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そして彼は勇者になる  作者: 囿茅蜩
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勇者の証

序章.勇者の証



─静かな夜だ。

外はもうすっかり暗くなり静寂に包まれているが、自分の吐息だけは微かに響いている。


夢で見た場所をひたすら歩いていた。

夢の内容をざっくりと説明すると、俺が向かうその先には昔この地を救った偉人が祀られていて、その近くにその偉人が使っていたと思われる神器という神から贈られた武器があるらしい。それを見つけて新しい所有者になれ…。みたいなことらしい。


「確か…この近くだったような?」

何故に疑問形かというと、夢で見ただけだからね?俺はこの辺のこととか全然知らないからね?自分の勘を頼りにここまで来れたわけだ。

「別に褒めてくれても構わんのだがな…!」

独り言でドヤ顔を決めてしまう始末だ。


数分程辺りを歩き回ると1つの慰霊碑みたいなものがポツンっと建っていた。

「祀られていると聞いてはいたけど…あまりにも粗末だな、掃除の1つや2つやってないなこれは。」

掃除をやってないどころか人が来た気配も形跡もない。

「この人みたいな偉人…まぁ、英霊みたいなものか、そんな人のところに誰も来ないとかこの人嫌われてるのか?(笑)」


愛想笑いをしながら慰霊碑に触れてみると、不思議な光景が頭の中に入ってきた。

(こいつ、直接脳内に!)

定番なネタを挟みながらその光景を見ていて直ぐに分かった。

彼は嫌われていたのではなく、自分から嫌っていたのだ。


「それにしても裏と表の使い方が上手い人だな。」

表の顔は、明るく、元気に振舞っているのだが、人目のつかない場所に来ると、人間嫌いの裏の顔が出る。場の弁えが達者で、性格の温度差が激しかった。

彼から見たら人類などどうでも良かったのだ。

…1人の少女を除いては。


少女の名は「茅野 祈」13…14歳くらいの女の子で、巫女服みたいなものを着ていた。

どうやら彼女は神からの神託を授かることが出来るらしい。


突然、風景が一変し、荒れ果てた土地が広がっていた。彼女は少し虚ろな表情で呟いた。


「これが、最後の戦いだけど、なにかやり残したこととかないの?」

彼女は彼に問いた。


「やり残したことは別にないかな。やりたいこともあまりなかったからね。あ、お前俺に最後の神託を伝えることが最後のお役目じゃないからな?俺の勇姿を見届けるまでが最後のお役目だからな。そこは間違わないように!」

彼の言葉からは逞しさや勇敢さなどを感じさせられたが、俺はどこか哀しげな面を捉えていた。


─そして最後の戦いが数10秒間程流れた。


「我が名は朝露 誇示!この神器を持ってこの戦いに終止符を打つ者!さぁさぁ、ここからが大一番!我が勇姿をその目にしかと焼き付けるが良い!…もう少しお前と一緒に居たかったな。」


─ここで全ての内容が終わり、俺は現実世界に戻された。


草木の生い茂る森の奥地。

月の光さえ届かないであろう場所にひとさしの光が俺と彼の「朝露 誇示」の慰霊碑だけを優しく、祝福するかのように、包み込んでいた。


「うーむ…なかなか、感傷に浸る部分がありますなぁ。」

さっきの光景では一部分の大まかなことしか映りだされておらず、自分なりの解釈を含めて色々考えてみた。


慰霊碑の方をよく観察してみると、小さく刻まれた文字のようなものがあった。

「そうか!これは、最後の戦いで力尽きた彼の亡骸をあの祈という少女が人目につかないこの場所に埋めたんだ…。どおりで、誰にも見つかれずに、伝承だけが伝わったのか。」

何となくだが少しだけ謎が解けたような気がした。


「そういえば、その夢の中で出てきた神器とやらはどうにあるんだろう?」

そう、本当の目的は神器なのだ。

周りの見渡したが、そのようなものは一切見つからなかった。


「無くないか?あの夢は嘘でただ単にあの光景をみせるだけのイベント的なものだった訳か?そうな事はないと思いたいが…。」

焦燥の表情を負わせながら、より一層探してみると頭の中に少女の声に似たものが入ってきた。

(!?こいつ、又もや、直接脳内に!)

