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キューピッドと歩兵銃  作者: うにおいくら
~残された時間・I never lay down under my distiny~
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神様のサイト

「君は羽鳥夕子さんだね」


「え? 知っているの……私の事?」

彼女は驚いたようにキューピッドを見つめた。


「一応、これでも神様の端くれだからね。それぐらいの事は聞かなくても分かるよ」


「そっかぁ……でも残念だわ。今の私にお似合いなのはキューピッドよりも死神なのに……あるいは悪魔」

 彼女は冷静にキューピッドを見つめて言った。彼女は既に感情の多くを心の底に沈め終えたたようで、キューピッドの登場さえも驚きの対象にならずに素直にその存在を受け入れたいた。


「本当に悪魔と魂の契約をするつもりがあるのかな?」

キューピッドは感情を押し殺したような声で聞いた。彼の眼差しが明らかに暗く沈んだ。


 夕子は黙ってキューピッドの顔を見ていた。

キューピッドも黙って彼女をの返事を待った。


しばらくして夕子は静かに首を横に振った。


「そんなファンタジーの世界みたいな話を予想していなかったから、即答なんてできないわ。とっても魅力的なお話ではあるけれども……」


 と言って小さくため息をついた。自分で言っておきながら、改めて他人に言われると現実味が失われて自らの言葉に嫌悪感を感じていた。


ため息の後彼女は

「…で、私はあとどれくらい生きられるの?」

と小さいがハッキリと通る声で聞いた。


「良い返事だ……無理に答えを急ぐ必要はない……しかし、残された時間が気になる?」


「うん。それはね。先生に『残された時間はあまりない』って教えてもらったけど……」


「けど?」

キューピッドは聞き返した。


「ううん。なんでもないの」

 夕子は自分で聞いておきながら、ここでキューピッドが即答しなかった事で少しホッとしていた。

覚悟はできているはずだったが、まだどこかで気持ちは揺れていた。もしそれをキューピッドの口から明らかにされた時に自分がどんなことを思うか想像できなかった。


「そうか……でも僕は死神ではないからそんな事までは分からないよ」

と答えたが、本当は知っていた。もう彼女の命は消えていく寸前の蝋燭の炎そのものだという事を良く分かっていた。


「そう。それは残念だわ」

 彼女はまた「残念」という言葉を使った。彼女は気が付いていなかったが、ここ最近のこれが彼女の口癖になっていた。しかしこの「残念」には少し安堵の気持ちも含まれていた。

覚悟はしていたが、やはり自分が逝ってしまう正確な日時は出来れば聞きたくなかった。


 キューピッドは黙って頷いた。


「じゃあ、死神さんに会う事があったら『さっさと迎えに来て』と伝えてもらえるとありがたいわ」

夕子はキューピッドをまっすぐ見つめて言った。一見それは強がりにも聞こえたが、死期をただ病室で待つぐらいなら一層の事、さっさとここで人生を終えた方が楽だとも思っていた。これも彼女の本音だった。


「それはご期待に添いかねる」

間髪入れずにはっきりとした声でキューピッドは応えた。しかしその眼差しは優しく夕子を見つめていた。

彼には彼女の心の内が手に取る様に分かっていた。言葉とは裏腹に健気なこの彼女は必至で自分の宿命と戦っているという事を。


「そうなのね。残念だわ」

そう言うと夕子は小さくため息をついた。


「でも……その愛の神様、キューピッドがこんな私になんの用なのかしら?」


「その……君が今見ているWEBサイトに……昨日、コメントを書き込んだでしょ?」


「ああ、これ……」

彼女はそういうと目を伏せてそしてモニターを横目でチラッと見た。


「そう。実はそれ、僕のサイトなんだ」

キューピッドは申し訳なさそうに言った。



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