奪われた王子
「アラン、お前マロンの婚約者だろ何とかしてくれ」
「レオン様こそエリザベス様の婚約者ですよね、何とかして下さい」
侯爵家にレオンが見舞いに来て話していたのは互いの婚約者について。
2人は現状に危機感を抱いていた
「ベス、次の水の曜日なんだけど、色々あったから気晴らしに王家の保養地にでも行かないか?」
「ごめんなさいレオ様、マロンと約束をしていて・・・」
「そ、そうか」
「マロン、今度クリス経営のレストランが開店するみたいで一緒に行かないか?」
「アランごめんね、エリーと約束してるんだ」
「そ、そうか」
レオンがエリザベスを誘うと、エリザベスに断られ
アランがマロンを誘うと、マロンに断られ
エリザベスとマロンは一緒に出掛けるといった事が最近続いていた。
「アラン、俺は昔こんな経験があった事を思い出したぞ」
「奇遇ですね、私もです」
あれは、そう10年前の事だ
レオンとエリザベスの婚約が結ばれ、一目惚れしていたレオンはどうにかエリザベスの気を引こうと頑張った幼少時。
当時5歳のレオンに気の利いた話題が出せる筈もなく
どうにか突破口にしたのはエリザベスと同じ歳のアランの妹タチアナだった。
タチアナは黒猫のクロを、エリザベスはオコジョのマロンを溺愛していたのでペットという共通の話題で笑顔を引き出せた。
問題はエリザベスとタチアナが「可愛いペット」の話題に夢中になって、あっという間に仲良くなった事だった。
レオンが口を挟む隙がないほどにお互いのペット談義で盛り上がり、当時は本気で自分も何か飼おうか考えた程である。
最近、過去のそれと似た状況が出来上がっていた
元々エリザベスはオコジョマロンを可愛がっていて
「マロンが人だったら・・・」
と零していた事もあり、待望の再会であるのはレオンが1番知っていた。
***
「私がマロンを守らなきゃ」
エリザベスはよく考えた
マロンが人になった事は嬉しい、でも貴族になって帰って来るとは流石に思っていなかった。
一緒に勉強をしていたし、先生の元でもしっかり教えられているのでマナーと知識だけはあるけど、やっぱり幼い面が多いと感じた。
貴族令嬢として隙の多いマロン
まだ未熟なマロンは人の善意しか知らないので誰かが守ってあげないといけない。
勿論イリア先生が率先して守るけど、私だってマロンを助けたい。
マロンは何度も私を助けてくれたんだから今度は私の番だ
「私がマロンを守らなきゃ」
うん、と頷いてエリザベスは胸に決意を秘めた。
「キーウ・・・、キーウ・・・」
偶に泊まりで侍女をする時は、一緒にベッドに入って眠るまで話をするエリザベスとマロン。
イリアの言う通り、眠るとオコジョに戻ることが多々あった。
エリザベスは優しくオコジョを抱きしめる
フワリと香るいつもの匂いと体温を感じながら穏やかに眠りに入った。