第十五話 未来:7
ストックはここまでです。次回以降からは不定期更新となります。
「やっぱりここか」
あれから精神的な疲労が溜まっていたせいか、学校の図書室には行ったが町の図書館に行くことなく家でダラダラと過ごし寝てしまった。その起きた先が二度目となるゾンビ世界こと未来世界。俺の予想通り現実で寝るとゾンビ世界に、ゾンビ世界で寝るとファンタジー世界に、ファンタジー世界で寝ると現実になるようだ。
「んじゃまあ行きますか」
この世界でやることはほぼ限られている。
一つ目は経験値稼ぎ。
はっきり言ってファンタジー世界のオークよりもゾンビキメラ(小)の方が経験値を稼げる。ゾンビキメラを向こうで倒せと言われたら苦戦することは必須だ。ゾンビの弱点が頭とはいえハンマーで衝撃を加えても倒せないのと同じく、ゾンビキメラも投石程度では倒せない。
よくよく考えて見ろ。いくらレベルアップしているとはいえフォームの関係から投石の速度には限界がある。今の俺でも出せて150km/hだろうな。150km/hの投石でも100km/hの投石の2.25倍程度の威力しか出ないんだぞ。ゾンビやゴブリンみたいに脆い相手ならともかく、ゾンビキメラのように銃弾を弱点に撃っても耐えきってしまうような相手だとほとんど効かない。それよりも経験値が少ないオークですら数回投げてようやく脳を貫通させたくらいだから投げるよりも銃を撃つ方が楽なのは当たり前だが。
銃が使えないファンタジー世界でゾンビキメラを倒すとしたらポーズ機能を活用して槍で弱点の部位を貫くか切断する必要がある。弱点の部位を切断したら弱点がなくなるなんてことはない。そもそも弱点は重要な部分だからあるのであってそれがなくなったら動かなくなるのは必須だ。人間が心臓を無くして生きていられなくなるのと一緒だ。例外的にオークのような奴もいるが動きを止めれば自然と死ぬから問題ない。
しかし弱点の部分を切断するのは現状無理だ。メニューコマンドに用意されている風の魔術はそういう魔物を切り刻んで殺す魔術が多数あるが、俺は風の魔石に必要な魔物を全て経験の魔石と解放の魔石に変えてしまった為に風の魔術を扱えない。
つまりゾンビキメラを銃で殺すのが最も効率が良く経験値を稼げると言うわけだ。
二つ目は金稼ぎ。
むしろこれをしないと生きていけない。何せ食糧が用意されているとはいえ増える訳ではなく収入はゼロ。食糧はまだいい。解放Lv5の条件を満たせば食糧を現実で買ってこちらに持ち込める。しかしゾンビキメラはより遠くに行くほど遭遇しやすくなる。つまり無料の駅を使うよりも有料の駅を使った方が経験値を稼ぎやすくなる上に前線に行けば行くほど落ちている武器も多くなるので武器も得やすくなる。どのみち解放Lvが上がろうと金は必要なものだ。
かと言って年齢を詐称して日雇いのバイトなんざ出来るわけがねえ。何せこっちでは身分もありはしないし足がつく。
この二つを同時進行させる方法は簡単だ。このK村でゾンビのいる場所にあるものを売ればいい。しかし先日図書館から持ち帰った本や警察署の資料があることにはあるがそれは売れない。図書館の本は公共物に含まれ、警察署の資料に至っては機密情報だ。そんな物を売ったら横領及び機密情報漏洩で指名手配されて普通の町で過ごすことは出来ず、ずっとゾンビのいる街で過ごすことになる。金云々以前に問題外だ。
では何を売るかというと火薬だ。
前回このK村に来たときはダメだと思い込んでいたがこの世界では条件を満たせば問題ないらしい。
現代日本で火薬などを売買する場合は必ずと言っていいほど足がついて大問題になるが、この世界はそんなことをしても問題になる状況ではない。そもそも火薬がダメなら銃刀法の規制緩和なんてされるわけないだろ。ゾンビを倒す為に銃を使うのに銃を動かす火薬を規制したら銃がただの玩具になってしまう。
実際、この世界ではその手の法律も緩くなり国家資格であるはずの火薬類製造保安責任者の免許がなくとも、ダイナマイト等の爆弾やロケットランチャー等の弾を作成しなければ取り締まられることはない。
つまり銃用の火薬であれば問題なしということだ。相も変わらずふざけた世界だ。この世界に来て一番のファンタジーは法律が変わり過ぎたことだと思う。それだけゾンビが驚異的なんだろうな。
『セーブ処理が完了しました』
と言うわけで専門店に行って火薬を売却すると結構高値で売れた。少なくとも一週間分の食糧を調達出来るくらいには溜まったとだけ言っておこう。
