兄と妹
「待ってー」
「待つか、バカ!」
ボクは今お兄ちゃんジュードを追いかけていた
普通に走れば追い付けるけど、ボクはドレスを着ているからママ曰く「品良く追いかけなさい」との事で、ドレスを僅かに持ち上げて楚々と早歩きだ。
1ヶ月も経ってジュードとまともに話したことはなかった
パパもママも照れてるから少し待ってあげなさいと言っていたけど、最近は好きに捕まえなさいと言われたので見つけると追いかけていた。
ジュードの全力疾走とマロンの楚々歩きが互角な為、中々捕まらずに困難を極めていた。
ジュードの方もここまで来るとただの意地しか残っていなかった、既に邸内はマロン勢力が築かれており、ジュードの味方は居ない。
「ねえ、お兄ちゃん待ってよ」
「待つか!アホ!バカ!俺に妹は居ない!」
逃げているのも楚々と歩いて(?)いるはずのマロンが恐ろしい速度で水平移動してくるので、反射的に逃げた事が端を発していた。
「むう、逃げられた・・・」
キョロキョロと周囲を見渡してもお兄ちゃんは見えない
ボクが知らない通路みたいなものがあるらしくて必ずどこかで見失う。
「はっ、はっ、はっ、・・・バケモノめ、ぜえぜえ・・・」
隠し通路の陰からジュードはマロンの様子を伺っていた
息も絶え絶えに逃げ切れているのは
屋敷内の構造を知り尽くしているからどうにかなっているのであって、体力的にはマロンが余力を十二分に残している。
ジュードは限界ギリギリ、マロンは重い筈のドレスとヒール付きの靴を身につけながらも息が上がることさえなく平然としているので確かにバケモノという表現は正しい。
「おや、逃げられたのかな?」
「うん」
「はっはっはっ、まあ諦めずに頑張りなさい」
大抵はパパの執務室にジュードも居るけど、今は戻って来ていないみたいだ。
ホランド、イリア共にジュードに強制する事はなかった
最低限の礼儀は通しなさいと諭すことはあっても、仲良くしろだとか、兄なのだからとは言わない。
「お兄ちゃん、此処に来る?」
「そうだねえ、多分来るんじゃないかな」
ふんふん、じゃあ執務室に隠れよう!
と言ってもパパの執務机と隣にお兄ちゃんの執務机くらいしかない、隠れる場所は・・・
「あ」
「ん?」
「パパ秘密ね」
「ん、ああ、何も言わないよ」
よし!ボクは跳んで天井に張り付く
シャンデリアもあるけど落ちちゃうかもしれないし、天井なら両手で突っ張れば・・・、出来た。
「ふ、ふふ、マロンは元気だね」
「?」
くっくっく、とパパが笑った
取り敢えずこのまま1時間くらい待つ事にした
***
「撒いたな・・・、執務に支障が出るじゃないか、くそ」
ジュードは追いかけ回されて喉が乾いたのでキッチンで水を飲み、程なく執務室へと向かった。
「すいませんでした父上、遅れました・・・」
「いや大丈夫だよ、何かあったのかな」
「・・・いえ、その、マローネに追い掛けられまして・・・」
「ふぅむ? いつまで逃げるんだ? 少しくらい家族に時間を割いてもいいじゃないか」
「・・・アランの、メイベル侯爵家から来た人間を信用しろと?」
「うーん、それは説明した筈だけど、侯爵家がウチに干渉する取り決めはないよ、あとマローネは腹に何かを抱えられる人間じゃない」
「・・・」
「まあ、今回の追いかけっこはジュードの負けだから、ある程度譲歩するように、敗者の言い訳は見苦しいから」
「は?」
「つーかまえたっ!」