夕子の決心
「それに君は独りで逝くのではないよ」
とキューピッドが表情を緩めて夕子に言った。
「え? 」
夕子はキューピッドを見つめ直した。
「僕がちゃんと君を送り届けるよ。だから一人ぼっちではない」
「本当ですか?」
夕子はすがるような眼をしてキューピッドを見つめた。
「ああ、本当だ。僕が……いや、僕ともう一人君を迎えに来る変な天使が居るが……それと一緒にちゃんと送ってあげよう」
とキューピッドは一瞬だけ忌々しそうな表情を見せたが、最後は優しい表情で夕子を見つめた。
「え? 天使ですかぁ? 死神ではないんですね」
「サリエルという一応、天使だが死神でもある。本当に嫌な奴だがこの世界では大物だ。彼が君を迎えに来る」
とまた顔をしかめてキューピッドは言った。。
「サリエル……さん……あ、その名前聞いた事があります」
と夕子の記憶の糸の先にその名前は微かにからめられていたようだ。
「私、彼に自分の気持ちを正直に伝えます」
夕子は全てを吹っ切ったような表情でキューピッドを見た。
「やったぁ!!」
と麻美は明るく叫んだ。
「うん。良い判断だと思うよ」
とキューピッドも頷いた。
「やっぱり私は倫ちゃんの彼女で逝きたい。彼だけは私の特別な人だと言って逝きたい。麻美ちゃんありがとう」
夕子は迷い吹っ切ったように麻美に向かって言った。
「え? 私? 私は思ったことを言っただけですよ」
と日頃、褒められたことのない麻美は照れながら応えた。
「うん。麻美にしては今日はまともな事を言っていたよ」
とキューピッドも麻美の事を褒めた。
「……にしてはってどういう事よ」
と麻美はキューピッドに食って掛かったが笑っていた。
その日、夕子の病室で夜遅くまで3人はキューピッドの恋バナで盛り上がっていた。