買ってきた食糧を調理後、全部道具袋の中に入れ支度を終え一万円分の定期券を購入して島の外に行くだけの駅ではなく往復で1000円分で行ける距離の駅に行く。北海道を離れる程ではないがかなり遠くまでいってくれる。
しかしタダでさえ遠くへ行くほど危険な地帯になるのにそんな遠くに行くのが無謀なのは承知の上だ。だがそうでもしないとレベル上げの効率が悪い。遠くに行くほど危険ということはゾンビの経験値も大きくなると俺は予測している。ファンタジー世界もそうだが倒した相手が強くなるほど経験値が増える傾向がある。少々リスクを許容してでもやる価値はあり、いざとなればロードを使って別の場所でレベル上げをすればいい。その為には死なないことだ。特に一撃で死ぬようなものは絶対に避けなければならない。
「よし行くか」
そしてゾンビを殺す決意を固めて駅周辺にいるゾンビを狩る。前回のゾンビよりも動きが俊敏ではあるものの、まだ酔っぱらいの千鳥足と変わらず遅い。というか俊敏な普通のゾンビって想像してみるだけでもキモい。ゾンビキメラはグロテスクなビジュアルがキモさを打ち消しているからいいんだよ。
キモさ云々はともかく、駅周辺にいるゾンビを殺すにはやはり銃だ。火炎瓶を放つのも考えたが火炎瓶でゾンビを焼き尽くすにはかなりの時間を要する上に、駅周辺で火事を起こすことになる。荒廃しているとはいえ流石に駅を火の海にするとお巡りが五月蝿いからな。いやこの場合は消防車か? どっちでもいいがとにかく喧しくなることは必須で経験値稼ぎも滞ってしまう為にこの手段はあまり好ましくない。
刃物は包丁やサバイバルナイフ程度しかない上に本来の役目は料理に使うものだ。例えどんなに切れ味が良くともゾンビを斬ることには向いていないし、第一そんなゾンビの血が付着した刃物で料理をしたくもない。それにそんな刃物程度でゾンビキメラを殺そうと考えること自体が無謀だ。せめて槍だったら考えたかもしれないがな。
数分後、そこにはゾンビの血で染まった駅の床があった。
「しかしこれでもまだレベルアップしないのか?」
思わずポロリと呟き、収納したゾンビを火薬に変換する。やはりゾンビキメラを一気に殺したいのが本音だ。ゾンビだと手間がかかりすぎる。貰える経験値の差が雲泥の差だから仕方ないと言えば仕方ないのが愚痴らずにはいられない。ゾンビキメラ(小)を30頭くらいは倒しておかないとな。なんならゾンビキメラ(大)でも構わん。あいつら相手ならそのくらいは楽勝だ。問題はどこまで奥に行けるかだ。メニューコマンドが如何に偉大でも空腹は避けられない。だからこそ火薬云々のところでセーブしたんだが、逆に言えばこれから先、ロードするとあそこからやり直すと言うことが前提条件になる。つまり料理をまた作らなくてはならない上にこのゾンビをまた殺すことになる。何度もやれば効率良く動けるようになるだろうが手間がかかるので肉体的な疲労はなくとも、精神的に疲労する為に非常にやりたくない。
しかしふと思うのだが何故ゾンビは俺、いや生きている人間を襲うんだ? ゾンビの知性ならゾンビ同士で共食いし合うなんてこともあり得なくはないのに人間だけをピンポイントで狙う理由がわからない。もしかしたらゾンビのみが持つ匂いがゾンビを嫌悪して攻撃しないようになっているのか? ……考えるだけでも頭が痛くなる。そう言うことは専門の人に任せた方が良い。もっともゾンビ専門家がいたとしてもこの有り様から考えて大して役に立つとは思えないが。
「おっ、ゾンビ発見」
廃れた町の方にはゾンビが多数。すかさず銃を乱射しゾンビの額に命中させるとゾンビが次々と倒れ、背後から襲ってきたゾンビも同じくドミノ倒しの如く倒れていく。
それを繰り返すこと一分。ようやくゾンビキメラ(小)が現れた。
「ーっ!!」
ゾンビキメラ(小)──いちいち面倒だな。キメラでいいか。キメラがゾンビを見て悲鳴染みた甲高い叫び声を響かせる。
「知っちゃった? それじゃぁ覚悟して貰おうかキメラ君」
お笑いの振りくらいに引き金を動かせなかったが今や羽毛よりも軽くなった銃の引き金を引き、キメラの頭を撃ち体力を減らす。残念なことに体力しか減らせないがそれでも十分であり悲鳴を聞いた他のキメラ達が駆けつけようとも無視して一体目を倒し、収納する。
