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第九話 中世:3

ライアンと話を終えた俺は再びセーブ処理をして、待機していた。とはいえ何もしない訳ではなくマップを見て依頼人達が少しでも怪しい気配──ヘルプによると人間であっても敵意を持つ場合、マップの表示が赤くなる──を見せようものなら処分だ。…………そう言えば、人間って殺すとどうなるんだろうな。経験値が手に入るのか? 自分やその周囲に被害を及ぼすような手の打ちようのない屑野郎にでも試してみるか。


そんなことを考えているとマップギリギリの端に一匹敵が現れた。

「ライアン、小便いってくる」

「小便とか言うな! 花摘に行くとまで表現しなくてもいいがせめて用を足すと言え!」

お前は俺のお母さんか? などと心の中で思いながらターゲットのいる森の中へ歩く。まずゴブリンの類いではないだろう。ゴブリンの類いであれば、単体で動くことはなく群れで動く傾向がある。脳ミソが人間よりもちっさいとはいえ魔物のなかでは賢い方にあたるゴブリンが群れをつくる理由が人間を襲うだけとは考えられない。ゴブリンが他の魔物から身を守る為に群れをつくるのだとしたら辻褄があう。そんなゴブリンが恐れる相手が単体で動いているとしたら、こいつだ。そして次第にそいつの正体が露になり、姿を見せた。


頭が豚、2m前後の体長に加え脂肪に隠れた筋肉ダルマ、言ってみれば力士を豚頭にさせ一回り大きくした魔物。ファンタジー世界にはお約束とも呼べるオークだ。こんな奴一匹がゴブリン達を恐れさせていたのか? と普通は思うだろうが油断はしない。現実において豚は猪が家畜化されたとはいえ、元々が猪なだけあって狂暴だ。それに力士は脂肪の塊のように見えて脂肪を落としたら柔道選手等にも引けを取らないほど筋肉の塊だ。そんな二つの特徴を持つオーク相手に油断なんか出来ねえよ。


恒例のメニューコマンドを開いてからの石礫。それだけでオークが倒れるかと思いきや仰け反るだけに留まり突撃してきた。

「マジかよ」

いくつもの石が脳を貫通しているにも関わらず動けるこのオークは突然変異体なんじゃないかと思ってしまう。だが鶏でも首を跳ねても動けるのと同じ原理だと頭の中で納得し、オークの足を装備品袋にある剣で地面に縫い付けるとオークが縫い付けた剣を支点にして転び、動かなくなった。

ファンタジー世界全般において賢くないオークと言えども簡潔なものであれば因果関係は理解出来る。しかし今は条件反射みたいに無意識に身体が動いているようなもので止まることは出来ず剣を抜くことも出来なかった。その結果が目の前にあるうつ伏せの死体だ。

「これで土産が出来たな」

死体となったオークを収納し、ライアンのところに戻るとライアン達冒険者と依頼人達が何やら揉めていた。




「どうしたライアン?」

「遅いじゃないかショージ。この男にガツンと言ってくれ」

「ですから、これには訳が……」

商人風の依頼人の一人が事情を説明しようとしても、同時に話されては混乱するだけだ。

「だから状況がわからねえよ。何があったかライアンから話してくれ」

「ああ、警護するルートの進路を変更するように告げられたんだ。そのルートが安全な道なら文句は言わんが、ホブゴブリンが出るルートなんだ」

「つまりC級冒険者以上でないと無理だってことか?」

「そうだ。ホブゴブリンがイレギュラーとしてではなく、普通に現れる。そういう道に行こうと言っているんだ。その道を通って命を落とすことになったら取り返しのつかないことになる。そうならぬよう私達は、別の道を通るなら依頼を放棄すると告げたんだ」

「そこを何とか! お金は払いますから!」

「で、依頼人。貴方達は何故そこまでその道を通りたいんだ? 筋ってものを通さないとギルドからも信頼を失うだけじゃなくお得意様からも信頼を失う。それをしてでもやらなければならないのは何故だ?」

「じ、実は……」

聞くと、この商人の一人娘であるミーナが何者かに毒を盛られたらしく、厄介なことにその毒を消すには採りたてのラッシュサマー──毒消し草の一種、採取してから30分以上経過すると毒消しの効果がなくなる──を馬車の中にある巨大な錬金鍋に入れて作った毒消し薬を飲まなければならない。そのラッシュサマーがある場所が、通る予定の道ではなくホブゴブリンのいる道だ。

