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3−3

 結局霧にもやを追加したような不透明さを残し、やはり俺の隣でまさに完璧な幼馴染となってしまっている感じの女の子がカタツムリとは似ても似つかぬ軽快な足取りで歩いているので、なんとなくクリスタルみたいなふわふわゆらゆらと定まっていないこちらの心情が申し訳なく思えてくるものだった。

 しかもユカリのやつは意識的にか無意識的にかは知らないのだが、俺こそがおかしくなっているはずなのにそんなことを責めるような様子はおくびにも出さない(この表現はレディーに使う表現ではないか)で、今度は無邪気なオーラ醸し出していて遊歩道のタイルで色のついている部分をふみふみながら飛び跳ねていたのだ。

 そして。


「ハルくんっ」


 俺より二、三歩先を歩いていた小早川がこちらよろしくとポンって振り向けば、持っていたフルーツバスケットとお嬢様風ゆるゆるヘアーのような髪型が同じような動作で揺れ動く。


「今日は、あたしにまかせて」


 そうかわいらしく宣言した様子はさっきのことをなかったことにしてしまうわけでもなく、至って自然な振る舞いで飛び出してきたセリフのようだった。


「ハルくん、いいかな?」


「――ああ」


 ユカリの属性であった強引さそのものをにじみだすこともなく今の彼女の状態ならば別段反対する理由もないし、これからとんでもなく由々しき事態に発展するわけでもないので、ここは事の成り行きに任せようと傍観することをなし崩し的に決め込んでしまう。

 そうやってやはり変わってしまったのか小早川は、なんて思いながらも様子をちらちらと確認しつつ、俺は自転車を引きながら鼻歌でも聞こえてきそうな軽やかなリズムで三歩先を行く彼女に従って着いていった。

 でもって付いた場所というのはやはりボートが漕げる公園内の池であった。歩いている時点で多少は勘づいていたのだがまさか予想通りここであるとはな。


「あたし、まずはここのボートでのんびりしたいと思って」


「ああ、わかった」


「あっ、でもこれからの予定は気分なんだけどね、ハルくん」


 たったっピョンと弾むような足取りでチケット売り場へと進んで行くユカリ。


「後悔しないように今日一日頑張ってみるからね――」


 言葉の端々に若干の違和感を匂わせていたのは気にはなっていた。しかし俺はというと別のことを考えていて、以前に一度だけユカリとボートに乗った昔の事を思い出していたのだ。





『ナル! 折角近所に広い公園があって池のボートがあるんだから、一度ぐらいはあたしと一緒に乗りなさい!』


『はっ?』


『だっ、だからっ! あっ、あっ、あたしに付き合いなさいよ!』


『なあ、小早川……。俺は女の子という存在はすべからく大切にするべきだという岩石よりも硬い信念の意思を持っているんだがな、ある一つの事例だけはそれに当てはまらない場合があるんだよ――』


『……な、なにをいっているのよ』


『それはなんでもかんでもいきなりに物事を推し量ろうとする人。で、それをなんていうか知っているか?』


『な、なによそれ……』


『それはな、藪から棒にっていうんだよ』


 今考えてみるとこの言葉の使い方は違うだろーが。


『つまりは、ユカリの――』


『や、藪から棒にじゃないっ!』


『じゃあ、なんだよ』


『なんでもよー』


『だいたいなんで俺が……?』


『……なんでもよ!』


 小早川はおもいっきり舌を出してベェーって言った後、人造人間が首を三百六十度以上回転させるかのように首をおもいっきり振って、その長い髪の毛がパサーと自分に覆いかぶさるのも全く気にせずに視線を反らしていた。

 だがその時、俺もまけじと発言してやったのだ。


『いいか、ならばこんな話があるぞ小早川。この池で一組の男女がペアになって乗るとこれからさき仲良くやっていけないんだってさー』


『…………』


『どうした? 黙りこくたっリなんかして』


 するとユカリはあたふたしながら、

『べ、べつにそんなことないもん! それにどうせあれでしょー、そうやってまた適当なこと言って嘘ついてんでしょ! そんな話信じるわけないよ。それにねナル、だいたいあたしは、湖上からの眺めや素晴らしさを堪能したいということと、将来こういう場面に出くわすことがあるかも知れないためのシュミレーションという真っ当な理由があるの! 

