第一話 未来:1
またもや新作です。
どこだここは?
春休みが終わって高校の入学式を迎えるこの朝、見慣れぬ天井を見て出てきた感想がそれだった。
「確か、昨日は高校の場所を確認して、晩飯食い終わった後ゲームして、寝たんだよな」
昨日やった事を口に出し、再び天井を見るとやはりと言うべきか記憶の片隅に一切ない。幼なじみの家にお邪魔したりと何度か他人の家の天井を何度も見たことはあるがこんな部屋はなかった。あいつらは一応金持ちで、こんな小さな一軒家──とはいっても一般の家族が住むには十分立派な一軒家──ではない。
しかし高校の保健室か? と言われれば否だ。学校の保健室や病院にあるはずのベッドの周囲にピンクのカーテンがない。つまりここは学校の保健室や病院ではないことになる。
「じゃあ、ここはどこなんだ?」
そんなことを呟き、俺の携帯を探すがない──当然と言えば当然か。寝ている間に訳のわからねえ場所に居るからな。
しかし誘拐とは思えない。俺をどうやって拉致したのかは知らねえが監視もいないくせして外を見ると車がある。しかもご丁寧なことにパジャマから別の服に着せ替えている。その上俺は実家が金持ちとか政治家とかではなく、20世紀最後の世代の兄貴がいるだけのごく普通の高校一年生だ。俺を誘拐するメリットがなく、むしろデメリットにしかなり得ない。ここまで来ると犯人の目的がわからない。何をさせたいんだ?
「とりあえず、降りてみるか」
考えるよりも行動だ。慎重に二階から一階に降りて、様子を見ると気配らしきものは感じず、各部屋を見回ってみるがやはり誰も居らず不気味に思えてしまう。その際に鏡を見ると40過ぎのオジン──いや自分を貶すのはよくないな。つい最近まで中学生を卒業したばかりとは思えない貫禄のある顔がそこに写し出される。それが見慣れた自分の顔であり、転生したとか憑依しかとかよりラノベじみた展開ではないことを悟る。
……そうか。これは夢だ。思い切り頬をつねれば痛みが、あるだと!? これはやっぱり現実なのかくそったれめ。高校にどうやって行けっていうんだ? 入学式早々欠席とか昔はどうだか知らんが不良でもしないぞ。……待てよ。そう言えば、さっきの部屋にパソコンがあったな。それで地図で調べればわかるだろ。
「誰もいないよな?」
今度は誰もいないことを願い、慎重にその部屋に気配を殺しながら入室する。そしてパソコンの電源を入れ、それを見るとパソコンのモニターにパスワードを記入する画面が表示された。
「パスワードってどんだけ用心してるんだよ……」
幼なじみや家族なんかは、すぐにでもホーム画面にいけるようパスワードなんか設定せずインターネットに繋げる。幼なじみや家族だけが例外じゃなく、他の皆もそんな風にしておりパスワードを設定するのは用心深い奴だけだ。それか悪いことではないんだが手間が一々かかるからな。ましてやこんないつ誰が来るかもわからない状況で焦りやすい状況だと混乱しやすくなる。
そして机の下にある物入れをひっくり返し、パスワードが書かれているであろう物を探す。しかしどれもこれも内容がわからないものばかりだ。そう、全部英語で書かれていて何がなんだかさっぱりわからん。俺は英語に関するセンスが全くと言って良いほどなく、辞書片手にテスト──とはいってもテスト後に貰ったテストと同じ内容のプリント──をやっても50点を上回ることはなく、中学にいる英語教師全員も俺の英語の成績向上に匙を投げてしまったほどだ。つまりそれくらい苦手で英語を見ると頭すらも痛くなる。
「やるしかねえか」
