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第十一話 中世:5

それからしばらくし、会話を続けていると馬車が止まる。もしや解毒剤が出来たのか?

「魔物だ! 魔物が出たぞ!」

期待とは違うその声を合図にライアンと俺、そしてマリーが馬車の中から飛び出しゴブリン達を相手にしているとゴブリンとは別の魔物が現れた。


「マリー、この魔物はなんだ?」

そいつはバッタを人サイズにまで拡大させた魔物だ。こんな化け物サイズのバッタなんてファンタジー世界にいると想像出来る筈がなく動揺し、冒険者経験豊富なマリーに尋ねる。

「師匠、知らぬのか? そやつは魔石バッタじゃ。農作物に含まれる魔力を過剰に取り込んで肥大化したバッタなのじゃ。こやつの体の中には魔道具に使う魔石が入っているのじゃ」

魔石の本来の使い方はそう使うのか……ってことはメニューコマンドは魔道具だった!?

「魔石バッタの魔石はどの部分にある?」

「腹じゃ!」

「よし来た!」

槍で腹を避けるように一突き。それだけで魔石バッタが串刺しになり絶命する。虫はもっとしぶといものだと思っていたが魔物になるとしぶとさとかなくなるのか? いやそれ以前に魔物とは思えない程弱い。実際に小突く程度に触ってみると魔石バッタの首や顔が湾曲してしまう。

……もしかして魔石バッタって現代のバッタ並みの耐久力? そうだとしたら魔石バッタの脅威はバッタが人食になって少し力が増した程度でしかなく現実世界でもパンダの方が恐ろしいくらいだ。E級冒険者って本当に冒険者の中でも初心者なんだなと思いつつも口を開く。

「いいか、これが収納魔法だ。これから俺が倒した魔物は全てこれによって収納されるから見ておけよ」

槍に刺さった魔石バッタを収納し、マリーの方へ向くとまじまじと魔石バッタが刺さっていた槍を凝視し、観察していた。……マリー、騙してすまんな。これは魔法じゃなくメニューコマンドの力なんだ。いつか話すべき時が来たら話そう。

「詠唱はしないのじゃな……師匠らしいと言えば師匠らしい」

「さて、それじゃ残りの魔物を狩るぞ」

残ったゴブリン、それに魔物になった害虫達の駆除をする。





「ところでマリー、魔道具に使う魔石ってのはどのくらいの価値なんだ?」

「さほど高くはないのじゃ。地方によって多少違いはあれども平民でも手頃に買える値段なのじゃ」

そりゃそうか。材料の魔石がダイヤモンドやエメラルドのような宝石みたいに馬鹿みたいに高かったら魔道具で革命を起こせるなんて言う訳もないか。それに魔石がそのくらいの価値があったらとっくに魔石バッタは絶滅している。

「そうか。じゃあさっき使ったこいつも無駄な訳か」

収納した死体のゴブリンを水の魔石に変える。それを取り出してマリーに見せると目の色を変えた。

「な、なんじゃこのバカデカい魔石は!?」

「これが俺の一子相伝の魔法の一つ、死体魔石化。死体となった魔物の魔力を凝縮させて魔石に変える魔法だ」

再び魔石を収納すると名残惜しそうにマリーが俺の掌を見つめる。

「……師匠、先ほどの魔石は何が材料なのじゃ?」

冷静だな。流石は魔法学園の教師、いや次期伯爵なだけある。人は見た目によらないもいうがまさしくその通りだ。

「魔石バッタじゃないな。ゴブリンだ」

「ゴブリンであのようになるのか……魔石バッタだったらどうなるのか見てみたいのじゃ。師匠、厚かましいのは承知の上じゃが死体魔石化で魔石になった魔石バッタを見せて欲しいのじゃ!」

よく噛まないで言えるな……その噛まなかった口に免じて見せてやるか。口に出したらチョロいとか上から目線過ぎるとか思われそうだが、マリーが自分でも「厚かましい」と言っているので厚かましい態度で返しただけのことだ。

