人として 3
「ふう」
悪いやつらをたくさん倒した
騎士さんは剣を納めて襲ってきた人たちを縛り上げたり、傷口を塞いだり、既に尋問を始めている人も居た。
アランは無事みたいだし、エリーの乗る馬車も何本か矢が刺さっていたけど大丈夫そうだ。
うん・・・
終わりだね
ボクは来た時と同じように屋根に跳んだ
屋根上から馬車を見ると、中でレオンに抱きしめられているエリーが見える
「カーテンごめんねエリー、さよなら」
返すつもりで急いで剥がして来たカーテンは血と土で汚れ
何ヶ所かスッパリ切れていた
元々エリーの部屋のカーテンは淡いピンクだったけど
ある日模様替えで選んだものはレオンの瞳と同じ色の深い色味の青
照れながらボクとエマリーに零すエリーはとても幸せそうで、だからボクは謝るしか出来なかった。
さよなら
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ボクは、お屋敷から出るつもりだった筈なのに
無意識にエリーの部屋に戻って来てしまった
行く宛なんて無いけど此処には居られない、そんな自分に苦笑する。
「これくらい、貰って行ってもいいよね?」
オコジョの寝床であるバスケットに敷かれたお気に入りのクッションを持った
エリーが刺繍を覚えてから、初めてボクに作ってくれたものだ。
早くこの場を離れるべきなのに、ゆっくりと思い出に浸る様にエリーの部屋を見回す
拾われた頃は毎日一緒のベッドで眠ったっけ
ずっと離してくれないエリー・・・
お風呂は毎日一緒に入ったし
ブラッシングも必ずエリーがしてくれたね
家庭教師の先生の講義も一緒に受けたな
・・・えへへ
やだよう、別れたくない!
クロスケに言われた時から覚悟していたのに
エリーと離れたくないっ
グズグズと逡巡しているマロン
長居してもいけないのに、寂しい悲しい気持ちで足が動かなかった。
スウー・・・
そんなマロンの目の前にあった廊下へと繋がる扉が音もなく開かれた。
ボクは奥にある寝室へと隠れる
扉を薄く開けて様子を見た
家令のアダムスだった、なんでエリーの部屋に
エリザベスの部屋は公爵によって『男子禁制』となっている
長年仕える護衛、執事、家令も例外ではなく
婚約者レオン、従者アランが特例として認められているのだ。
それも必ず侍女が同席の上でレオンは兎も角、アランは室内側の扉の横にのみ居場所を認めるなど徹底した管理がされている。
やり過ぎだが、公爵のかわいいかわいいひとり娘なので仕方がない反面、夫人は呆れ、内情を知ったレオンとアランは苦笑いを浮かべていた。
当のエリザベスは「そういうもの」だと思っているので気にしてはいない
余所の家のルールに触れることも少なく、友人のタチアナは普通に部屋に入っていたのでこのことは知らない。
そんなエリザベスの部屋に、主不在の中でノックもなしに入り込んだ家令アダムス
マロンはおかしいと感じ、寝室からアダムスの様子を窺い始めた。