日常は崩れて
「という訳なんだけどさ、どう思うクロスケ」
「いや、どうもこうも俺らの出番無くね? 王子と公爵家の権力ならじきに解決するだろ」
「え、でも心配だし、嵌めようとしている奴ら許せなくない?」
ボクが学校でアランから聞いた事と実際に見た事を話すと、クロスケは呆れたように言った
「あのなぁ俺達は猫とオコジョなの、下手に歩き回って蹴っ飛ばされたりしたら大変だろうが!
貴族ってのはな鬱屈して偉そうにふんぞり返った奴らばかりなんだ、あまり外をうろちょろするんじゃねえよ」
「えー?エリーはうっくつ?してないし、偉そうじゃないし、ふんぞり返ってないよ? まさかタチアナちゃんは家では・・・」
「んなわけあるか!タチアナはいい子だ」
「じゃあ、まさかアランが家では?」
「いや、一般論だって、ウチの・・・ローラン侯爵家はまともな人しかいない」
「でも一般論って・・・」
「ウチはそうでも親類一同そうかと言われたらそうじゃないだろ? そういう事だよ」
「おー、なるほど!確かに親戚の人ですごいの居たりはするね、ボクは皮を剥がされそうになったことあるよ」
「か、皮!?」
クロスケは僕の話を聞いて驚いていた
公爵領の一部を預かる貴族の子供で、ボクを見て
「まあ!素敵な毛皮ねえ、とてもいい素材になるわ」
って、言われたことがある。
オコジョの毛皮は高級品で、令嬢夫人方の間で結構人気があるらしい
まあそんな事を口走って以来、一度も顔を見ていないから多分出入り禁止になったと思う・・・
流石にボクも本気で逃げちゃったからね
「それよりマロン、お前この先考えてるか?」
「え、先?」
「人の体を手に入れたらどうする、って事だよ」
「別に何も」
「バカ、まさか人に戻ってこのままの生活を送れると思ってるじゃないだろうな?」
「え」
クロスケが言った言葉にボクは真っ白になった
「いいか俺達は言わば身元不明の人間になるんだ、過去も出自も国籍も全て分からない、そもそも今の記憶を引き継いだまま人になれるなんて保証も無い」
あ・・・
そうだ、言われてみれば・・・
でもエリーに、
「そして、仮に今の俺らがそのまま人になったとして、タチアナやローラン侯爵家、マロンにとってはエリザベスやマスティーゼ公爵家がペットが消えて突然現れた人間を迎えてくれるか分からない、いやどんなに調べても何の情報も出ない人間なんか家に入れないだろう」
「・・・」
エリーとお別れ?
ヤダ、そんなのヤダ・・・
「で、最近の俺達は睡眠時間が増えている、これは俺は人の体に戻る前兆だと思ってる、もしかしたらあまり時間が・・・」
「・・・」
やだよ、やだ、やだ
「おい、聞いてるのかマロン」
「・・・」
イヤだっ
「お、おい」
「マローン、そろそろ帰るよ」
「もう時間か、いいかマロンどっちかが先に人になったら・・・・・・だぞ、いいな!?」
マロンが呆然と動かない所へエリザベスが来て、抱き上げて帰って行った。
二週間に一度ほど、定期的にローラン侯爵家かマスティーゼ公爵家かで集まって交流しているので次に会った時にでも詳しく話し合おう、そう考えたクロであったが
マロンとクロが会う事はこの日を境に来ることは無かった・・・