別れ
「マロン、最近元気ないけど大丈夫?具合悪い?」
大丈夫、何もないよ
ある日を境にオコジョの元気がなくなった
まるで何かを考え込むかの様子は、エリザベスは勿論、侍女エマリーも公爵も公爵夫人も心配していた。
やはり寿命が近いのでないか・・・
特にエリザベスはマロンが屋敷に来た当初の時のように構うようになっている
今も膝の上に乗せて優しく撫でている
そんな心配を余所にマロンは元気だ
体は元気なのだが、ローラン侯爵家のお茶会の時にクロと話した事が頭の中をグルグルと掻き混ぜて考えがまとまらないので落ち着かない。
考えても考えてもいい案は浮かばない
考えれば考える程、クロスケの話が正しいと思ってしまう
自分が人間に戻ったとして公爵家に居られるか?
多分、ムリだ
只の不法侵入、不審者として捕まっておしまいになる
自分がマロンだと証明する事が出来ない
言葉を重ねてもオコジョが人間になりました、なんて想像の埒外を思い付き受け入れる人がどれだけ居るだろうか・・・
「エリザベスお嬢様、お手紙が届いております」
侍女が持ってきたのは、ローラン侯爵家の印が押された手紙だった
「タチアナからだ、なんだろう?」
今日は休日で会う予定は無い
でも毎日学校で会ってるのに、わざわざ手紙を送って来たという事は何かあったのだろうか?
疑問を感じながらもエリザベスは封を切ってタチアナからの手紙を読み始めた。
撫でる手が止まったからエリーの顔を見上げると
エリーは顔を強ばらせていた
どうしたの?
はくはくと口を動かしても声を発することはなく
テーブルに手紙を置くと、エリーはボクを持ち上げて抱き締めた。
「キゥ?」
エリーどうしたの?
文字盤を叩かなくてもボクの意図を汲み取ってくれるエリーが中々話そうとしない。
「マロン、落ち着いて聞いて」
「?」
どれくらいボクを抱きしめていたか
漸くエリーが口を開いた、その表情は堅い・・・
「タチアナからの手紙には、、」
うん
「クロくんが亡くなったって、」
え? クロスケが、死んだ?
何も考えられなくなる
普段は深くモノを考えない楽天的なマロンでも、流石に身近な存在の死に呆然となった
出会った時、クロが同じ境遇の仲間で話せる相手を見つけたと喜んでいた
それと同じくマロンもいつの間にか頼れる仲間として信頼するようになっていたのだ。
記憶が空っぽで恐らく人間らしいと思っているのも
神様という存在に「身体が出来るまで待ってて」という言葉と、ぼんやりと人間らしいという吹けば飛んで消えてしまいそうな淡い記憶のみ。
マロンは人としての意識は文字通りオコジョ生の12年
対してクロは前世の記憶を持ち越しているので通算の人生と猫生を合わせれば30を越える大人であった。
クロとマロンはお互いに仲間意識を持つと共に
クロは大人としてマロンに接し、マロンはクロを頼れる相手として信頼していた、しかし・・・
もう、会えないの?
こと、ここに至ってマロンは失った存在の大きさに言葉を無くし涙を流した。