天丼やめろ!みたいなことが聞こえそうだが、それでも言ってしまうお年頃なのだ。許してくれ、何でもしますから。(何でもするとは言ってない。)


「あーあー、聞こえますか?聞こえたらそのポツンっと建てられている慰霊碑から南に20歩、そこから2時の方向に30歩程進んでください。その先に私はいますから。」

どこかで聞いたことがある声が俺に呼びかけた。うーむ…は!確か、祈という女の子の声だ!

何故、彼女の声が?ここにいる筈がない。…考えても仕方ないな。今はとにかく彼女の声に従ってみるか。


指示された通りに来てみると、月の光に照らされている神器がそこにあった。


「俺を呼んだのはあんたか?」

俺は静かに置かれていた神器に向かって問いた。彼女がそのなかにいるのでは?と思ったからだ。

「そうだよ、誇示が死んだ後ずっと待ってたんだよね。彼の意志を継げる勇者の素質を持った人をね。」


!?彼女はこの長い間、彼の意志を継げる勇者の素質を持った人を現れてると信じてこの場所でずっと待っていたのだ。

辛抱強いっていうレベルではない。


「早速なんだけど、私と契約を結んでくれないかな?そうしてくれないと、私ずっとこのままなんだよね。」

先輩こいつ説明もなく「契約を結んでくれ」って言ってきましたよ。(笑)


いかにも詐欺くさいな…。

「契約を結んだら、お前はこの場所を離れられるんだよな?じゃぁ、俺はどうなるんだ?まさか死ぬとは言わないよな。(笑)」

本当に死んだら困るから説明はしっかりと

してもらいたいものだ。


「夢の内容と一緒だよ。貴方がこの神器の所有者になる。そして、彼と同じ運命を辿ってもらう!そんな感じかな。」


「彼と同じ運命…?やっぱり、死ぬしかないじゃない!」


「なんで死ぬ前提なのかな?彼と同じ運命とは言ったけど別に彼のような最後を遂げるみたいなことじゃなくて、勇者として色々やってもらいたいなと…ね?」


なんで最後の最後で可愛がるんですかね?この神器少女。


「別にやっても構わないんだけど…なに?またこの地が危機に遭遇するの?」

俺は不安になり彼女に聞いてみた。


「そうだね、また危険な目に合うね。それも今回は前回よりも危機に遭遇する範囲が広いんだよね。だから、私達以外の勇者が各地で生まれてるんですよ。いやぁ、楽しみですね♪」


なんでこの娘は楽しげなんですかね?

しかも、俺以外にも勇者が生まれるとな?

「他の勇者も俺みたいな感じで勇者になるのか?」


「いえ、貴方の場合は特殊なケースなので他の勇者とは違います。本来は勇者の素質がある者をある場所に集めて、育成するみたいですよ。それで一定の数値を超えた者は、皆から認められた勇者になる訳ですよ。私達とは少し変わった専用の武器などが支給されるらしいです。あと、貴方以外にも1人特殊なケースで勇者になった人がいるらしいですよ。」


なかなか深刻そうな声で答えてくれましたね。

ある場所というのは気になるが、それよりも俺以外にも特殊なケースで勇者になった者がいると言ったよね?俺はまだ完全に契約を結んだ覚えはないのだが…。


「なぁ、俺はまだ完全に契約を結んでないんだけど…どうすればいいんだ?」


「え?あぁ、そうだね完全にはやってなかったね…完全にやってた前提で話してたよ。」


少し棒読みなことろが気にはなるが…

まぁ、いいや。


「じゃぁ、私に触れてみて。そしたら何か質問みたいなものが脳内に浮かんでくると思うから。」


「はぁ…」

俺は呆れがちに返事をしながら、恐る恐る神器に触れてみる。

すると…。


(やぁ、これから幾つか質問するよ?

