宝物できました
鐐様のターンです。
今回山吹様が活躍できなかったのですが、いつかはカッコイイところ見せますからね!
安心してください。
※12/2一部改編しました。
本当に修正多くてすみません……。
さわさわと頭を撫でる誰かの手が、たまに頬に降り指の腹で一撫でして、また頭に戻るというのを繰り返している。
初めて撫でられているが、すぐにその手が山吹のものだと解った。
--何せ、買い物中はずっと抱えられていたのだ。流石に覚える。
目を開くと上から覗き込む山吹の紅葉色の瞳と視線が絡まり、手が頬で止まった。
「……やまぶきさま、もっと、撫でてください」
少し舌っ足らずな話し方になってしまったが、目を覚ましたばかりなので致し方ない。
先程まで撫でられていた感触が心地よく、山吹の手に思わず頬をすり寄せる。
しばらく待っても、山吹からは反応が返ってこない。
子供っぽいと飽きられてしまったのだろうか。
「……鈴音」
鈴音からの要求が余程嬉しかったのだろう。
見上げた山吹は頬が上気し、瞳も艶を含んでいる。
どうやら無駄な心配だったようだ……が、色気が凄い。
「それくらいいつでも、いくらでも鈴音が望めば撫でてやる。……他になにかないか!? なんか欲しいものとかっ痛!」
「やかましいぞ山吹。奥方は万全の体調ではないのだろう? 先程貴様が言っておったでは無いか。嬉しいのは解ったからもっと静かにしろ。馬鹿者」
「だからって金属投げなくてもいいだろう!?」
「やかましいと言うておるだろうに。黙れ山吹」
余程痛いのだろう、山吹は涙を浮かべながら、後頭部を摩っている。
今まで横になっていた寝具--“べっど”という異国の物なのだそう--から起き上がると部屋の入口に 鐐 が立っていた。
どうやら 鐐 が少し暴走しかけた山吹を止めるために金属を投げたようだ。
その扉からベッドまでは少し距離がある。そんな状況で重い金属を山吹の後頭部目掛けて投げたのだろう。
なかなかの腕前である。
さすが神様。
鐐 が鈴音の近くへ歩み寄って来て、初めて--立派なお胸には既に対面しているが、正面からまともに対面したのは初めてだ--彼女を見たが、“しろがね”の名に相応しい、美しい白銀の髪をした同性でも見惚れるほどの綺麗な人だった。
身長もかなり高く、どう見ても山吹と同じくらいある。
鈴音と目線を合わせる彼女は、先程山吹を殺しそうに見ていた人物と別人のように、とても慈愛に満ちた柔らかな目をしている。
「そこの山吹から聞いたやもしれぬが、改めて名乗ろう。妾は 鐐 だ。金属の神とでも言えば解り易いかのう? ……先程はすまなかった。こやつがかどわかしてきた娘だと思ってな。…………ああ、誤解なのは先程この山吹から聞いた。……救うたつもりが危うく絞め殺してしまうとこだったようだ。体調は良くなったか?」
声も怒気がこもった戦士の声ではなく、まるで我が子に語りかけるように柔らかい。
「はい、だいぶ良くなりました。お二人にはかなりご迷惑おかけして、すみません」
今更ながら神様の寝室へ運んでもらい、その寝具を占拠してしまっているその状況は……とても気まずい。
「そんなに気にするな鈴音。むしろ、もっと俺を頼ってくれ……な?」
「体調が万全でない奥方を連れ歩いた貴様が言うな。……だが山吹の言う通り、あまり気にせずとも良い。……それよりお主の口から名を聞いても良いか?」
「すみません! 名乗ってなくて申し訳ないです……。改めまして、私は鈴音と申します。宜しくお願いいたします」
「鈴音か! 愛らしい名だのう。お主の声も鈴のようで……名は体を表すとはよう言ったものだ。鈴音、と呼んでも良いか?」
山吹はその提案にどこか不服そうであるが、鈴音にとってとても嬉しい提案だと分かっているのだろう。特に口を挟む気はなさそうだ。
「はい! 是非名前で呼んでいただけたら嬉しいです。……今まで、呼ばれたこと……あまり無かったので。………………あ、もちろん山吹様は名を呼んでくださいます! だから、落ち着いてくださいませ! お願いですから、その手に持った金属を離してください!」
鐐 はどこから取り出したのかは解らないが、先程投げていたものよりも大きな金属を持っていた。
鈴音の丁寧な説明と説得のうえ、渋々手放した。
「何故名残り惜しそうにしているんだ……。俺はさっき事情説明した時からちゃんと名を呼んでいるだろうに」
「ふん。そんなもの関係ない。妾は友人の鈴音が酷い扱いを受けてたことに腹を立てており、その発散させる対象は誰でも良いのだ」
山吹が 鐐 に対して何か吠えたてているが、その内容までは上手く入ってこない。
「……ゆうじん」
驚きのあまり、 鐐 を凝視しながら、思わず口から漏れ出た。
「いやか? 妾みたいな暴力神なんて友人に要らぬか?」
その言葉が聞こえた彼女が途端にしゅんと落ち込んだ。その様子を見た山吹も、これには少し驚いた様子。
……目が笑っているのは誤魔化せていないが。
鐐 がとても可愛い。背が高くてカッコイイ女性なのに、可愛い。とにかく可愛い。まるで、小動物のようにも見える。
「ち、違うんです! 友人って初めてで……凄く嬉しいんです」
しばらく惚けていたがすぐ我に返り、誤解している彼女に対し慌てて弁解する。