 だからこれぽっちも仲良くしようなんて……けっしてナルみたいなバカとここに来たかったわけではないんだからね! つまりはね、うーんとね、男女がペアになってどうなることは、あたしとナルにとっては関係ないことなの。見当ちがいなこといわないでよ!』


 もちろんこの時いったことは、都市伝説の要素を含めて話をメタ的展開にしようと飛躍させたでまかせだった。まあ、こことは違う公園では池でボートを漕いだらカップルが分かれるという話はあったりするのだが。それも俺達には関係のない話だろう。


『だから、とっくべつにナルで我慢してあげるんだから少しは喜びなさい』


 そんで結局はこの支離滅裂な締め言葉と共に反論の余地すら与えられず、俺とは桁違いの暴力指数を持ち合わせているユカリが見事なまでにその力を発揮して、半ば強引にここへと連れてこられてしまったのだった。

 だが、いざそこに行ってみればその考えも百八十度改めなければならなくて、ボートに乗ってから見た景色が世界の色をこれでもかっていうぐらいに清澄に変えた橙の夕日を――限りなく幻想的な風景を映し出していた。

 その黄昏模様の景観を眺めながら、例えばあの観光地で有名なヴェネツィア地方でのゴンドラの景色はこんな感じなんだろうかと至極単純に考え、ベェニスの商人がどういう話だったか、ああそれは肉を一ポンド、ただし血は流さずみたいな話だったなと思っていた。

 やがて、そんなどうでもいいことが脳裏をかすめて通り過ぎていったとき、俺はこいつのじゃじゃ馬がなくなればどんなに喜ばしいことかを改めて確認していたのを覚えている。 だが不覚にも、あの長いぬばたまの黒髪を風になびかせて「えっへん」とでも言いたそうにしている姿が、切り取って写真に収めたかのごとく記憶に残っているのだった。





「ほら、はーやーくハルくん、考え事なんかしていないでー」


 そう言ったユカリは俺の手を優しく引っ張ってボート乗り場まで誘導する。


「ねぇ、ハルくん。あたしね、一度でいいからこのボートにハルくんと乗ってみたかったんだよ。ずっと楽しみにしていたんだ」


「…………えっ」


 やはり俺はユカリの言葉の使いかたを疑問に感じてしまう。しかも今日このボートに乗るのは初めてなんだ、とでも言いたげな視線。確実に悪ふざけの範疇ではなかった。またこの変な感じに精神が蝕ばまれていくようだった。