それでもやるしかない。何故ならここがどこだかもわからずに死ぬのは嫌だ。passwordと書かれているであろう紙を探し、汗を垂らす。ここが暑い訳ではなく、むしろ冷えておりとても汗をかける環境じゃない。これは緊張と焦りの汗だ。競走馬が入れ込み過ぎると汗をかいたりするがまさしく今俺はその状態だ。いつ誰が帰ってくるかもわからないこの状況で他人の家を荒らしているんだぞ? 見た目はどうあれ泥棒をやったことない健全な男子高校生たる俺が緊張しないほうがおかしいんだ。
数分後、無駄に汗をかいた俺はpasswordと書かれた紙を見つけ、その上に書かれてあるパソコンの機種らしき英単語とパソコンの機種を見比べた。それが本当にパソコンのパスワードだと確信した俺はそのパスワードを入れるとウイルスが……等とということはなく、普通に解除されホーム画面へと移り次の行動に移す。それはインターネットに繋ぎ、現在地を調べることだ。現在地がわかれば万が一不審者がここに来ても脱走し、逃げ切れるからだ。しかしそこの場所が判明すると今度は誘拐されたと思われる事態よりも驚愕した。
「ここが北海道だと? んなバカな……」
この付近の地図の写真を見ると北海道の景色──【北海道K村(俺が知る限りなかった島の地域の名前)へようこそ】の掲示板が写っている。しかし俺はこれまで北関東にいたんだ。一体全体どうやって北関東で爆睡していた俺を北海道、それも知名度の低い島まで移動させたんだ? それとも故障か? 北海道という文字を二文字変えただけで行けると思うなよ。
どっちにせよ、現在地のK村は電車が近くになく学校も小中校のみだけで高校や大学もないほどの田舎。ここから電車や空港、港を使って北関東の高校に行ったとしても入学式には間に合わないし、何よりもそこまで行くまでの金を持っていない。高校に連絡して風邪引いたから休むと……うん? さっき、パソコンの時計を見たら日付が西暦2190年4月9日になっていたな。ちなみに俺は平成生まれで平成は来年(2019年)で終わる予定だ。つまり俺がその通りに生きていたら187歳の爺になっているはずだ。しかし今の俺は現役バリバリの高校生で身体も自在に動く。
「タイムスリップって奴か。はた迷惑なこった」
そう呟き、俺はため息を吐いた。ラノベのタイムスリップはだいたい過去に行くパターンだ。何故なら過去なら歴史知識を披露してチートするなんて芸当も出来る。しかし未来はどうだ? 未来に行ってもチート出来ねえし、むしろ学ぶべきことの方が多い。一部例外として武将が現代人を手助けしたりするなんて例もあるがあれはチート武将だからこそ出来るのであって凡人たる俺には出来ない。それを言ったら過去に行ってもチート出来ないとか言うなよ。少なくとも勝ち組を選ぶことが出来るからな。
「今日は調査だな」
そう言って俺はネットサーフィンすることにした。まず最初にヤップーが取り寄せているニュースを見て世界情勢がとうたらとかそんな物を調べる。そりゃ誰だって未来の日本がどうなっているか気になるだろ。例え夢の中でも当たる可能性だってある。そんなことを調べていると何やら気になる、いや嫌がらせか、あるいはほのぼの系のニュースかどれにせよ気になった記事【ゾンビ情報】をクリックする。そして次の瞬間唖然とした。
【ゾンビ情報
昨日、北海道から北関東全域においてゾンビが数多く現れた模様。尚、次の地域に注意報が出ていますのでご注意下さい】
……ゾンビってあれだよな? 生ける屍とか、グロ洋風映画とかゲームに出てくるあれだよな? 俺、お化けとか幽霊とか平気でもゾンビって大嫌いなんだよ。俺がゾンビが苦手な理由は前に友達にゾンビが出てくるゲームを借りて三十分経って酔ったからだ。そのお陰で何度も死にまくり、結局すぐに返した。ゲームで酔うのはあの時が初めてで、それ以上に酔うはずのゲームでは全く酔わなかったことやゾンビが出てくるゲームで必ず酔うことからゾンビに苦手意識があることに気がつき、ゾンビが嫌いになったんだよ。