「よし、見せよう」

魔石バッタを解放の魔石に変えると10個も出来上がり、そのうちの一つを取り出して見せた。


「これは今まで見た魔石とは全然違う魔石なのじゃ……ゴブリンとも違うし、これまで見てきた魔石バッタに含まれる魔石とも違うのじゃ」

そりゃメニューコマンドの項目を解放する為だけに作成した魔石だからな。知らなくて当たり前だ。

「まあマリーもそのうち出来るようになるし、知ることになる。深く考えなくてもいい。ライアンの所に行って助っ人だ」

「あいわかった! では参るのじゃ!」

マリーがライアンの助太刀に向かい、魔法を放つ。この世界の魔法はメニューコマンドを見る限りでは火、水、土、風の四属性が基本になっているがそれとは別枠に光や闇がある。光や闇は攻撃向きではなく主に回復や補助の役割が強く、ゴブリン達相手にする程ではない。その魔法を使うとしたらゾンビキメラのような強敵だろうな。


話を戻す。その四属性の中でマリーの使う魔法は風。流石元A級冒険者だ。こんなところで魔物を殺すほどの火を放てば大惨事になるし、水や土の魔法を使えば馬車道がぬかるんだり、凸凹になったりして影響する可能性も出てくる。しかし風の魔法は木を切るだけの被害で収まるし、マリーもその事を理解している。こういう場面で冷静に判断出来るのは並大抵のことではなく、俺を含めた若い連中ならまとめて倒す為にド派手な火の魔法を放っただろう。

「俺もやるかね」

俺もゴブリンや魔石バッタをメニューコマンドを使わずに殲滅しにかかった。

メニューコマンドの時間停止機能を使わない理由は一々メニューコマンドに頼らずとも大小問わず誰でもゾンビキメラを倒せるようにさせる為だ。

腹立つことにゾンビキメラはオークよりも格上で倒すのにメニューコマンドの時間停止機能に頼らざるを得ない相手だ。セーブ&ロードのみの機能で攻略法を見出だすにせよ一撃喰らえば死ぬ。それはレベルが上がっても同じだ。死ぬことを恐れた俺は、慎重に倒したが故にゾンビキメラの間合いの長さがわからないし、何よりも次回ゾンビキメラのいる未来世界に行ったとしても、ゾンビキメラ相手にいきなりメニューコマンドの時間停止機能なしで戦えるとは思えない。だからこそ今その練習をしている。




『レベルアップしました』


しかしマリーがいるおかげなのか一分も経たない内に殲滅してしまい、最後に俺が魔石バッタを倒したところでレベルも上がった。純粋に魔物を狩るならば俺に軍配が上がるが魔物を殲滅させる速さに関してはマリーの方に軍配が上がる。マリーがそれだけ魔物を無駄なく殺し、適切に処理している証拠だ。それに対して俺は力任せに魔物を狩っていた。例えるならマリーが包丁で野菜を切っているしているのに対して俺は斧で野菜を切っているようなものだ。ライアンにも槍術に関して素人だと指摘されているし。

「助かったショージ、マリー殿」

「うむ。ライアン、ところで一つ気になることがあるのじゃが……その剣術誰に教わったのじゃ?」

「元宮廷騎士の父や父の元同僚に師事した。剣術だけなら宮廷騎士にも劣らないと自覚している」

「なるほど、ライアンの御父上は宮廷騎士であったか。冒険者にしてはやたら綺麗な剣捌きなのも頷ける」

綺麗か。まあ確かに他の冒険者連中よりも遥かに剣術として形は出来ているし、切り口も斧で切ったようなものではなく日本刀で切ったようにバッサリと切れている。剣の性能云々よりもライアンの技術あってこそのことだ。

「当たり前だマリー殿。私は騎士を目指しているからな」

「冒険者で騎士を目指しているとなると、赤と緑か。その剣術のままだと騎士になれぬのじゃ」

赤は確か戦闘のプロフェッショナルだったけか?