「てめえは娘一人の為に冒険者達に死ねと?」

「これは娘だけの問題じゃないのです!」

「あん?」

「今でこそ症状は出ていませんが経費を押さえる為に我々も貴方達も娘と同じ料理を食しています。いずれ第二、第三の犠牲が出てもおかしくないのです」

現代ならともかく中世文化にそんな料理があるとは思えないな。

「そうか、昨日の鍋が原因か」

「昨日?」

「お前は遅れて合流したから知らないのは無理もない。昨日私達は景気付けに依頼人から鍋物と呼ばれる料理を貰いそれを食べた」

俺は遅れて合流してきたという認識なのか、そんな疑問をよそに怒りというよりも殺意が増す。ミーナをマップ機能で検索したところ毒状態にかかっているのが真実だとわかっているから尚更だ。

「つまりてめえのところの管理不足が原因じゃねえか! オトシマエどうつけてくれるんだ?」

「申し訳ございません!」

他人事だと言うのにキレてしまう。それだけ俺はライアンに入れ込んでいた。


「だが理屈はわかった。毒が進行して冒険者達が倒れたら依頼どころではない。それどころかあんたらは冒険者を救う為に道を変えようって話だな?」

「はい。そうなります」

少なくともミーナが毒で倒れているのは嘘じゃねえんだよな。わざわざライアン達を嵌める為に一人娘を犠牲にするとは思えない。……じゃあミーナが商人の一人娘ではなく奴隷だったら、などと考えてしまうがそれはあり得ない。マップ機能でミーナを調べてみたら、血の繋がりはあるし奴隷でもなかった。ここまで来て嘘ということはない。

「要は採りたてのラッシュサマーが欲しいんだろ?」

「ええ、ですがラッシュサマーの群生からここにつくまで時間がかかり過ぎてしまい、毒消しを作るのに間に合わないのです」

「そんなことをしなくともそれを解決する方法がある」

「どのような方法ですか?」

「聞くよりも見た方が早い」

先ほど狩ったオークを見せ、場が騒然とした。ホブゴブリンよりも上位種のオークという強者を倒したということもそうだが、いきなり死体となったオークが出てきたということに戸惑っているんだ。

「用が長いかと思いきやオークも狩っていたのか……」

ライアンの呟きが聞こえるが俺が期待しているのはそれではない。反応して貰いたいのは後者の反応なんだよな。

「いやそれよりもそのオークの死体はどこから取り出したのですか? その身体でオークを隠せるはずがない」

「それはそうだ。これが先祖代々伝わる一子相伝の魔法。収納魔法だ」

「収納魔法?」

「質量保存、熱放出、ありとあらゆる法則を無視させ別空間に収納させる魔法だ。もちろん時間も無視しているからこの収納魔法を使えばラッシュサマーも採れたてほやほやな状態で移動出来るってわけだ」

メニューコマンドの収納を一子相伝の魔法と誤魔化し、オークを再び収納する。一子相伝にしたのは語呂が良いからなどの理由ではなく、教える気はないとこいつらに伝える為だ。それにメニューコマンドのシステムだから教えたくとも教えられないしな。

「なんという魔法だ……」

「そういう訳だから大人しく待ってろ。2時間以内に帰って来る。構わないよなライアン?」

「構うものか。ここで私が止めてもオークを無傷で狩れる人物相手では意味がないからな。ただひとつ注意させて欲しい」

「死ぬなとかそういうことか?」

「そうだショージ。油断して死ぬなよ。絶対に生きて帰ってこい!」

「言われなくても承知してる」

ライアン達と一時的に別れ、これからボーナスタイムの始まりを迎える。




今までゴブリンなどの小物相手にしなくてはならなかったがホブゴブリンがいる地域に入ると数が凄いこと。先ほどのゴブリンのようにホブゴブリンがわらわらとマップ上に出てくる。

「さあパーティーの始まりだぁぁぁっ!」

メニューコマンドを開いた状態でテンションを上げ大声で叫び声をあげる。石礫の大雨がホブゴブリン達を襲う。抵抗する暇すらも与えず力業でねじ伏せるというやり方だが仕方ないことだ。剣術や槍術は素人で魔術も使えない状況の中で安全に勝つにはこれしかない。


死体となったホブゴブリン達を収納し、経験の魔石に変え経験値にしてから次の場所に向かう。それでもまだレベルアップしないので次の場所はラッシュサマーの群生ではなくホブゴブリンとは別の魔物の群れに変更した。マップの検索機能を使うとホブゴブリンではなく別の魔物が群れで動いていることが判明し、それを狙う。

それの正体は、犬の頭が特徴的な人型の魔物コボルト。ファンタジー世界においてゴブリンに並び、英語ではゴブリンの意味のはずのコボルトが上位種のホブゴブリンと互角の扱いを受けているのに納得が出来ないが経験値的にはかなり美味しく、納得出来ないことによる不満も消えていく。経験値が高ければ尚良しだ!


