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第八話 中世:2

どうやってその力を手に入れたか。


時間停止機能を使った俺は目の前にいる美少女に苦笑いしてしまう。メニューコマンドを説明しようにも出来ないというか、信じて貰えないのがオチなんだよな。俺だって当事者でなければ信じない。

メニューコマンドを解除し、剣術三倍段について話すことにした。

「剣と槍の差だ」

「剣と槍に差があるのか?」

「俺の故郷では剣術三倍段という言葉がある。長物を持った相手に剣で勝つには三倍の技量が必要とされている。それが剣術三倍段を要約した意味だ」

「その剣術三倍段が何を?」

「人よりも小柄なゴブリンにも、いやだからこそ適用する。剣は確かに振るのは速い。しかしリーチが短いせいで槍よりも攻撃手段が減ってしまうんだ」

「確かに」

「だがリーチに差が出にくい相手……そうだな、相手が15m以上の魔物だと剣も槍もリーチに差はなくなって剣術三倍段は通用しなくなる。そういう相手なら素人に毛が生えただけの槍術よりもこれまで磨いてきた剣術の方が有利に働く」

ちなみにこの15mというのはハンティングアクションゲームで設定されている某飛竜種の大きさを目安にしている。このファンタジー世界にそのくらいの奴が居てもおかしくない。

「そんな魔物がいるか! 魔物の中で巨体とされるワイバーンでも精々8m強だ!」

ワイバーンちっさ、いや大きいのか? ハンティングアクションゲームを目安にすると小さいが、世界最大のホホジロサメの体長が6mなのでそれを基準にすると考えると大きいな。

「まあとにかくだ。俺は槍で優位に戦って押しきったにしか過ぎないからどうやって強くなったかなんて参考にならん。それでもアドバイスを送るなら大物相手に立ち向かうなら剣を磨けばいいし、対人戦なら槍術を学べばいいということだけだ」

「武器を使い分けなければいけないということか?」

「そうなるな。剣術を磨いても悪くないが、一番の近道は槍術を修めておくことだ。槍術も修めておくと長物を持った相手の動きも読めるようになる。少なくとも損することはない」

特に対人戦ならその効果も強くなる。戦国時代の戦場に置いて剣術よりも馬上槍──馬に乗りながら槍を振るうこと──を扱える人物の方が重要視され、剣術は嗜みでしかないという認識だ。つまりそれだけ槍の方が一般的な武器で、ファンタジーなこの世界でも純粋な勝負だったら槍の方に軍配が上がる。騎士団や冒険者が剣にこだわるのは自分よりも遥かに大きい魔物を想定しているからだろうな。


「それはわかるがショージの槍はいくら何でもおかしい。あれほどまでに魔物を駆逐出来るのに槍は素人。となればそれが出来る要因は魔物を狩ることに慣れていることに他ならない」

誤魔化せないか……

「まあ……そうだな。ゴブリンよりも遥かに動きが速い奴らを相手にしてきたからこのくらいは当たり前だ」

何故か未来世界で余裕で狩りまくった普通のゾンビでもゴブリン達よりも俊敏に動く相手だしな。仮にここにいる全員がゾンビキメラ(小)に遭遇したら俺以外999%の確率で全滅する程の強敵だ。ちなみに余計な899%は仮に8回挑んで全て全滅し、9回目に挑んでもなお全滅させられる確率が99%の意味だ。……俺? メニューコマンドやレベルアップした身体能力を酷使して石礫で狩れるけど何か問題でも?