次にやって来たキメラ達が俺を不意討ちして目前まで迫るもののメニューコマンドの停止機能を利用してショットガンに切り替えて連射。キメラの頭だけでなく体全体がショットガンの弾で覆われてド偉いことになっているがそれでも構わずメニューコマンドを閉じ、念には念を入れて収納した鉄板を盾にする。盾にした理由は格好つけたいからではなく返り出来るだけ浴びない為だ。
「ギャアアアッ!」
キメラ達の断末魔の叫びが響き、血が飛び散り鉄板と周辺が緑色の血で染まる。
「この鉄板で鉄板焼き出来ないな」
などとほざきながら鉄板とキメラ達の死体を収納して経験値を得る。これだけやってもまだレベルが上がらないということは、もうキメラでレベリングは効率が悪いな。ゾンビキメラ(大)やそれ以上の存在を倒した方が良さそうだ。まずその為にはこの街のキメラの群れを探す。その先には必ずと言っていい程ボスがいるんだ。ゾンビも人間も変わりはしねえ。偉い奴は必ず身を守る為に強い群れの中に身を置く。その強い群れと言うのがキメラだ。遠出になるほどゾンビの数が増える以上、キメラの数も増えると考えていい。実際街の端とも言えなくないところでキメラが三体もいる。中途半端な場所でこれなのだから群れの規模も前回の1.5倍あたりになっているだろう。
「取り替えるか」
そして鉄板とズボンの一部が返り血を浴びたのでそれらを収納する。ズボンはどうやら装備品袋の中に収納されるそうだが服などが入っているタンスは道具袋に収納されており、そこからズボンを取り出して履く。未だに信じられないがこのズボンは履き慣れていてかつフィットする為に俺のズボンだと勘違いしてしまう。
ズボンを履き終えて、マップをみると二つの敵シンボルを囲むように十数の敵シンボルが存在していた。
「キメラがリーダー達を守っているのか」
リーダーキメラ、ようするにゾンビキメラ(大)はキメラを囲う習性があり、自分達の身を守ると同時に周りのキメラ達をも守っている。キメラ達はリーダーキメラ達を守る習性こそあれどゾンビを囲う習性はない為、ゾンビが独立行動を起こし異変が起きたら一部のキメラ達しか来ない。人間の場合余計な事を考えすぎてその一部の奴らが来れないこともあるのでまだマシと言えばマシかもしれないが。
「とりあえず準備だ。それからやろう」
人間でも個人の力がなくとも徒党を組まれたら厄介になるように、リーダーキメラ達も厄介になる。その理由はこちらの手数が少なくなって対処が遅れてしまう為だ。
戦いは数こそが正義というがそれは間違いではなく、どの世界でも変わらない。
例外的にゾンビ100匹とキメラ1匹が戦ったらキメラの方に軍配が上がるだろうが、それはキメラの力がゾンビに比べ圧倒的な差が開いているだけの話であり大概は数がものをいう。俺が幾多ものゾンビを相手に出来るのも襲いかかってくる数を限定させて対処しているから出来るのであって一斉に襲いかかってきたら流石に無理だ。
キメラ十数匹とリーダーキメラ二匹を殺るにあたって注意しなければならないのは両方とも俊敏であることだ。レベルアップしたとは言え未だに不意を突かれたりすることもある。それだけ俺がマップを使いこなしていない証拠なんだろうがそれを抜きにしても反応出来ない時は出来ない。最悪、時間停止機能を使ってロードしてK村からやり直すしかなさそうだな。
キメラとリーダーキメラの群れが俺の視界に映る。よくこんなに集まったなと感心する一方で、興奮して武者震いすらもしていた。ゾンビやその類いは嫌いなはずなんだがレベルアップの材料になると思うと興奮しざるを得ないんだろうな。
キメラ達を視界に捉えた俺は頷き、気持ちを切り替えた。
「目標把握、作戦を実行する」
時間停止機能を利用し、まず始めにキメラ達を掃除する。銃を持ち、標的に向かって引き金を引く。それを何度も繰り返してキメラ達に弾幕の雨をプレゼントだ。
「時間始動」
そして時間停止機能をオフにさせるとキメラ達が緑色の血をばらまきながら絶命する。そのことに異常を感じたリーダーキメラ達が目を光らせ、警戒心を高める。
「ああ、なんて無価値な眼光。銀二先輩にも是非とも見せて上げたいくらいだ」
しかしそんな警戒をしたところで無駄であり、この状況下で仕留め損なうほど俺は弱くない。むしろ初期の頃の俺ですら余裕なくらいであり、今ならいくらでも倒せる。故にこの状況でリーダーキメラを倒すのは余裕だった。
ちなみに銀二先輩に警戒心溢れる目付きを好む趣味はないことは言っておこう。
『レベル21にレベルアップしました』
おいおい、随分早いな……二匹同時に倒したからか? 何はともあれ、念願のレベル20以上だ。さっさと解放Lvを上げておくか。