「何故?」

「先ほどお主の剣術を見させて貰ったのじゃが、意外性がない。宮廷騎士ならその剣術でも問題ないが赤と緑は話は別じゃ。赤緑どちらも泥臭い剣術なのじゃ」

現代における剣道と剣術の違いだな。剣道は武術型スポーツだが剣術は武術。

「そもそも赤緑共に冒険者枠があるのは魔物との戦いで何でもありの剣術、いや何に類するかもわからないような戦闘術が赤緑共に必要だからなのじゃ。綺麗な剣術など不要の長物にしかならぬ」

不要の長物じゃなくて無用の長物な。いやわかっていて言っているのか。

「しかしこの方が力が出やすいのだがな……」

「それが仇になっているのじゃ。知能の低い魔物相手ならばどうとでもなるが、対人戦となるとその剣術は絶好のカモ以外でも何でもないのじゃ。姿勢を崩された時に振る剣はないし、軌道が綺麗じゃから来る場所もわかるのじゃ」

「それで意外性か……なるほど」

「予測が出来ない剣ほど恐ろしい剣術はないのじゃからな。その点で言えば師匠の方が上なのじゃ」

そりゃそうだ。どうやっても動体視力が冴えてゴブリンや魔石バッタの動きが見える上にレベルアップによる身体能力任せの素人の槍術だ。予測する方が難しい。




「ところでマリー、騎士の試験を何故そこまで詳しく知っている?」

ライアンに変わって俺が質問し、それを聞いてみる。ライアンの口振りからして騎士と魔法使いは大日本帝国時代の陸軍と海軍のような関係で仲が悪いはずだ。未来の宮廷直属の魔法使いを育てているマリーからすれば騎士は敵対する存在だろう。詳しく知る必要性が皆無だ。

「それは儂が何度か騎士の試験に立ち合っているからじゃ」

「そうなのか!?」

ライアンが目を見開いて、マリーに掴みかからんばかりに詰め寄った。

「そうじゃよ。宮廷赤緑全てやったことがあるのじゃ」

「てことは少なくとも三回以上はやっているのか」

俺がそう口にした瞬間、大声がその場に響く。

「冒険者の皆様! 解毒剤が出来上がりましたので取りに来て下さい!」

「ふむ仕方ない。マリー殿、後で詳しい話を聞かせて貰おう」

そう言ってライアンが解毒剤を取りに行き、俺達は元の馬車の中に入る。


マリーが提供してくれた死体の魔石バッタを使って解放の魔石を作成すると解放Lv5に必要な分の解放の魔石が出来上がり、残りを経験の魔石に変える。しかしそれだけではレベルアップに繋がらなかったのか、ゴブリンをありったけ経験の魔石にして経験値に変えるとようやく『レベルアップしました』と表示され、レベルが18になったことを告げる。

ゴブリンの経験値がそれほど多かった訳ではなく、魔石バッタの経験値が多いんだろう。メニューコマンドでのレベルアップに限らずパワーアップする方法が魔石を使うから魔石とつく名前の魔物は経験値が多いんだろう。

……そうなるとゾンビキメラも魔石を持っているのか? ゾンビキメラの経験値は異常な程豊富で魔石を持っている可能性は否定できない。ゾンビが未来世界にいる理由も地球に魔石が発掘され、長い間魔石の影響を受けた人間や動物が死んでゾンビになったのではないのか? その仮説が正しければ日本から魔石を除いてゾンビ化を防ぐしかない。だがそれをしようにも恐らく出来ないだろう。俺一人で地球上にある魔石を除いても世界中の喫煙者に禁煙を呼び掛けるのと同じくらいの効果しか望めない。天才ならどうとでもなるがボンクラな俺の脳ミソだとどうしても理論上可能・実質不可能の結論に至ってしまう。


この世界や未来世界、そしてメニューコマンドが夢のみの存在だということを願うばかりだ。

それではまた一週間後にお会いしましょう!

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