人として 1
眠気との戦いの中、エリザベスを見送ったマロンは侍女の手でエリザベスの部屋にある寝床に置かれた。
スヤスヤと眠っていたマロンは、ふと呼ばれた気がして起き上がった
目の前には真っ白な光の玉が浮いている
「おっまたせー☆ 身体出来たよっ」
軽ーい物言いのソレはいつの日か聞いた神の声であった
来ちゃった・・・
ずっと待っていた筈なのに、今は嬉しくない
もう此処には居られないんだ
心中、落ち込むマロンを余所に神の玉は一方的に話す
「じゃあ、えい☆」
神が言うとマロンのオコジョボディーは光に包まれた
とんでもなく眩い光、不思議なことに神の光は窓の外にも扉の外にも漏れることがなかった。
ほどなくして光が収まるとそこには人の身体を手に入れたマロンが立っていた。
身長は120cm前後、オコジョの毛と同じ栗色の髪の毛にライトブラウンの瞳
神謹製の肉体のためか肌はシミもなく均整の取れたスタイル、万人が見て万人が美しいと称するであろう容姿を持っていた。
「いやあ、人の身体を創るのは大変だったよー! 取り敢えずわたしなりに人並みに創ったけど、あとはテキトーに慣れてね、あ、そうそう!本来は神が色々と干渉するのは問題なんだけど、少し待たせ過ぎたお詫びに教えちゃう、大サービスだゾ☆」
マロンの返事は聞いていないのだろう
神とは勝手な存在筆頭なので、会話しているようで会話は成り立たない。
「キミの飼い主のエリザベスちゃん今襲われてるから」
「えっ!?」
「場所はぁ、ここら辺」
流石の神、マロンの脳裏に馬車を取り囲んで争う光景が浮かぶ
あの場所なら知っていた。
マロンは心の中でエリザベスに詫びる
カーテンを引きちぎって体に巻き付けると窓を開けてバルコニーから飛び出した。
神謹製の身体はとんでもなかった、二階から飛び下りても問題ない
数メートルある外壁も跳躍で軽く飛び越えた
エリザベスを助ける為に一直線に駆ける
屋根の上に乗り、普通の人間では有り得ない身体能力を以てエリザベスの元へと向かった。
「・・・でね、彼は元気にしてるんだけどぉ、・・・に居るから会いに来いって言ってたよ、いい度胸してるよね神を伝言板扱いって、キミはオコジョ年齢と一緒の12歳ね、彼は前世引き継ぎだから少し上だけど、本来の年齢よりは若返っている感じでぇ、、って、アレ?」
勝手に話し続けた神はとっくの昔に居なくなったマロンに漸く気付いた
「もー、せっかちなんだからぁ、折角決めゼリフも三年掛けて考えたのにぃ」
神と人の時間は違う
実は身体自体はもっと早く完成していたのだが
うっかり昼寝したり、決めゼリフとやらを考えていたりで、これまたうっかり数年過ぎてしまったのだ。
下手をすると数十年単位待たされる危険もあったので
12年待たされた程度なら御の字であったのだ。
なんとも恐ろしい話である・・・
「じゃあね人間、良き人生を」
そう言うと神の玉は消え去った
数年掛けた癖に人並みなセリフだし、そもそも誰にも聞かせていない辺り本当に本当に勝手な存在だった。