エリザベス
私が王妃様の宮に保護されてひと月が経つ
王太子様と隣国から来られた王太子妃様のお披露目パーティーの帰り、レオ様と私の乗った馬車が襲撃されたからだ。
幸い護衛の騎士様が守って下さり助かったのだけど
王族の馬車が襲われた事は大問題で、その婚約者である私も狙われる可能性があるとして王妃様が事件解決か警備体制が整うまでは宮に居るよう差配なさった。
1週間に1度お母様が、2日に1度お父様が顔を見に来る
レオ様とは毎日食事を共にするようになった。
この生活に疑問はない、でもひとつだけ不満があった。
マロンが居ない・・・
ここ最近のマロンは眠ってばかりいるようになった
お医者様に見せても原因は不明、ただ10歳を超えたオコジョなんて聞いたことがないというお話をされた。
直接的な表現はされなかったけど、寿命なのではという事なのだろう。
私だって解っている、本で調べても野生で3年そこそこ
人に飼われても5年生きれば長生きと書かれていたのだから
拾った時の体格を考えると最低でも12歳くらいの歳を重ねていることは・・・
あの日の夜、眠ってばかりのマロンはフラフラと私の見送りに出て来た。
弱々しい姿に夜会へ行く足が鈍った
あんなに元気だったマロンが・・・
最後に見たマロンの姿が瞼に焼き付いて離れない
不敬だとは思ったけど、王妃様と王太子妃様に相談した。
マロンを王妃の宮に、と
レオ様にお願いをして最低でも王城内に置いてもらって会いたい。
すると王妃様も王太子妃様も快く頷いて下さった
私は御礼を言うと早速2日に1回来るお父様に言った。
「お父様、マロンを連れて来て下さい」
「ぁ、う、うん、いや待ってくれエリザベス、今マロンは寝ぼけていて暴れて手が付けられないんだ、指を噛んだりしてな、ハハハ・・・」
マロンが暴れる?
私はマロンのそんな姿は見たことがない
いつも私とお話をしていたし、静かにする時には何も言わずともジッとしていたのに。
「お父様、マロンが寝ているバスケットごと持って来て下さい、お気に入りのクッションの上に寝ているんですよね?」
「そそ、そうだね、いやあ、でも王妃様の所にペットを持ち込むなんて不敬だろう?」
「王妃様と王太子妃様には許可を取りました、是非連れて来なさいと仰られました」
「そ、そうかぁ、分かった・・・」
今思えば、この時のお父様は様子がおかしかった
結局この日から2日後、
「すまないエリザベス、バスケットを持ち上げようとしたらマロンが屋敷内を逃げ回って捕まえられなくて・・・」
「マロンが、逃げた?」
「あ、ああ!なんか触れられたくないみたいで、は、はは・・・」
「なら侍女のエマリーを行かせます、エマリーならマロンも安心して」
「い、いやいや!それには及ばない、エリザベスも身の回りから侍女がいないと困るだろう」
「?、城から行って帰って来るだけなら1時間も掛かりません、エマリー」
「はい、お嬢様」
私が行くのが1番良いのだけど、状況は私の外出を許してくれない。
私を除けば1番マロンと一緒に居たのはエマリーで、良く抱っこしていたし慣れている。
1時間弱、周りに居なくても特に困らない
お父様は何を言っているのだろう?
「オジョーサマ、マロンサマハ、コムギコヲツンダ、オクニニゲコンデ、ネテシマッテ、ダメデシタ」
意外と時間が掛かって帰って来たエマリーもおかしな事になっていた。