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キューピッドと歩兵銃  作者: うにおいくら
~残された時間・I never lay down under my distiny~
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キューピッドの言葉

「ふむ……そうだろうな。そうでなくては困る」

そう言ってキューピッドは何度か軽くうなずいた。


「君には残念ながら時間が無い。それは事実だ。だから本来ならこれから長い間時間を掛けて、自分の人生を色々試行錯誤しながら、失敗しながら何度もやり直して創り上げていけるのに君はそれも出来ない。やりたいこともできない。そう、君には時間がない。だから彼に甘えるのは今回が人生で最初で最後の機会という事だな。僕の言っている事、分かるかな?」

キューピッドは噛んで含むように、ゆっくりと回りくどいぐらい丁寧に話をした。


「はい。分かります」

夕子はキューピッドの瞳をじっと見つめて頷いた。


「うむ。だったら君の一生分をここで甘えたら良いんじゃないかな? 君が逝った後に思いっきり彼を悲しませても僕は良いと思う」


夕子は黙ってキューピッドを見ていた。


「彼は絶対に君を受け入れてくれるだろう。それは間違いない」

とキューピッドはきっぱりと言い切った。


「そうなんですね……」

夕子の不安げな表情が少し和らいだ。愛の神様から頂いた確約はそれだけで嬉しかった。心が温かくなった。



「そうだ。それは僕が保証する。僕は君には彼の彼女であって欲しいな」

夕子は見開いていた目を伏せると

「彼の彼女で逝けと……」

小さい声で聞いた。

「そうだ」

キューピッドははっきりと答えた。


 夕子は視線をベッドの毛布に落とした。そして少しだけ考えて

「分かりました。ありがとうございます。でも神様にそんな事を言われるのもおかしな話ですね」

と顔を上げた。キューピッドが何故そんなことまで自分に言ってくれるのかと夕子には不思議だったがとても嬉しかった。


「それは君たち二人がお似合いのカップルだからだよ」

とさらっと言った。しかしこれは恋の神様のキューピッドのセリフだ。この言葉の意味は重い。


「神様のお墨付きまでもらっておきながら何もしないなんて罰当たりね」

と麻美が口を挟んだ。


 夕子は麻美を見て

「そうね」

と軽くほほ笑んだ。


「運命とは与えられたものではなく自分で切り開くものだ。確かに運命は人の手ではどうしようもないかもしれない。しかしだからそれが絶対というわけではないと僕は考えている。寿命が長いとか短いとかが問題なのではない。どうそれを生き抜いたかが大事なんだ。そして人の意志は運命までも変える事があると思う。現に君の書き込みから僕はここに来ることになった。最後まで自分を信じて生きる事ができる人は幸せな人生を歩める人だと思っている。それを君は知っているはずだ」


 キューピッドは優しく、そして言い聞かせるように夕子の顔をじっと見つめて語った。


「はい」


 夕子はじっとキューピッドを見つめて頷いた。

心の中で「最後まで自分を信じて生きる事ができる人は幸せな人生を歩める人だ」と言うキューピッドの言葉を反芻した。その言葉を自分の心に刻み込むように。


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