貴族令嬢
「分かりますわ! 普段キリっとしているからこそのギャップ!」
「レオンの前だと『私』だけど、それ以外だと『俺』なんだよ」
「まあ、そうなんですの? 物腰柔らかな態度もいいですけど、私は見たことありませんわ」
「あ、紅茶おかわりする?」
「ええ、ありがとう」
ボクとオデットさんは向かい合ってお茶をしていた
オデットさんはアランの事が好きらしい、ボクも好きだから仲間だね!
カップが空いたから新しく紅茶を淹れなおした。
「貴女、紅茶淹れるの上手ねえ」
「ママに教わったからね」
「ママ? ああイリア夫人の指導なら納得ですわ」
オデットさんはひと口紅茶を口に含むと、そっとカップを置いた。
「って、違いますわっ!?」
「え、美味しくなかった?」
オデットさんは頭を抱えた、どうしたんだろ?
「紅茶はとても美味しいわ、紅茶淹れる専門でウチで雇いたいくらい・・・、じゃなくて!」
「???」
「貴女、アラン様のなんですの!?」
「友達だよ、10年前くらいから、かな?」
「じゅ、10年前っ? そんな、それじゃあ私は完全に道化じゃないの・・・、いえ待って、マローネさん何歳?」
「12」
「12・・・、2歳の時から、ああ、だからアラン様は数々のお誘いを断って・・・、となると殿下の従者になった時点で? そうよね、次男と言っても侯爵家だもの生まれた時から婚約者が居たって不思議じゃない・・・」
「オデットさん?」
「となれば平民の養子と言うのも嘘? あのイリア夫人が身元を引き受けるくらいだもの、やっぱり噂通り王家のご落胤か尊い御方の庶子か亡国の姫? 本当だとしたら大々的に発表しないのも頷けるわ・・・」
オデットさんは何か考え始めるとブツブツと呟いた
ご落胤?
「この際アラン様は仕方ないわ、お父様はいい加減諦めろと言っていたし、多分別の婿を選定してる筈、となるとここは」
この時オデットの中で計算が為された
見舞いに来たものの全く脈のない様子のアランが今話題のマローネ・リュミエールと抱き合っていた。
マロンは怪我をしているアランを支えていただけだが、傍から見れば寄り添っている恋人にしか見えない。
そのマロンも推察するに貴い身分の出自の様だと誤解する
割って入っても利点は少ないし、婿はまた別の話として切り替えた。
アランに対しての想いはあったが、それだけの為に問題を起こす程溺れてはいない。
「うふふ、マローネさん私とお友達になりませんか?」
「お友達?」
「ええ、マローネさんも社交界ではお知り合いが少ないでしょう? ほら私は丁度同じ伯爵家ですし、ね?」
にこにこと笑うオデットさんの顔は違和感がある、作った笑顔だ。
「私達お友達になりましょう」
ママは言ってた、これを言う相手は簡単に信用しちゃいけない、必ず下心があるから相談する様にって。
「うーん、今度手紙送るよ」
「ありがとう、待ってるわ!」
「でも、」
「え?」
「エリーに何かあったら許さないよ、公爵も何かあったら首を撥ねてやるって言ってたから気を付けてね」
「ヒッ」
親切のつもりで言ったが、オデットにとっては公爵という後ろ盾の示唆、敵対行為は許さないと受け取れる脅しであった。
マロンとアランと親しい、アランはレオンの従者で、レオンとエリザベスは婚約者、マロンも公爵と面識があると繋がった。
与しやすいと利用する気満々であったオデットはあの神経質な公爵の影を見て背筋が凍った。