「ん? どうしたの?」とユカリ。


 だがな、小早川。ホントはその言葉をそっくりそのままご丁寧返したいんだよ。


「ユカリ……」


 しかし――俺の発言が空中分解してしまうように、


「ほらっハルくん。早く乗ろうよ。であたしね、まず最初にしたかったことはボートに乗って二人でオールを漕いでみたかったことなんだよ」と返された。


 この言葉を聞いてまた過去の言葉が訴えてくる。


『ナル、あんたは男なんだからオールを漕いで、それであたしは優雅に構えるのよ』


 この運動音痴な俺にのたまったことを。


「それでね、一緒に汗かいて頑張った後は、ハルくんが後は俺に任せろとか言ってくれたりしてー、緩やかにボートを漕いでくれたらいいな」


 また――、


『で、しょうがないから、ナルがへばったらあたしがあんたよりももっと早いスピードで漕いであげるんだからね』


 俺の記憶の彼女と今の彼女のセリフが詩の対句のように繋がっていく。

 これは、小早川の短期記憶か抜け落ちているのか。それとも――。

 しかし、まずいことが起きそうな気配は今の状況ではさらさらないというこの第六感だけは正しいような気がしていた。

 なにせこんなにも晴れ渡った空が待ち構えている。

 そんなふうに思い直しているとユカリがもう一度手を引いてきた。

 とにかく今の小早川に、昔ここにきてボートに乗ったことでもさりげなく聞いてみるしかないのだろうかと考え、俺達は歩幅を合わせていた。





『ユカリちゃんのゆううつ☆』



 この物語は本編とは一切関係がございません。作者の気が向くままに始めたヒロイン応援プランです。

 そしてここでは、あのユカリちゃん(若干幼め)が自宅の鏡の精霊ネコミーととりとめのない会話をしているだけだったんですが……予定は未定という言葉によって見事なまでのカオス状態へ。

 ジャンル? 不条理なパロディーコメディーでした?! どこかでみたことあるようなラノベのタイトルでありましても気にしないで頂ければ幸いです。

 というか作者はもう不条理なパロディーコメディーは挫折気味らしいです。




 ――と思ったんですが本日は気まぐれでそれをパスしました。そして――




『なるせくんのゆううつ☆』

(注、コメディーではありません)



 最近作者が微妙なスランプに陥り文章を紡ぎだせないでいるらしいということは、更新の鈍足具合から判断するに明確な事実であって、そうするとこっちの出番までなくなっちまうから夢の中でこう言ってやったことをここに明記しようと思った。だからこそ俺は、


「そういうときは笑えばいいと思うよ、綾波」


 と言ってやったのだが……。帰ってきた言葉は、


「そういうときは読書をすればいいと思うよ、綾波だろーが」と作者に返されちまったのだよ。

 

 あーあ。意味不明。ってか綾波は消えないんだな。


 なーんてこんな不毛なやりとりを思いついた俺は、例えば現実世界を破壊するような塩害に襲われるがそれに立ち向かう話であったり、小学生になって次々に起こる殺人事件を解決したり、「おにーちゃん」って言われたり、「おねーちゃん」(ん?)って言われたり、そんな主人公のキャラを望んでいたのにまったくのそうにもなりそうにない展開に、一言モノ申そうかどうしようか悩んでいたところなのさ。

 つまりは今の気分を一言で表すならば、憂鬱で溜息をつきたくなり、退屈で消失したいような気分であり、暴走したらまわりのみんなが動揺するだろうから……って脈絡の無い前置きはこのへんにしておいてそろそろ本題にいかねばならんな。

 

 実は作者がハルヒ文体を九割マネして、残りの一割似せて書いて(ということは十割の模写か?!)いたのだが、どうやら最近方向性がずれてきたらしいのだ。

 これも例えばの話だが、この前やっとこさハルヒシリーズを全て読み終えた作者が、これは唯我独尊的ヒロインのお話からヒュマノイド無口系に主体性が置かれ始めたような気がしないでもないと思わないとかどうとか……、そんで結論として『憂鬱』が一番面白かった。

 っていう独白はチラシの裏に書いてくずかごに投げ入れるぐらいどーでもいい話なのでここら辺で割愛して、どうやらハルヒ十割の模写文体を改め(ていうか4章あたりからその傾向が)、五割ぐらいになるらしい。まあ、俺にとってはしらんこちゃないがな。


 でもって、残りの半分はあるラノベ作家の三人称(今後の新原の動きでその作品がバレルかもしれない。というか気づかれた人がいましたら驚愕です、作者が喜びます)を少し取り入れ、形づいてきた俺の性格設定とごちゃまぜにして文体のるつぼとかしていくらしいのだよ。


 あー、まったくもって不肖な作者だね。

 俺の今までナルシストが受け入れられなかったようでゆううつゆううつなのだよ。

 どう進んでいくのかねこの話は……。

 やれやれ。この後書きはオチがないな……。

 まっ、いっか。人類全てが平和であったらな。





 ――というなっが――――――――い立て札を二条河原で目にしたような気持ちで読んでみましたとさ。ちゃんちゃん。




 

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