表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/31

2−6

 「ガオガオー!」


 枕投げとはどういう時にやるもんか知っているかなんて問いかけはしなくともおのずと答えが決まっていることは、世界各国周知の事実とまでは言えないものの日本全国にはまかり通る常識であろうと尊大ながらも考える。

 きっと修学旅行、スキー教室、林間学校など宿泊行事でしばしば教師の目を盗んでまでして行われるものか、あるいは一部屋に大多数の人数が泊まれるフレンチコロニアルスタイルホテルのような大豪邸友人の宅ではないかという考えに至るのは間違いないはずだ。

 そしてそれ以外に考えられる稀有な可能性としては、何もかもを有耶無耶にしたいときにやるものとでもいえるのかもしれない。


 ――ひゅん。


 等身大はあろうかというぐらいのうさぴょん枕が成瀬春彦のサイドを通り抜けていった。あれが当たっても枕は消えることなくお肌に優しい感蝕だけを残していってくれるのだろう、なんて化粧品の宣伝みたいなセリフが思い浮かんでいた。

 そうさ、これこそが正しい世の物理法則だよな。

 というわけで俺は今、というよりかは俺達はこの一般的中流家庭における六畳の部屋で枕投げをしているのだ。もちろんそんなことをするお相手はパイナップルヘアーの我が妹成瀬 アキに他ならない。

 この天真爛漫な我が妹は「ガオー」とか言いながらも部屋じゅういたるところから集めてきたさまざまな枕を投げつけてようとしてきて、一発目のそれが外れたら早速「うぐぅ〜」なんて変な声でうめいていた。

 だけど、それを見て俺はまたくだらない事を思う。

 おまえの本当の名前はアキではなくて亜紀だったのかー? ティラノサウルスとかトリケラトプスなどの爬虫類大型種族、そういうのを全部ひっくるめた恐竜と呼ばれる種族が我がもの顔で闊歩していた白亜紀の亜紀かー! 

 ――みたいな感じでさ。

 しかしなー、我が妹よ。

 白亜紀は巨大隕石が落下した気候変動によって生物相が大幅に変化する大変な時期なんだぞ。そんでもって白亜紀と新生代第三紀の境目であるK-T境界にその隕石が落ちたとされるユカタン地方――?

 うわっと、なんか小早川のことを特別な愛称をこめてユカタンと呼んだみたいになっちまった。あーまだそれならアキタンの方がいいぜ。そっちの方が可愛らしいし、って別にこれも妹萌えというわけではないからな!

 あれだ。誤解を招くといけないから大きく言い訳をさせてもらうと、妹というのは古今東西共通の萌え要素。妹こそが世界の平和であり世界の中枢を成すべき存在ともいうぐらいバカなやつもいるぐらいだ。俺じゃないけど。だからこそ少しぐらいはそう思ってみても問題はないだろ?

 それに良く考えればそうだ。妹よ、今日は雨が降っていておまえの木琴が聞けない、みたいな高尚な詩だって見事な萌え要素を表した歌ではないか。いや、確かあれは妹を大切な人物に置き換えているだけだったか? あーもしかしたら戦災で亡くなった大事な人を讃美して捧げる鎮魂歌だったかもしれない。 


「ガオガオ――――――!」


 ――ひゅん。

 

 俺がどんなことを考えているかも露知らずにもう一度枕を投げ放つアキ。

 やがてぼやぼやとしていた輩に向かって、「コーン」なんてトウモロコシみたいな効果音でもプレゼントしたいぐらいのクリーンヒット。

 ここで俺はゴレンジャーみたいなヒーロ戦隊ものの大魔王らしく倒れようかと一瞬血迷ったが、瞬時に考え直してオスカー女優(あえて男優ではないところは妹のためを考えてだ!)ばりのスーパな演技力で蠱惑こわく的な妖艶さを醸し出すように倒れてみる。

 しかし、そんなポーカのフルハウスでは三と七の組み合わせが綺麗だというぐらいどーでもいい俺の演技も虚しく、我が妹はこの永遠のナルシストなる成瀬春彦に枕が当たった時にキャキャキャと喜んでその髪を右に左に踊らしていた。まあその姿を見れば、マイナスイオンを体中にでも浴びさせられているような感覚にさせてもらえるからこの妹という存在は素晴らしいとしかいえないな。っておい、コアラ攻撃はやめろー俺にしがみつくなーミシェル……じゃなくてアキよ。

