お茶会デビュー 3
馬車を降りる、今日のお茶会会場はメイベル侯爵家だ。
侯爵家の寄子貴族、メイベル領地の一部をそれぞれ治める貴族の娘で12歳から14歳までが参加しているらしい。
主催は勿論侯爵夫人とタチアナ
会場の中庭へ勝手知ったる敷地をママと一緒に進んだ
中庭へ入るとそれぞれのテーブルに沢山の令嬢がお茶をしていた。
顔見知りの侍女がお世話の為に脇に控えていた
ふと目が合うとパチリとウインクされたのでボクもウインクを返す。
パチパチ
ボクは両目を瞑った
片目を瞑るって難しいよね、みんなは僅かに笑顔になると直ぐに顔を引きしめて仕事に戻った。
「侯爵夫人、本日はお招きいただきありがとうございます」
「いやだ、イリアったら他人行儀は止めて頂戴」
「礼儀は大事よ」
「ふふ、そうね、それで其方が養子の?」
「ええ、マローネ、侯爵夫人にご挨拶なさい」
「はい、お母様」
ボクは侯爵夫人に挨拶をした
勿論初めましてじゃないけど、社交の場に於いては初めましてだ。
「お初にお目にかかります侯爵夫人、この度リュミエール伯爵家の末席に名を連ねる運びとなりました、マローネと申します」
ドレスのスカートをつまみ、片足を引いて頭を下げて伏し目がちに、姿勢を崩さないように丁寧にカーテシーをした。
ん? ヒソヒソ話しが消えてシンと静かになった、なになに?
マロンがカーテシーをして5秒・・・、7、8・・・
侯爵夫人は応えない、つまり頭を下げた側のマロンは頭を上げることが出来ない。
侯爵夫人はパチリと扇を開き口元を隠した
それを見ていた同じテーブルの夫人ら、そして他のテーブルの令嬢らはくすくすと嘲る。
「平民あがりなど相手にしない」
そんな風に見えていたがそれは違った。
頭を下げて10秒・・・、ここまで来ると夫人達も気付く
カーテシーとは優美な淑女の礼として常識の所作である
その優美な礼は見た目に反してとても負荷の掛かるものだ
片足を後ろに引き、膝を折る
重いドレスを着てヒールのある靴で行う、それの難儀さはこの場にいる全員が知る所である。
貴族として養子に迎えられたという平民あがりが披露したカーテシーはブレることなく、ピタリと維持されている目の前の光景に夫人達らは驚くばかりであった。
ゆっくり数えて15秒、漸く侯爵夫人は動いた
扇を閉じてニコリと笑う。
「宜しくねマローネさん、歓迎するわ」
笑顔の侯爵夫人と伯爵夫人
侯爵夫人に認められたと驚愕する他の夫人ら
試されるお茶会はここに始まった。