中を向ける
瓶を持ったまま固まるアンドレアスの横を通り
ボクはクッションを拾ってバルコニーから跳び降りて屋敷を後にした。
さよなら