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「権力や金銭を使うことだけが、守るということじゃない」

「そんな俺が、こんなことを言うのもおこがましいがな。……守ってやれ」


 静かな実篤の声が、ずしりと真夏の心に落ちた。


(俺が姫を、守る)


 だが、どうやって。


 怖じけているわけではない。この時になって、真夏は自分の立場がとても頼りないものであることを、はっきりと自覚した。


 失脚の知らせが来るまでは、どこかのんきに構えていた。姫と共にここで過ごし、一行と共に都に戻る。それから父や兄、大学寮や友人らを通して役職に付き、彼女に文を送る。


 そんなふうに考えていた。


「実篤」


 真夏は、絞るように声を出した。


「俺は、今ほど自分の気楽な状況を、恨めしいと思ったことは無い」


 何の力も無い自分に、真夏は打ちのめされた。


「真夏」


 実篤は、くやしげににぎられた真夏の手の上に、自分の手を重ねた。


「権力や金銭を使うことだけが、守るということじゃない」


 うなだれていた顔を上げ、実篤を見る。実篤は力づけるように、しっかりとうなずいた。


「俺はそれを、愛しい姫を守れなかったときに知ったよ」


 実篤の顔が、見えぬ涙に濡れているように見えた。


 ◇◇◇


 実篤は翌日の、まだ夜も明けきらないうちに、都への帰路に着いた。


 私的な使者として来ただけなので長居は出来ない。やることが山ほどあるのだと言って、真夏を鼓舞するように肩を叩いて去っていった。


 その背が見えなくなるまで、真夏は道を見つめ続けた。


 彼のもたらした報告のせいか、屋敷の中は静まり返っている。朔の様子はどうなのかと、誰かに聞くこともできない。


 真夏が振り返ると、老下男が所在無さげに立ち尽くしていた。


「どうした」


 老下男は着物の膝のあたりをつかみ、困り果てたように眉を下げた。


「ワシらは、どうなるんでしょうかぁ」


 真夏は彼の言葉に目を開いた。問題は朔だけではない。この別荘にいる者たちは、今後の身の振り方を考えなくてはならない。主が失脚したとなれば、彼らは給金をもらえなくなる。彼らは自分たちが生きていくために、次の雇い先を探さなければならない。


 けれどここは都ではない。他家へ行くツテを探すことも出来ないのだ。


 真夏は胸に深く息を吸い込み、なんでもないことのように笑みを浮かべ、軽く老下男の肩を叩いた。


「他家に奉公に行けるよう、手はずを整えよう」

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