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キューピッドと歩兵銃  作者: うにおいくら
~20年後のラブレター~
19/59

後日談


 それから数日後、仕事中の彼が昼食に出かけようかと自分のデスクの椅子から立ち上がろうとした瞬間、スマホが震えてメールの着信を告げた。

彼は立ち上がる事をやめて、スマホのメールを読んだ。

それは彼女からのメールだった。


「長文のメールを書くね……自分でも驚いているんだけどね。あなたと別れてから私は家でずっとドキドキしていたの。『家に着いたよ』ってメールが届いても全然そのドキドキが治まらなくて……。いったいこれはなんなの?と不思議だった。


って、やっとわかったのがあなたのことが好き過ぎて会いたくて声が聞きたくて、ずっとずぅ~っとあなたのこと考えてて…


まるで中高生みたいって恥ずかしい(//△//)けど、それがホントで…


会って直接伝えたかったのに、待てなくてメールしています。


ホントに変なの。

急に洪水みたいに想いが溢れてきて…

戸惑っています。


恥ずかしいから、このメール消去してね。


じゃあまたね』


 高校時代と何ら変わらない彼女の言葉だった。嘘偽ざる彼女の素直な気持ちが行間からどんどん彼に伝わって来た。いや、高校時代の彼女ならこれほどストレートに自分の感情を書き連ねる事などできなかったはずだ。この歳になってやっと自分の気持ちを正直に伝える事ができるようになったと言えよう。


 彼女は今まで自分から人を好きになった事はなかった。ましてや自分から気持ちを告白するなんて人生で初めてだった。どうしても伝えたいという気持ちを抑えることができなかった。彼女は初めて本当の意味で人を愛することができた。


 彼は自分の心に暖かい感情がふつふつと湧いてくるのが分かった。もう彼に大人の分別を考える余裕はなかった。


 それでも彼はすぐに返事をしようかどうしようか迷った。しかし指はもう文字を打ち込み始めていた。


「メール読んだよ。ありがとう。とっても嬉しかったよ。でも今更? もっと早く気が付いてよ。できれば20年前に^^;」

書き込み終わった彼はもう迷うことなく送信ボタンを押した。


 彼は暫くスマホを見つめていた。

スマホが震えた。

勿論彼女からの返事だった。


「だってバイバイしてから気がついたんだもん。

自分でもなんて鈍いんだろうって思うよ」


 そのメールを彼は暫く眺めていた。

おもむろに手帳を取り出すと、今日のスケジュールを確認しだした。

そして頷くとまた彼女にメールを送った。


――このまま、今日を何事もなく終わったら俺は男じゃないな――


 彼は先に彼女から告白させたことを後悔していた。

何故自分から言わなかったのかと。


「突然ですが、今日ご飯食べに行きませんか?」

返事はすぐに帰ってきた。


「行く

仕事が終わったら連絡するね(^^)」


「了解。待っているよ^^」


 彼はメールを送り終わった後、もう一度彼女から届いたメールを読み返しながら呆れたように呟いた。


「高校生か俺たちは……」

 彼は今不思議な感覚にとらわれていた。そう、一気に20年前に戻ったような気持になっていた。

フワフワとした足が地に着かないような感覚。そしてとっても幸せだと実感できる気持ち。


背もたれに体を預けて、彼は天井を見ていた。


 彼は心地よかった。まさに高校生のような初心な気持ちと甘酸っぱい青春の残り香のような思いが一気に押し寄せていた。あれから20年も経っているというのに。

今は充分に分別ある大人だ。でも今の気分は間違いなく高校時代に味わった懐かしい感覚で一杯だった。



 彼はもう一度椅子に座り直すとパソコンに向かった。

そしてインターネットに接続して、自分が書き込んだ掲示板を開いた。

昼休みの休憩時間で社内にはほとんど誰も居ない。


「おや?」

彼は自分の書き込みにコメントが付いている事に気が付いた。


 その書き込みの日付は彼が書き込んだ日と同じだった。

彼は不思議な気持ちと軽い驚きを持ってその書き込みを読んだ。


そこには


「あなたの本当の願いを叶えてあげます」


と一言だけ書かれていた。


 彼は首をかしげて眉間に皺を寄せ不思議そうにその文字を見ていたが、口元に笑みを浮かべるとおもむろにキーボードを叩き出した。


「ありがとう。今20年前に送ったラブレターの返事を今もらいました」


 彼はそう書き込むと黙ってエンターキーを押した。




2話目終了です。


その内……3話目も書けたらいいなとは思ってます。


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