「ちくしょう、この世界はどうなっているんだ?」
しかもゾンビが一匹だけでなく数多く現れたことに現実逃避気味にそう呟き、ゾンビについて調べてみると色々なものがある。例えばどこまでゾンビを倒せるかとか、ゾンビ相手に素手で倒したとかそんなものが動画サイトに載せられていたが俺はそんな事を調べたいのではなく、ゾンビそのものの情報を知りたい。だからネット百科辞典でゾンビを調べてみるとあっさりとそれが載っていた。
【ゾンビ
それまで架空の存在だと信じられて来たが、西暦2019年年始頃、日本において初めて観測され、現実の生き物となり政府が駆除するも遅く、すでにゾンビは世界各地で現れ全てのゾンビを駆除することは事実上不可能となった。
尚、ゾンビに噛みつかれたり等でゾンビ特有の菌に感染した場合ゾンビとなる為、年々その数は増えている。
ゾンビの主な対処方法はゾンビを銃で撃つ、頭と胴体を切り離す等数多くあるがそのなかでも特に有名なのはゾンビの頭を撃ち抜くことである】
内容を要約するとこんな感じか。今、というか俺が起きる筈だった世界の日付は西暦2018年4月9日。一番早くて高一の正月、つまり9ヶ月後にゾンビが現れるのか。タイムスリップも出来ない今となってはどうでもいいが、一応覚えておこう。
そう言えば、銃刀法についてはどうなっているんだ? これだけのことがあった以上、自衛隊任せって訳じゃないはずだ。もしこれで銃刀法云々抜かす政治家はくたばれ。……ってゾンビの項目に銃刀法の改正の歴史が書いてあったよ。
【ゾンビが現れたことによる銃刀法について
日本は通称銃刀法という法律があるが、ゾンビの増加に連れ、政府は銃刀法を緩くし最終的には事実上の破棄をした】
意外だな。こういうことは左翼の連中が黙っていないはずだがゾンビ増加による被害を受けて緩くしざるを得なかったのか? 因みに、銃刀法についてだが格闘技の有段者が一般人に暴力を振るうと暴行罪ではなく銃刀法違反になる。それくらい重い罪であり、それすらも変えたとしたらゾンビが日本の法律を変えてしまう程悪影響を及ぼしていることになる。しかも170年以上も経って未だに対ゾンビ専用の化学兵器を開発する事が出来ずチマチマとゾンビの駆除しか出来ないとなるとその影響力は尚更大きいはずだ。
何にしても、もしゾンビがこの家に来たら数が多過ぎて捌ききれないし迎え撃つしかなさそうだな。となれば、銃を持って行くしかないんだよな。それまで全ての部屋を見てきたがそこに銃がなかった事を考えると車の中にある可能性が高い。いつゾンビに教われるかわからない状況で車に銃を積まない訳がない。むしろ積んで当たり前だろ。そう思い、車のキーを持って鍵を開けると予想通り、車の中に銃が積んであった。
「予想通りだ。これで勝てる」
そして多少躊躇いこそあったが、そんなことを言っていられるほど呑気じゃない俺はハンドガンを握ると視界が灰色に染まった。白色に染まったり黒くなったりすることもなかった俺にとってはそれは動揺するには十分すぎる出来事だ。
「な、なんだ、孔明の罠か!?」
諸葛亮孔明は関係ないだろ。と自分にツッコミ、周りの状況を見る。灰色になったこと以外で変化したのは自分の時計が止まったことやその場からほぼ動けないということだ。それってかなり致命的だろ。どうすれば動くんだ? こんな時こそスレ立てて……ってこの場にパソコンねえからスレすらも立てられないから無理じゃん!
『特定の条件、〈銃に触れる〉あるいは〈メニューコマンドを開く〉を満たした為、チュートリアルを開始いたします』
……は? 待って、チュートリアルってどういうことだ?
次回投稿は来週です。お楽しみに!