「ふむなるほど。今まで格上相手に戦ってきたからそのような強さを得たと」

「ああ、もっともその時に使った武器は今持ってないけど経験は嘘をつかねえ。槍を使っても多少活かせることが出来たって訳だ」

嘘は言っていない。未来世界の銃は道具袋にはないし、経験は嘘をつかない発言も経験値のことを言っているので真実だ。

「なあショージ、もし──」

「お前達出番だ! 今度はもっと数がいるぞ!」

ライアンが何か言い始めたところで魔物が再び現れ、依頼人の大声がライアンの言葉を遮った。


「仕方ない。先に行っているぞショージ」

馬車からライアンが飛び出し、まだ見ぬ魔物を狩りにいってしまう。もうちょっと話をしたかったからマップに敵が映っても無視していたんだがやむを得ないか。ライアンに続くように俺も馬車を出るとゴブリンの他に、一回り大きいゴブリン、所謂ホブゴブリンと呼ばれるような魔物(以下ホブゴブリン)が森の中に潜んでいるのを見つける。メニューコマンドを開き石を拾い上げRPGなら間違いなく中ボスか、場違いモンスターと呼ばれるそいつを目掛け投げる。メニューコマンドを解除するとホブゴブリンの額に石が貫通し、風穴が開く。確かにこれだけの統率力や作戦は見事なものだが俺に見つかったのが運の尽きだったんだよ。

「ギッ!?」

常人ならギリギリ見えるところにいるゴブリンが驚愕の声を上げる。まさか隠れているホブゴブリンが死ぬとは思っていなかったんだろう。その隙を見て俺はゴブリン達に一瞬で近寄り槍で撲殺する。槍は突く武器だと思われがちだが本来は叩く武器だ。使用用途は何も間違っていない。


その光景を見たゴブリンが撤収し始めると前線に来ているゴブリンも狼狽え、逃げようとするが冒険者達が背後から斬る。ナイスフォローと心の声で叫び、俺はゴブリン達を殲滅し、解放の魔石に変える。ちなみにホブゴブリンは経験値こそ少ないがゴブリンと比べ大物だったお陰か解放の魔石が6個も出来た。


『解放Lv3になりました』

『マップ検索機能が出来るようになりました』

早速メニューコマンドを開き解放の魔石を2個使い、解放Lv3にするとマップ検索機能が解放されそれを使ってみる。一度説明を見ているから知らない訳ではないが百聞は一見に如かず。実際に使わないと役に立つかどうかなんてわからないしな。


マップ検索機能の効果はマップで表示されている範囲内において物や人等の動物を調べる事が出来る。例えば名前の欄に『ライアン』と検索すれば俺の知るライアンだけではなく男冒険者のライアンも画像付きで表示される。更に条件を加え性別の欄に『女』と選択すると俺の知るライアンのみが表示されるようになる。


この調子で解放Lv4にしようとしたが『レベルが足りません』と表示され、解放Lv4にする為の条件を思い出した。

解放Lv4にするためには解放の魔石4個とレベル16にならなければならないというかなり厳しい条件だ。ゾンビを狩ったからレベルを一つ上げるだけで済むものの、魔物の経験値が少なすぎる。未来世界のゾンビキメラ(大)を探しておけば良かったとつくづく思わせるくらいにはレベルアップが遅く、経験値をもっと稼ぎたい俺としてはこの森を抜けて町に着いたら冒険者になってワイバーン狩りをしたい。そうすれば経験値も金も溜まるだけでなく身分証明書も出来上がって一石二鳥どころか一石三鳥だ。

「さて、ゴブリンを殲滅するか」

メニューコマンドを閉じ、統率が取れず逃げ回るゴブリンを駆逐する。他者がそれを見たらどうみても悪者にしか見えないような虐殺だった……やっておいてなんだけど大丈夫だよな?




「らぁぁぁっ!」

およそ女らしくない奇声を出しながらライアンが剣を持ってゴブリンを真っ二つ。剣そのものは優秀だな。

「ライアン、それで終わったようだな」

「一通りな。しかしあれほどの集団で我々を襲ってきたと言うのにいきなりパニックになったのが腑に落ちないな。ショージ、何かやったか?」

知っているかではなくやったか、ときたか。少なくともライアンの中で俺が一番の実力者だと認めた証拠だ。

「馬車に戻ってから話そう」

とりあえず馬車の中に戻り、そこに腰を落とすもライアンも胡座をかいて座った。とてもではないがしぐさを見る限り女には見えないな。

「ゴブリンを統率していたホブゴブリンがいたからそいつを真っ先に殺した。その後はお察しの通りだ」

「無傷でホブゴブリンを殺したのか!?」

「あれがどうかしたのか?」

「ホブゴブリンは討伐目安とされているC級冒険者でも狩るのが難しい魔物だ! それを無傷で倒したということはA級冒険者並みの実力者だということなんだぞ!?」

A級とかC級とか言われてもさっぱりなんだが?