自分の気持ちに嘘がないよう正直に答えてね♪)


(お前やないかい!)

脳内で思わずツッコンでしまった。


(はっは!私ですまないね。じゃぁ、雑談は置いといて早速質問といかう。)


Q:勇者になると当然自分自身にも危険が伴うよね?どんな目に遭っても、お役目を最後までやり通すことが出来る覚悟がある?


A: はい

いいえ


…なるほどね、覚悟があるかどうかを確認する質問って訳ね。死ぬ覚悟がないやつはここには来ないわな。当然、俺は…


A: ➤はい

いいえ


考える暇もなく俺は「はい」と答えた。


(へぇ…即答ね。その辺は彼と一緒だね。私は嬉しくて涙が出ちゃうよ…よよよ。)


よよよって何時の時代の泣き方だよ。

まぁ、あっちは旧い時代の人だから仕方ないとはいえ…

(雑談は無しじゃなかったか?)

雑談は置いておくといった彼女が破ってどうするんだよ…と呆れつつもどこか楽しげにしている自分がいた。


(そうだね、うーん、じゃぁ、最後の質問にいこうかな。質問とはまた違うなこれは…まぁ、いいや。契約の証みたいなものだね。)


Q:貴方の名前を神器とシンクロさせるように思い浮かべながら強く言ってください。


俺自身の名前を答えろか…。まぁ、確かに質問とはまた違うな。


俺は神器とシンクロさせるように強く自分の名を叫んだ。


「我が名は撒神 聖苑!汝の契約者となりて、勇者になるものなり!」


そう告げると、森全体を覆う程の蒼い光が放たれ、その中から2丁の拳銃らしきものが姿を現した。シンプルな柄だがすごい神気らしいものを心で感じた。


(契約完了だね♪それじゃ、私からも自己紹介として、私の名前はもちろん知ってるよね?茅野 祈 今は神器の中で魂として生きてる感じだね。元々は、巫女で神からの神託を授かって勇者に伝える存在だったんだよね。今は、力が余りないのが残念だよね〜。)


いろいろと自分の紹介をしていますが、もう少し説明してもらいたいね。


「なぁ、なんで2丁の拳銃が出てくるんだ?彼?まぁ、初代勇者でいいや。そいつは銃じゃなくて、剣を構えてたぞ?なんでだ?」


俺の質問は最もだ。彼と同じ神器を見つけて所有者になれと言っていたのにこれでは本当に詐欺みたいなものだな。


(それはね、元々それが銃剣っていう類の神器なんだよね。それでね、人の能力によって武器が変わっちゃうんだよ。彼は、剣技の扱いが上手かったから剣に、貴方は剣の扱いより銃の扱いの方が能力的に上らしいから銃になったんだよ。分かったかな?)


なるほど、大体のことは分かったな。

「これからどうすればいいんだ?」

これからのこととかあまり知らないかな

彼女がもしなにか知ってるなら教えてもらいたい。


(うーん、まずは私が言ったあの場所を目指そうか。私が教えられるのも限度があるからね。詳しいことはそこで。)


あの場所か。一体なにがあるんだろうな〜。

楽しみでもあり、少し不安でもあった。


(それじゃ、行こうか。生まれたての可愛い勇者さん♪)


「ああ」




生まれたての新米勇者の旅が始まった。

どんな試練やお役目が待っているのか。

まぁ、失うものが何も無い俺にとってはどうでもいいことだけどね。

スローライフとかできないかもしれないな。

ちょっとした悲しみだな。これは。

まずは、祈が言っていたある場所に行かないとな。

それじゃ、「またね!」

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