オコジョ episode 1
偶に思い付きでエピソード差し込みます。
それはオコジョがエリザベスに拾われて迎えた初めての冬。
子供にありがちなペットに執拗に構う事にオコジョが慣れた頃合である。
エリザベスはオコジョとベッドを共にしていたのだ
毎日一緒にお風呂に入り、ブラシを自ら掛けた艶のある栗色の毛並み
お互いに温もりを感じながら寝ていた。
「ん・・・」
ふと目が覚めた
空気の冷たさがあるが、胸元に温かさと柔らかさを備えたオコジョがそれを上回る安堵感を齎していた。
「マロン」
いつもの様に優しく撫でて起こそうとしたのだが・・・
「えっ?」
エリザベスの手にはごっそりと抜け落ちた栗色の毛
慌てて寝具からオコジョを引っ張り出すと、全身がボサボサになり毛が抜けていた。
「きゃあああ!マロン!?」
早朝の公爵邸に悲鳴が響く
「お嬢様!!如何致しました!!?」
慌てた様子で侍女が飛び込んで来た
エリザベスを起こす為に近くまで来ていたので、悲鳴を聞き付け駆け付けたのだ。
「エマリー、マロンが!マロンが!お願いお医者様をっ」
「はっ、はい!」
エリザベスに抱きかかえられたオコジョは昨日まで見た元気な姿ではなく、ボサボサの毛にグッタリと脱力している様子が見て取れる。
屋敷の中でエリザベスがオコジョを可愛がっている事を知らない者は居ない
涙目で訴えられたならば、叶える他ないだろう
侍女から執事、そして公爵へと話が通るとすぐさま名医が呼ばれた。
「エリザベス様のご容態は!」
老医師が朝早くにも関わらず駆け付けた先で見たのは・・・
「ヒック、ヒック、マロンを助けてぇ」
ボロボロと碧い目が溢れんばかりに泣くエリザベス
そんなエリザベスを見て「あれ?」と目を丸くする老医師。
「エリザベス様がご病気なのでは?」
「マロン~、ぅぅぅぅ」
「先生、患者は此方のオコジョ、マロンで御座います」
「お、おこじょ?」
人じゃないの?
公爵から遣いの者が来て、やれ緊急事態だ、エリザベス様が、と言われて来た医師は気が抜けた。
とは言え、だ。
公爵が治せと言えば全力を尽くすしかない
数年前までは王族の専属だった彼は瞬時に状況を把握した
患者にとって、その家族にとって症状の軽重は関係無い
病気を取り除き安心させる、それが医師として果たすべき役割であると思っている。
相手がオコジョでも・・・
動物はちょっと自信が無い
まあ心臓があって、脳があって、目があって・・・
構成される内臓は人と変わらない、ハズだ
取り敢えず診る事にした。
「エリザベス様落ち着いて下さい、えっとそのオコジョ・・・」
「マロンです」
「マロン様を見せて下さい、」
「あい・・・、ぐす、ひぐっ」
「ふむ」
脈拍異常なし、呼吸正常、
「ふむふむ、なるほど」
ビクビクと怯えるエリザベス
まさか重い病気なのでは、最悪が頭を過ぎる
「換毛期ですな」
「かんもーき?」
「はい」
「かんもーきって、ひどい病気なの?」
「いいえ、病気では御座いませんよエリザベス様、毛が換わる時期と書いて換毛期と言います」
「??」
「最近は寒う御座いますね」
「え? ええ・・・」
「オコジョ、いえ大抵の動物は夏の毛と冬の毛は質が違います、夏は薄く熱が籠らないように、冬は厚く熱を逃がさないように毛が生え変わるのです」
「じゃあマロンは病気じゃないの?」
「はい」
「で、でも、全然目を覚まさないし」
そう、朝エリザベスの叫び声から今の今までドタバタとした中でマロンはピクリともしていない。
医師は目蓋をあげて確認する
「熟睡してますね」
「・・・」
エリザベスがボッと顔を赤くするのも仕方のない事だった
勘違いで騒ぎ立ててしまったのだから無理もない。
オコジョはそんな騒ぎも知らず
ぷう、と鼻ちょうちんをつくって爆睡していた
「きぅ、きい、・・・ふがっ」
すぴすぴと鼻息、寝言とヨダレも併せて・・・