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キューピッドと歩兵銃  作者: うにおいくら
~残された時間・I never lay down under my distiny~
35/59

約束

「え? そうなの? 近頃の神様って凄いわね」

 彼女は本当に驚き、同時に感心した。多分、今日初めてキューピッドを見た時よりも驚いたかもしれない。キューピッドの登場よりもインターネットが神様の世界まで浸透しているという方が、違う意味で驚きが大きかったようだ。


「うん……実際に作っているのは生意気な女子高生だけどね」

キューピッドはそう言うと口元が少し歪んだ笑顔を見せた。


「え? 女子高生がこれを作っているの?」

夕子はまた驚いた。


「そう」


「すっごい!! それって普通の女子高生?」


「そうだよ」


「へぇ。だったら彼女の恋は成就しまくりだね。バックにキューピッドがいるんだから」

と夕子は愉快そうに笑って言った。


「いや、そうでもないんだ……」


 あれから麻美はキューピッドに高畠翔の話題を一切しなくなった。おかげでキューピッドもあれ以来、彼に接触もできず、勿論自慢の三八式歩兵銃で狙撃することもなかった。

つまりキューピッドはいまだ麻美の恋を成就させることもなく、唯一の汚点を引きずったままの状況だった。


「そうなんだ……それは残念ね……案外近くにいるとそうなるもんかな」


「ま、そんなもんみたいだね」

とキューピッドは言葉を濁した。


「そう言えばこのサイトのTOPページのイラストはキューピッドさんだね……そっくりぃ」

そういうと羽鳥夕子はノートパソコンのモニターとキューピッドを見比べながら微笑んだ。


「そうかい? 彼女が聞いたら喜ぶよ」

 キューピッドはそう答えながら『実物の方が数百倍男前だし神々しいだろう』と思っていたがさすがにそれは口には出さなかった。


「そっかぁ。一度その彼女に会いたいなぁ」

夕子はモニターを見つめながらそう言った。


「え? そうなの?」

キューピッドは驚いた。


「うん。キューピッドと一緒にそんなことができる彼女ってどんな人か興味が湧くでしょ?」

 彼女は将来の夢と希望は失せていたが、身近なものへの好奇心はまだ失せていないようだった。それは僅かに残された人生くらいは好きなように生きたいという彼女のささやかな望みだったかもしれない。


「そっかなぁ……」

 キューピッドは麻美の姿を思い浮かべながら苦笑いするしかなかった。


――あいつは何を言い出すか分からんからなぁ――


そうキューピッドは思いながらも夕子の気持ちが痛いほど伝わってきていたのも事実だった。



「じゃあ、今度連れてこようか?」

 顎に軽く手を当てて少し考えたようなそぶりを見せたキューピッドは彼女にそう告げた。キューピッドにしては珍しい安請け合いだった。

彼はこの彼女の姿を目にして何かをしてあげたくなった……いや何もせずに帰るのが嫌だったのかもしれない……それがつい言葉になって出てしまったようだ。



「本当!! 楽しみ。絶対よ!」

 彼女は満面の笑みを浮かべてキューピッドに言った。


 彼女は毎日が代わり映えしない病室ぐらしだった。今回の入院は容体が急変したために一週間前に急遽決まった。それからは毎日が検査と診察の日々。

例の彼は毎日見舞いに来てくれているが、嬉しい反面悲しい現実を毎日突き付けられているのも事実だった。


 こんな三日で飽きてしまうような病院での退屈な日常に、多少の気休めにでもなればとキューピッドは麻美を連れてくることを約束した。彼女の入院しているこの病院が麻美の家からそれほど遠くないのも幸いだった。

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