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 まだ飼い始めたばかりなのと、小さいということからケージの中だけしか行動させていない。誤飲する可能性は極めて低いだろうが、可能性はゼロではないだろう。動物を飼うという事のあらゆる危険性を知っておかなくてはならないことを改めて気づかされた。他人事ではないと正剛は身を引き締めた。


 それよりも。

 たかが寝不足だと山崎は言うが、猫はどうなったんだ。無事なのか、悪化したのか。肝心なことを何故先に言わないのか。

 多少イラっとしてしまった正剛の目は鋭く尖った。

 只でさえ仕事のミスで縮こまっていた山崎は、追加で怖さを増した上司相手を見て、顔色を更に悪くし、恐怖に震え上がったのは自業自得と言えるだろうが災難だとも言える。


「もももも、勿論ですっ。土曜日の午後にも診てくれるところを探して直ぐに連れて行きましたっ。幸いなことにピンセットで取り出せる程度でしたので、切開とかは無かったです」

 必死に説明をした山崎の答えに、無意識に剣呑な空気を漂わせていた正剛はほっとした。

「そうか。良かったな。気を付けてやれ」

「は、はい」

 正剛本人は気づいていなかったが、子猫が無事だったことに気持ちがゆるんだ強面の顔は、通常固く下がったままの口角は幾分緩く上がり、目元が柔らかく笑みを含んだ。

 その衝撃的ともいえる瞬間を直接話をしていた山崎は勿論、フロアに在籍していた数名の人間が目にしたが、レアな微笑みに恐怖を覚え悲鳴を上げることも出来ずに身を固まらせた。

 そんなことには気づかず、正剛は新たな書類を手に取ると頭を切り替え、仕事に没頭した。



「ああーっ、びびった。マ・ジ・で、びびったーっっ」

 書類を修正するよう指摘された山崎は、背中を丸めるようにして口元を書類を隠すようにし、フロアに響かない小さな声で呟きながら自席へと向かった。

 商品開発部のフロアにいる社員は、真面目に仕事をしている風に装いながらも、正剛と山崎のやり取りを近くで仕事をしていた数人が視界の端に入れて耳をそばだてていた。

 正剛の声は特別に大きなものでは無い。平均で、普通。だが、良く通る。低いが活舌がよく聞きやすい。そういう声色をしている。

 山崎の隣席にいる佐川は座ろうとしている山崎に小声で言った。

「いろんな意味で、お疲れ様です」

「・・・おう。お互いにな」

 佐川には今朝の内に正剛と同じように体調が悪いのかと質問され、飼い猫の件は伝えてあった。挨拶をしたときに佐川が鼻声だったので山崎が初めに体調が悪いのかと聞いたからだ。返事は花粉症との事。

 彼女は二十代半ばで、商品開発部に所属している中では珍しくインドア派。あまり体を動かすことが得意ではないらしい。

「珍しいですね、大熊係長の笑顔って。っていうか、私みたの初めて?かもしれない」

 周りに雑談がばれないように佐川は内緒話をするかのようにひそひそと山崎に言ってきた。

「まぁ、あんまり笑わないけど。流石に俺は何度か見たことはあるよ。猫が無事だったと言ったらアレだよ。確かに驚いたけど。動物なんて嫌いなタイプかと思ってたんだけど、もしかしてそんなこともないのかもな」

「へえ、そうなんですね。ちょっとびっくりです」

 やはり誰も超が付くほど動物好きな正剛の事は、誰一人気づいておらず勘違いされていたのだった。


*****


 ずびびびびーっ


 時計がもうそろそろ12時になろうかという時刻、大きな音がフロアに響き渡った。直後、あまりにも大きな音に驚きその場にいた全員が音の出どころに視線を向けた。

 豪快な音の発生源の主は、手に持っていたティッシュを丸めてゴミ箱に捨てると自分に視線が集中していることに気が付くと慌てて誤った。

「済みません、花粉症で」

 明らかな鼻声でペコペコ頭を下げながら謝ったのは佐川だった。

 理由を聞き、なるほどと納得して各自自分の仕事へ戻った。


「ふぅ」

 佐川はため息をつくと鼻をすすった。デスクの上に置いてあるボックスティッシュからまた素早く一枚引き抜き、今度は控えめに鼻をかんだ。

 ゴミ箱に入れようとすると昼休憩を知らせる音が放送された。

「もー、最悪」

 かんでも変わらない鼻声で呟くと、財布を手に取り今日はのど越しがいいものを食べたいなと思いながらコンビニへと向かう。

 

 会社に一番近い通いなれたコンビニに着くと、カゴを手に取りお茶とスポーツ飲料系の飲み物を入れ、半熟卵が入ったうどんを見つけたので追加する。次に向かったのは花粉症の薬。いつも飲んでいる薬を見つけカゴに投入。薬局に行かなくても買えて助かる。それだけ需要が高いという事なのだろう。

 続いて目指したのはボックスティシュ。デスクにはボックスのものを置いているが残り少ない。午後から使う枚数を考えれば足りなくなりそうだったので、鼻のかみすぎでかなり痛いことだし、肌に優しい高くてもいいものを購入しようと思ったのだ。

 ふだんは安いものしか使わないが、痛いのは辛い。ずっとつかうのは無理だけど会社の中で使うだけでもいいかと数種類売られているティッシュの値段とパッケージを見た。


「あ、これ可愛い」

 モノクロで見るからに高級そうな落ち着いたデザイン。尚且つ可愛いさもある。すましたうさぎの顔がいい。一つかごに入れようと手を伸ばすと、横から同じものを手に取ろうとした人と遭遇してしまった。

「あ、ごめんなさい。先にどうぞ」

 棚の奥にはまだ同じものがあるのが見えた為に譲ろうとして相手の顔を見ると、見知った顔だった。

「大熊係長!?」

「さ、佐川!?」


 互いに驚きあったのだった。


犬派?猫派?―――うさ派ですが何か?を久々に投稿しました。

約一年半ぶりに続きを投稿しました。

遅くなりました。

一話から三話までも大量に加筆修正しました。

良ければ読み直ししてみてください。

最終話まで、あと数話で終わろうと思います。

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