事件 5
眼鏡をクイッと上げた男が得意気に声をあげた
「エリザベス公爵令嬢はその身分を笠に彼女を虐げた!」
「教科書を破り!」
「制服を引き裂いた!」
「エリーがそんなセコいことする訳ないだろ!気に入らないなら公爵に言えば消えるんだから!」
「私は公爵家の名を汚すことなんてしません、虐めなんて低俗な行いを私がするとでも?」
「そもそもエリザベスが彼女やらを相手にする理由がないわね」
「こいつらバカじゃねーの」
ボクは呆れた、こんな事で人前で騒いだの?
リオンはバカなの?
エリーもため息を吐いているし、タチアナも、そしてクロスケも呆れていた。
婚約破棄とそれの何が関係あるのか分からない
ボクも察しは良くないけど、どう考えてもおかしい・・・
「なんか、おかしくね?」
「つか、そもそもこの場所でやり合う意味ないし」
「あのレオン殿下がエリザベス様と婚約破棄も、なあ?」
「有り得ないよな・・・」
「え、じゃあやっぱり、レオン様じゃなくてリオン様なの? なんでリオン様がレオン様に成りすましているの?」
周囲からも疑問の声があがる
「うぐぐ・・・」
「まだだ!エリザベス公爵令嬢は王子妃予算の私的流用を・・・」
今度はメガネじゃない方が声を張り上げた
「誰?」
「財務部のロクス伯爵子息よ」
「エリーって王子妃予算貰ってないよね」
「そうね」
「え?」
メガネじゃない方の目が点になった
確か、エリザベスは嫁入りじゃなくてレオンが婿入りするから王家の世話にはならん!って公爵が取り決めの書類を突き返して、それを見ていたレオンもエリザベスに贈る物は自分で稼ぐ、そうじゃないと公爵に認めてもらえない!ってなった筈だ。
ただ王家としても体裁があるから
王子妃予算を書類上は計上しておいて、婚姻を結んだ時の持参金に充てるとか何とか・・・
王子が持参金?って、財務部のナントカって人とか王家側の調整役の人とか全員変な顔をしていた憶えがある。
だからエリーの王子妃予算は誰も手を付けない筈で・・・
これを知っているのは公爵と公爵夫人、エリーとレオン、調整役の人と財務の人、王様と王妃様、そしてその話をしていた時エリーの膝の上に居たボクだけだ。
「・・・」
男の子は黙った。
「バカじゃねーの」
「クロード、ダメよそんなこと言っちゃ・・・」
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!」
2人は突然叫び声をあげると
髪を掻き毟り、目を血走らせ襲いかかって来た。
「マロン!」
「うん」
ボクは1歩前に出ると受けてたった
2人の顎を軽く撫でて気絶させる、一応頭を打たないように服を掴んで下ろした。
ゴン、ゴン
あ、ごめん大丈夫だよね?
弱っちいから手加減するの本当に気を遣う、エリーを押さえ付けた奴は鍛えてるっぽいからまだ良かったけど
屋敷のみんなと組手してなかったら加減も分からなくて危なかった。
「あ、お、れは・・・、うギ、ぁ、」
壇上を見ると一緒に居た女の子は居ない、リオンだけが残っていた。
なんか、様子がおかしい
「お、おい、リオン、王子ってなんか病気でもあるのか?」
「知らないわよ・・・、エリザベスは?」
「レオ様からは聞いたことも・・・」
「ゴ、ぐぇ、えリ・・・ずぁ、ス、おれ、・・・お前、こ、す・・・」
口からヨダレを流すリオン
目がギョロギョロと忙しなく動いて何処を見ているのか分からない。
異常な状況にヒソヒソと会話していた声さえも消える
大講堂で全ての視線は壇上のリオンに向けられた。