決戦 9
ボクは比較的広い空間に出ると元に戻った。
・・・あれ? ボク、オコジョになれたんだ。
ギャアアアア
外の方から叫び声聞こえて、トカゲリオンが暴れている。
こうしてはいられない!
「くらえ!」
ボクは壁を殴る、殴る、殴る!
一寸法師だとワルモノはすぐ「うーん、いてて、まいった!」ってなったのに、壁がグネグネとうねってドタドタと更に暴れている気がした。
大人しくしろ!えい、えい、えい!
ボクは手当たり次第に思い切り殴る
さっきは戦うのに一生懸命で忘れてたけど伯爵家の護衛のみんなから「殴る時は当たる瞬間に拳を抉ると良いですよ」と言われていた事を思い出したから、捻りも加える。
ギイイイエエエエ
なんか更に暴れてる気がする。
外の人が危ないかも・・・、急がなきゃ!
あっちこっちをキックも混じえてボクは全力で殴り始めた。
————誰も預かり知らぬ事であるが
マロンが殴り、恐竜が痛みに耐えられず暴れる
暴れるからマロンは更に強く殴る。
という恐竜にとっては地獄の様なサイクルに陥っていた・・・
***
「ぐっ」
マロンが飲み込まれてしまった
すぐにでも倒そうと無理をした自覚はあるが、今更引ける状態ではない。
恐竜が暴れるが簡単に離れてやるつもりはない、振り回される視界の中、騎士は取り付く事も出来ずにいるのが見えたからだ。
剣を押し込もうにもピクリともしない、逆に振り回されて抜けてしまいそうな感覚に必至に掴まる事しか出来ない・・・
「ギィアッ、ギャッ、・・・グエエエ!!」
「?」
耳障りな叫びに違和感を感じた
なんだ、と一瞬気が逸れたのが悪かった
唯一の取っ掛りである剣が抜けてしまった。
時が遅くなって見えた、俺は抜けた剣と共に空中に投げ出され、城の2階に居た王太子様とレオン様、クロードと同レベルで目が合った。
浮遊感、そして焦燥。
全身に冷たい汗が吹き出た、高すぎる、頭から落ちては堪らない。
どうにか身体をひねり、足から、いや、無理だ
「っ!」
近付く地面を前に、頭からだけは回避をしなければと強引に体勢を変えて肩から落ちた。
ゴキュと鈍い音、激痛、地面を何度か跳ねて漸く止まった
「あ、っぐうう・・・」
敵は待ってくれない、痛みが動きを阻害するがすぐに立ち上がる。
「アラン殿を守れ、大盾部隊1歩も引くな!」
「応!!」
恐竜を遮るように盾部隊が前に立つ
更に後ろから数人掛かりで盾持ちを支えた。
「アラン殿、下がってください」
「だがマロンが・・・」
「怪我人が居ても邪魔です、後は俺達に任せて」
正論だった、利き手の右腕は動かない
片手で振る剣が通じるとは思えない
だからと言ってマロンを置いて自分だけが安全な場所に行くのも違う気がした。
役に立てるとは思えない、それでも・・・
「はあ、アラン殿は存外頑固ですね、まさかそのナリでも引かないとは」
思い切りため息を吐かれてしまった
自分でも意外に思う。
「まあ好いた女性がああなっては男として引けませんよね、分かりました」
「なっ、待て俺は別に」
「騎士を1人付けます、離れている分には何も言いませんが此処から先へ進んだら殴ってでも下がらせます、ブリッド聞いていたな」
「はっ!」
「ちょっと、」
俺が言葉に詰まっていると、副隊長はさっさと指揮に戻ってしまって何も言えなくなった。
「囚われの姫様を救い出すのは騎士の誉れだ、意地を見せろ!」
「「「うおおおおおおおっ!!!」」」
激が飛び、騎士達が気合いを入れ直して再び恐竜へと向かった瞬間、恐竜は完全にひっくり返った。
「「「おおおおおおおお、・・・おお?」」」
恐竜は口の端から泡を吹いてのたうちまわる。
ふと見えた腹部がボコッ、ボコッと跳ねていた
まるで内から殴っているかのように・・・
「お、おい、まさか・・・」
誰かの驚きの声が聞こえる
恐竜は遂に大量の泡を吹いて白目を剥きビクビクと横たわったままになる。
最後に一際大きく腹がボンと跳ねたのは気のせいではないだろう。
「「「「・・・」」」」
気合いを入れたのに何もしないうちに倒れた恐竜を前にして騎士達は剣を下げて立ち尽くしていた、言葉もない。
そして、恐竜の欠けた歯の隙間から彼女は現れた。
じゃじゃーん!とでも言っているかのように
グレープフルーツくらいの大きさの真っ赤な結晶を恐竜の頭上で掲げるマロン。
綺麗な栗色の毛を見間違う事は無い
粘液でベッタリとしていたが傷のない彼女は・・・
「キウッ!!」
オコジョだった。
今年最後の投稿になります。
1話1000文字投稿が基本になっていたので話数が増える割には話が進みませんが、もう少しお付き合い頂けると幸いです。
ではまた新年に、良いお年を。