事件 4
「貴様!部外者は下がっていろ」
「ひどい・・・、痛いよねエリー、遅れてごめんね、もう大丈夫だよ」
フワリと濃紺のスカートをたなびかせて私の目の前に彼女はしゃがみ込んだ。
この制服はメイベル侯爵家、タチアナの所の制服だ
私は彼女の顔を見て驚いた
ライトブラウンの瞳、栗色の美しい髪の毛
その容貌はお父様が持っていた私の部屋に侵入したという子の姿絵とそっくりで・・・
そして目が合った途端に確信した
理屈で言えばこんなこと有り得ない、でも何故かそう思った
「マロン?」
私が確認するようにその名前を言うと女の子はハッと目を見開き、ライトブラウンの瞳はあれよあれよと泪で潤んだ。
あ、泣いちゃう、私が手を伸ばすと彼女はゴシゴシと乱暴に目を擦る
「えへへ、・・・うん、エリー」
目元を赤くした彼女、私の家族マロンは嬉しそうに笑った。
***
ボクはエリーに乱暴して押さえ付けている男の手首を握り潰した。
叫び声をあげても許してやらない
エリーの綺麗な金の髪がボサボサになって
レオンから贈られたエリーお気に入りの髪飾りが床に落ちて傷が入っていたからだ、お前なんかがエリーに触るな。
ボクは男の手を背中側に捻りあげてそのまま遠くに投げる
エリーに手を出したんだ、どうせ公爵が許したりしないから手加減なんかしてやらない。
リオンが喚いているけど無視だ
元々嫌いだったけどレオンのフリをしてエリーをいじめる奴なんて大嫌いだ。
エリーは震えていた、ボクは安心して欲しくて声を掛けた
「マロン?」
あ・・・
エリーが名前を呼んだ
ボクはボクとして分からなくてもエリーの近くに居られれば良いと思っていたのにエリーは分かってくれた。
公爵はボクのこと分からなかったのに・・・
嬉しくて嬉しくて胸が熱くなる
ジワりと視界が歪んだ所でボクは思い出した
いけないいけない泣いちゃダメだ、袖で涙を拭って笑う。
「えへへ、・・・うん、エリー」
いい女は人前で泣かない、泣くなら愛しい人の胸の中で、だ!
ボクは令嬢なんだから!
「貴様、俺の邪魔をしてタダで済むと思うな!」
「うるさい!エリーをいじめたバカの話なんか聞くか、バカ!」
「な、っば、バカ!?」
「バカだろ!それにレオンのフリしてこんな事するなんて卑怯者だ、バカリオン!」
ザワっ!!!
周囲が皆動揺する、エリザベス公爵令嬢に婚約破棄を言い渡した相手は婚約者レオン王子殿下ではなく、双子の弟リオンだという指摘に。
そして、どちらにせよ王族にはかわりない相手にバカと罵る侍女服を身につけた少女の言動に。
マロンも最近は令嬢が身につき始めていたのだが
エリザベスが目の前で害された事で怒りに染まり、止まらなかった。
「不敬罪だ、処刑して・・・」
「敬えない人間に頭なんか下げる訳ないだろ、バカ!」
「っ!?、き、貴様、名乗れっ」
「パパとママに貰った大切な名前をお前なんかに教えるか、バーカ!」
子供の喧嘩になりつつあるが未だ事態は深刻である
結局この場を収めるには1番の権力者であるリオンの差配が全てであった。
「エリザベス大丈夫?」
「あ、タチアナ、ありがとう大丈夫よ」
「もう、無理して・・・」
「痛っ」
一先ずエリザベスの言いたいことは、稚拙であったがマロンが代弁してくれた。
レオン王子に婚約破棄された、ではなく
リオン王子かレオン王子か分からないが婚約破棄を叫んだ
という可能性を周囲に意識させたのは大きい。
タチアナはエリザベスに寄り添って手を貸そうとしたが、エリザベスは押さえ付けられた際に足を捻っていて怪我をしていた。
「クロード、手を貸しなさい!」
「はいはい、あー、修羅場だよシュラバー」
エリザベスの侍女エマリーが見当たらないのでクロードが渋々手を貸してエリザベスは漸く立ち上がった。
「ええい、貴様など話にならぬ、おエあ、エ、ざべスと話が・・・」
「殿下、ここからは私が」
と、カッカしていた王子の左右から2人が前に出た
宰相の息子、眼鏡を掛けたオーガス侯爵子息と、財務部次官の息子、ロクス伯爵子息であった。
前話に引き続き誤字もどきがあります。
本物の誤字も多分あります。