「あいつの何が厄介なんだ?」

「……すまない。興奮してしまった。ホブゴブリンの厄介なところは魔法と統率力だ。ホブゴブリンは必ずと言って良いほど20以上のゴブリン達を統率し、ゴブリン達を囮にして巨大な炎の球や雷を敵に向け放ち囮にしたゴブリンもろとも黒焦げにする恐ろしい魔物だ」

なるほど。解放の魔石が多く出来た理由が奴が魔法を使えるからか。

「魔法も統率力も奴が使う前に倒したからさほど脅威じゃなかったぞ」

ゾンビキメラにも言えることだが動かなければ危険じゃない。本当メニューコマンドの時間停止機能様々だ。

「よくそんなことが出来たな……ホブゴブリンも馬鹿じゃない。ゴブリン達を囮にしている以上、場所を悟られぬようにしているからC級でも狩るのが難しいんだ」

厄介なのは魔法や統率力よりもそっちなんじゃないか? という疑問は置いておこう。今回は偶々見つけたにしか過ぎないが、ホブゴブリンのお陰で習得出来たマップ検索機能を使えばホブゴブリンの居場所を見つけることなんて余裕だ。


「そうなると妙だな」

しかし俺がホブゴブリンを狩れたことをライアンに驚かれた様子を見ると違和感がある。

「何故だ?」

「少なくともここにいる連中はC級以上の冒険者じゃない。新人かそれに近い級の冒険者達の寄せ集め。依頼されたとはいえこの森に格上のホブゴブリンがいることを考えると寄せ集めの新人冒険者達をこれだけ雇うよりもB級以上の冒険者数人雇う方がまだマシなはず」

「そう言うところは疎いのだな。B級以上となると報酬金を最低でも我々E級冒険者の20人分払わなければならない」

インフレしすぎだろ……それだけ差があるということか?

「話の腰を折るな。何が起こるかわからない森の中でホブゴブリンが出る可能性もあることを考慮出来ないはずがない。ましてや商人なら尚更だ。多少高く見積もってでも安全かつ合法的に行く。つまりこの依頼人は余程の馬鹿か、裏があるに違いない」

「考え過ぎじゃないか? 事前にギルドがこの森の生態系を調査していて依頼人はそれを目安に依頼している。今回ホブゴブリンが出たのは偶々じゃないのか? とはいえショージがホブゴブリンを倒したという証拠を見せればギルドも動くはずだ」

「ホブゴブリンを倒した証拠はないがあったとしても動く訳がない。それを見せても揉み消されるだけだ。調査したのがギルドだからな。認めたら無能だって認めるようなものだ」

言ってみれば学校の虐めと同じだ。よくあるニュースで学校側は虐めに気づかなかったとかあるが、見てみぬ振りをしているパターンが多い。俺が入学する前の中学でも校長が学校ぐるみで生徒の虐めを揉み消そうとして大騒ぎになったことを今でも覚えている。ちなみにその事を教育委員会にバラしたのは俺だが。

「安全の為に標準を付けている以上、ギルドが動かないはずがない」

そもそも俺はギルドに登録すらしていないからこの訴えも聞いて貰えないだろう。聞いたとしてもあのホブゴブリンがライアンの言うとおり突然変異で生まれた唯一匹のホブゴブリンだったら発見することもないのでどのみち変わらない。

「ライアン、何にせよこの依頼の調査が最優先だ。依頼をこなしつつ調べよう」

「そうだな。ホブゴブリンが出てきた以上、この森の生態系に変化が起きている。ホブゴブリン以外に何かいたらギルドにも、見ればわかると言えるくらいに報告ができるしな」

いや、実際にそれはやるなよ? そう俺が視線で訴えると「あくまで例えだ」と呟き、目を閉じるが顔が紅潮しており照れているのは一目瞭然だったのは言うまでもない。

それではまた一週間後にお会いしましょう!

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