「……嬉しい、と思うてくれるのか? 鈴音はとても愛いやつだのう……。うむ、山吹抜きでいつでも遊びに来るといい! 友人である鈴音をいつでも歓迎するぞ!」
「……お前昔から同性の友人居なかったもんな」
「う、うるさい!」
どうやら初めてできた友人は、相手にとっても鈴音が初めてできた同性の友人だったようだ。
山吹にからかわれて頬を染める彼女は、神様というよりも、ただ綺麗な女性にしか見えなかった。
「まあ、俺も鈴音に友が出来るのは嬉しいし、それが 鐐 なら安心だ。だが、俺は鈴音一人で街を出歩かせる気は今のところないからな。というか、たまにはお前が山に来ればいいだろう」
「それは、そうなのだが……。妾も一人では街から出るのを咎められておってなあ」
「……は?」
山吹様の顔に『こいつ何を言ってるんだ?』と思い切り書いてある。それほどまでに意外だったのだろう。
「……そんなことよりも、鈴音は何か欲しい装飾品とかないかのう? 先程絞め殺しかけてしもうたから、お詫びに一つ造ってやろう」
どうだ?何がいい?とキラキラした瞳で鈴音の方に身を乗り出してきた。
あんなに高価なものを鈴音用に手造りして贈ってくれるというのだ。
どうしても遠慮してしまいそうになるが、
「お詫びも兼ねてと言っているが、 鐐 の本音は友人のお前に贈り物をしたいのが魂胆なんだ。……その気持ち汲んでやってくれ」
山吹がこそっと教えてくれた。
「……では、 鐐 様が私に似合うと思ったものを造っていただきたいです。私の為だけに考えて、私の為に造ってくれる。私の友人の自信作が、いいです」
言った後で、少しおこがましかったかなと後悔した。しかし、自分の<好きなもの>が解らない自分にとっては、一番ソレが欲しいと思ったものなのだ。
「……よし! では張り切って妾の友人である鈴音の為に、妾が考えて造ろうではないか!」
何やらやる気に満ち満ちている。既に一人で思考の海に浸かってしまってこちらを忘れているようだ。
部屋をウロウロしながらああでもない、こうでもないと唸っている。
「うむ、これは……こうしたらいいか? ……いや、それとも」
「あれ? しろ、お客様?」
「……おお! 帰ったのか、気づかなかったぞ」
突然部屋に入ってきた優しい雰囲気を纏った、黒髪の男性にパタパタと駆け寄る 鐐 。
どうやら彼は 鐐 より身長が小さいようだ。--もちろん鈴音より高いが。
帰ってきた……という事はここに住んでいる人なのだろうか。
“しろ”と親しげに呼んでいる事からかなり親しいのは解るが、二人の関係性がいまいち解らない鈴音と山吹は置いてけぼりになっている。
「いや……まあ、それはいいんだけど。お二人は何方? ちゃんと紹介して、しろ」
「妾の友人鈴音と……その旦那の山吹だ。……そして、此方の素敵な男性は妾の旦那様で貴継だ。山吹にも報告せなんだが、昨年婚姻を結んだのだ」
「ああ、例の山吹さん。改めて、俺は貴継。しろの友人なら今後ともよろしくね」
山吹の名を聞いた瞬間その丸みのある黒い瞳から刺が取れ、少しほっとしたような表情を浮かべたのを鈴音は見ていた。
ちなみに、後でこの時の貴継の様子を山吹へ聞いたら『嫉妬してたんだろう』と苦い顔をしていたが、鈴音には良くわからなかった。
「で、しろはその友人をほったらかして何してるのさ」
少し叱るような口調だ。
「あの、貴継様……いま 鐐 様は私の為に装飾品を考えてくださってたのです。なので、あまり咎めないでくださいませ。……それに、一生懸命考えてくださってるのが私にも解るのでとても嬉しいのです」
「なるほどね。鈴音ちゃんの為ならいいよ、うん。……あ、俺には“様”付けなくていいからね?唯の人間だし」
「えっと……貴継さん、でいいですか?」
「そうだね、そう呼んでもらえると嬉しい」
この貴継の提案に妾も!俺も!と神様二人がかなり食いついたので、結局鈴音は全員“さん”付けで呼ぶこととなった。
それから 鐐 は紹介も済んだし作業に移ると言って、別の部屋--どうやら工房と呼ばれる彼女の為にある作業部屋のようだ--に篭った。
『今すぐ造るから、出来上がるまでそこで休んでいるのだぞ!』と言われた為、未だ寝具の上で彼女が造る鈴音の為だけの装飾品が出来上がるのを待っている。
今、山吹は貴継と少し話したいことがあるとのことで、部屋の扉の近くで話している。
きっと鈴音には聞かせたくない内容なのだろうが、正直寂しい。
拾われてからずっとすぐ触れられるほど近くに居たので、離れている事が慣れない。
少しだけ近くにと思い寝具から降りようと--
「出来たぞ!!!」
「しろ、興奮するのは分かるから少し静かにして」
どうやら、装飾品が出来たようだ。
どの種類の装飾品を造ってくれたのだろうか。
貴継が鈴音のいる寝具の近くに持ってきた机へ、彼女は大事に抱えていた布を丁寧に置いた。
布を捲り、出てきたそれは店内で見たどの髪飾りよりも美しく、鈴音の黒髪に合う作品だった。
手に取って見ると軽く、とても使いやすい上に手触りが滑らかなのである。
そして何よりその絵柄。
ささやかな小花と蔦の模様で派手ではなく、簡素なものではある。が、傾き加減でその小花が鮮やかに淡い黄色に輝くのだ。
「すごく、素敵です! 鐐 さん、ありがとうございます。……大事に、大事にします」
宝物が一気に二つ増えた鈴音は嬉しそうに笑い、初めて少し涙を零した。





