夜会
王城の夜会はそれはもう盛大なものだった。
王太子の婚約者である隣国の姫の歓迎会
つまり未来の王妃となる女性を友好的に迎えるのだから
王家の威信、そして国の威信を以ての気合いの入れようである。
一流の音楽家達による演奏
最高の料理とワイン
装飾品や花の一輪でさえも、高位の貴族でもそうそうお目にかかれない程の華やかなパーティーとなっている。
王太子と姫はとてもお似合いだった。
他国へと訪れた姫の表情は緊張から最初は堅かったが
王太子が姫の耳許で何かを囁くと顔を真っ赤にしていたり
逆に姫が扇子で口元を隠して王太子に何かを言うと
王太子がくつくつと笑って笑顔を見せたりで仲の良さが伺えたのである。
国の友好の為の婚姻であるが、どうやら上手く行きそうだと皆胸を撫で下ろした。
互いの利の為に足の引っ張りあいも時として行う貴族だが
それも国あってのもの
流石にお披露目も兼ねたこの場で、仲の良さそうな王太子と姫の機嫌を損ねる程の愚か者は居なかった。
いつものようにエリザベス公爵令嬢をダンスに誘う王子リオンが居たが、姫の方へリオンが行かない分まだマシだと珍しくエリザベスが手を取っていたくらいしか変わった事は無かった。
レオンは一瞬不機嫌な顔を出してしまったが
和やかな空気の会場に水を差すのも不粋なので
「いい加減リオンも相手を決めろ」
と言ってダンスを許したのだった。
「相手、ね、まあいずれなレオン?」
レオンは何か含んだようなリオンの言い方に疑問を持ったが
丁度曲の切れ目でダンスホールへとリオンは行ってしまったので詳しく聞き返せなかった。
その後は姫の周囲に高位貴族家の令嬢が集まり縁を繋いだ
公爵令嬢エリザベスを筆頭に
侯爵家のタチアナや他の令嬢らで今後の社交界を盛り上げ取り仕切る為、そして隣国から来た姫の人脈作りである。
無論、王太子も隣国からの客人と各々が国の為、家の為に動いた。
公爵夫妻は早めの世代交代を考えている為、他家よりひと足先に屋敷へと戻っていった
エリザベスとレオンは最後まで会場に残りその務めを果たす。
帰りの馬車では城に残る予定だったレオンとアランも同乗した
「まさか馬車に詰め込んでハイドーゾなんて出来ないだろう、ベスを屋敷の中まで送り届ける迄が俺の務めだよ?」
彼はマメな男で、昔からエリザベスを大切にしていた
だからこそ公爵も最近になってレオンを認めるようになったのだ。
「ありがとうございますレオ様・・・」
馬車の中で漸くエリザベスは淑女の仮面を取った
ほう、と小さなため息を吐く、マロンが心配だった。
明日は大規模夜会の翌日で休み
それ以降も大きな予定は無いのでマロンの傍に居られる
「お疲れ様、ゆっくりするといい」
レオンは何も言わずにエリザベスの肩を抱いて労った。
「はい」
エリザベスも素直にレオンに甘えた、ゆっくりと体を預ける。
ヒュ ヒュンッ
ゴッ、ドン、ドン・・・
「何の音だ?」
「レオン様、エリザベス様をそのまま抱えて下さい、エマリーさん失礼します」
「なに?」
「え?」
アランが言うや否や
ブルルッヒヒィーーン!馬の嘶きと共に衝撃と振動が馬車を襲う
ドガガガガガ!!
「キャアアー!」
レオンはエリザベスを、アランはエマリーの頭を守るように抱き締めて体に力を入れた。