『レベルアップしました』

コボルトを20匹狩った辺りでようやく念願のレベルアップ。長かった……これで解放Lv4にすることが出来る。戦闘中にも関わらずメニューコマンドを開いて解放Lv4にした。

『解放Lv4になりました』

『収納機能が強化され、半径5m以内まで離れた物を出来るようになりました』

これは酷い。もちろん褒め言葉だ。これまで自分を中心とした球の半径1.5m以内まで離れた物しか収納出来なかったが半径5m以内の物を収納出来るということは理論上は37倍以上拡張されているということで、解放Lv4なのも納得だ。

だがしかし、問題は解放の魔石の数だ。コボルト20匹だけでは5個作れるものの解放Lv5に必要な個数は8個だ。それなら残り15匹狩れば出来るなどという単純な計算ではない。最後に解放の魔石に使ったコボルトの死体は10体。いきなりハードルを上げて来やがった。この調子ならコボルト換算で20、30、40体と増えかねない。この怒り、コボルトに向けて晴らしてくれるわ!


一分も経たないうちに地面が血塗れになりコボルトの後始末に追われる。

「しかしよく俺も人型の魔物に対して殺すことに抵抗持たなくなったよな」

いくら夢でも嫌悪感ってものを感じるはずなんだがな。最初に人型の化け物を倒したのは未来世界のゾンビだが、あれは人というよりもゾンビって種族だと受け入れたからな。ゾンビで慣れてしまったのか人型の魔物を倒すことに躊躇も無くなってしまったんだろう。生物としては成長しても人として成長して出来ないこのジレンマの方が鬱陶しい。




のんびり魔物狩り──そのうちの大半が後始末──やっておいてなんだが、そろそろ仕事に戻らないと面倒だな。マップ検索機能にある検索機能で表示されたラッシュサマーの群生に近づいて数本だけ残してそれを収納。随分あっさりとしているがそれくらい順調に行えたんだよ。

「いつまで俺の後をつけるつもりだ?」

だが世の中にはイレギュラーはあるものだ。先ほどからマップで尾行されているのはわかっていたがあえて無視していた。例えコボルトが横取りされてもな。

俺の目の前に現れたのは見た目20歳前半の姉御肌溢れる雰囲気の魔法少女。顔のことに関しては貶そうにも貶せないくらい整っているが、服装が魔法少女なので実に残念臭漂わせている。ここまで服装と雰囲気がマッチしない奴は初めてだ。

「ほほう、儂の視線に気がつくなんて大した奴じゃ。儂の名は──」

「そんなことはどうでもいい」

老人口調の若い女の声がその場に響き、自己紹介を始めようとしたがバッサリと切り捨てた。

「お主、絶対友達おらんじゃろ……」

「少なくとも尾行して俺の様子を観察するような輩とは友達にはなりたくない」

ついでにいうと顔のおかげで服装の見苦しさとコボルトを勝手に殺したことを見逃しているので好感度で言えばマイナスだ。

「いいから聞け。儂の名はマリー・ヴィ……って待ていっ!」

「待たねえよお前に構っている暇はない」

「呼び止めたくせしてそれを言うか!?」

「それもそうだ」

俺が呼び止めた理由はマリーの見苦しくさを見たくて呼び止めた訳ではなく、別の理由があったんだ。それを忘れるとはうかつなり東海昭次。


「マリー、単刀直入に尋ねる。俺を尾行した理由はなんだ?」

「よくぞ聞いてくれた。儂は魔法学園の教鞭を振るっているのじゃ。授業に使う材料を揃えにここまで来たのじゃ。そこでお主を見かけたところ実に興味深い場面があったのじゃ」

のじゃのじゃうるせえ。俺ですらそう思っているのに生徒も絶対に思っているに違いない。

「興味深い場面だと?」

「時折お主が妙な動きをしていたのじゃ。まるで自分以外の時を止めたかのような動きが見えたのじゃよ」

「生憎だがそれは俺の家系に伝わる魔法だ。教える訳にはいかない」

そもそも魔法ですらないから教えるのは無理なんだよな。

「……ならばお主に勝手についていくとするのじゃ。勝手についていってお主の魔法の技術を盗むのならば問題はあるはずがないのじゃ!」

普通なら問題大有りだが一々指摘するのも面倒くさいし、俺を見てマリーがメニューコマンドを獲得出来る訳でもない。それに時止めの魔法が出来たら出来たでカモフラージュになるから好都合だ。

「ついてこれるならついてこい」

とはいえ、安易に弟子入りさせる程俺も甘くない。全力でこの場を去りライアンのいる場所に向かった。

それではまた一週間後にお会いしましょう!

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