「芙蓉、これは……これは、どういうことなのかしら」
参列者の間に、どのような恩賞が真夏に与えられるのかという、好奇の気配が漂う。公忠からすれば、迷惑な流れだった。息子の笛を演奏半ばで止められた事が面白くなく、適当に褒めて終わりにするつもりであったのが、とんでもないことになったという心地だった。だが、こうなってしまっては何も与えない、というわけにはいかない。この場で真夏に与えられた物よりも優れたものを、面目のために与えなければならなくなった。
だが、何を与えるかという思案が定まらない。
真夏は一歩進み出て、うやうやしく膝をつき頭を垂れた。
「左大臣様の寛大なお心を信じ、この若輩者の望むものを申し上げてもよろしゅうございますか」
何を言うつもりだろうと、朔は真夏を見つめた。
公忠は真夏の申し出が、自分に取り入ろうとするものだろうと判断し、口辺をニヤリとさせた。
「何でも、望むままを与えよう」
さすが柳原様、という声が上がる。それに気をよくした公忠は胸をそらしたが、真夏の言葉に得意な満面を凍りつかせた。
「では、あそこにいらっしゃる、さきの左大臣様の娘、朔姫を我が妻に」
ほう、と興味深そうに帝が身を乗り出す。思いもかけない申し出に、公忠はとっさに返事が出来なかった。
「姫様」
芙蓉が唖然とする。
「芙蓉、これは……これは、どういうことなのかしら」
朔は事態が把握できずに、姿勢をりりしくした真夏から、視線を外せずにいる。
「そのほうは、朔なる姫に懸想をしておったのか」
帝の問いに、真夏は穏やかに返答をした。
「無位無官では、姫に恋文を送る事もかなわず、悶々とした日々を過ごしておりました。こうして申し出る事は、恋の作法に反することと存じております。ですが、姫もいらっしゃるこの場で申し上げます。大伴真夏は久我家の姫、朔を妻にと望んでいる」
明るいどよめきが沸き上がった。
「ああ、姫様」
芙蓉が声を弾ませて、朔の手を取った。朔はおどろきすぎて、どういう顔をしていいのかわからない。
「面白い男だ。しかし、姫が否と言った場合はどうするのだ」
この流れを、帝は楽しんでいるらしい。やんごとなき方からの問いに、真夏は気負う風も無く、ごく自然に答えた。