 ただ、俺は思う。特に今日みたいな、ナスカの地上絵を発見したのかあるいはツチノコを捕らえたのかなんて話では済まされない非日常的な日常を過ごした日には、今の状態がよいクッションとなってゆとりをもたらし心に潤いを与えてくれるみたいことを。

 それでもさ、仕返しぐらいはしたっていいだろ。


「うりゃ〜」


 ――ひゅ〜〜ん。


 上碗二頭筋(力こぶの部分)をめいいっぱい張らせて気と精神の高揚を高め、そこで得た力を上碗三頭筋(肩の部分)に移行させてハイスペックなひねりを加えたサイドースローで放り投げられた枕のはずだったのだが、我が妹はごく簡単な仕草で身を翻して難なくかわした。

 ――ちっ、そうだったぜ。

 俺の運動神経は地の果てに等しいほどの使えなさだった。それなのにこやつは人の運動神経数値ポイントまで分捕っていったんではないかというぐらい俊敏な動き。まあ、そのかわり少々おつむが弱いけど。


「ガオガオー」


 ――ひゅんひゅん。

 

 コーン。

 コーン。

 鈍器で殴られた音とは正反対の軽い音が鳴って見事なまでのクリーンヒットが二発、三発。 野球なら猛打賞。サッカーならハットトリック。

 まさしく俺の心はあびきゅーかーんだー。


「ねぇ、ハルくん……あ、え、あ? えびきゅーかんって、なに?」


「へぇ?!」


 どうやら俺の心の叫びだったつもりのだが、阿鼻叫喚なんて芥川 龍之介の小説にもあったであろう難解な言葉が漏れていたようだった。


「ねぇ、なになにぃ〜?」


 アキはそう言って枕を投げようとしていた動作を止めて爛々(らんらん)としたどんぐりまなこを向けてきた。

 うむ。こんな勘違いはちょっと面白いから少し話しを合わせて傍観でもしようか。


「ハルくんハルくん。も、もしかして?」


「もしかして?」


「それっておいしいもの?」 


 ピカンと電球が付きそうなぐらいに閃いたという感じの表情を見せる我が妹。


「そうだアキ。おいしいものだとしたらなんだと思う?」


 俺は至極真面目なふりをして、自分が発した言葉に正当化を持たせようとしてみる。


「う〜んとうんと」


「む?」


「えーとえーと」


「うん」


「エッ、エビの缶ジュースかなー?」


 おまえ、それはないだろー。

 

 だけど俺が肯定とも否定とも取れない雰囲気で首を傾けると、我が妹は良い方に解釈したのか「うわぁ〜それなら飲んでみたいな〜」って言い始めた。

 

 そこでこの瞬間を待っていましたとばかりに悪魔憑きの妖怪みたいな顔をして、「ふはははっ、阿鼻叫喚ってーえのはな、人々が苦しみ叫び救いを求めても助けてはくれない鬼のことだぁー! 枕投げばかりする悪い子には容赦しないんだー」と。

 

 俺はおそらくナマハゲみたいな要領でアキの恐怖を煽っているのだろう。


「うっ?!」


「どうしたアキ? アハハッー」


「うっ……」


「どうだ怖いかぁー?」


 すると小早川の百分の一にも満たない迫力のなき睥睨へいげいを見せ、


「こ、こわくなんかないもん!」なんていかにも怯えているように言いだした。


「ホントーか? 夢の中にまで出てきてアキを食べちゃうんだぞ?」


 やはり我が妹はギクって顔をした。そして今にもホロホロと泣きそうな顔になり始めたので流石に可哀そうになってくる。


 もうそろそろ「これは冗談だよ」と言うしかない。で、言ってやった。

 そしたらアキはうるっとした瞳を見せてこう畳みかけてきた。


「ハハハハハルくんの意地悪、意地悪、いじわるぅー。アキが九歳だからってバカにしてー! ハルくんのいじわる、ハルくんいじわる」


 アキはポカポカと枕で叩きだす。


「ハルくんなんか、ハルくんなんか嫌いだ〜この鬼、おにおにおにハルくん〜〜〜〜」


 その「おにー」という我が妹が言い放った単語を、ハピネス風味で解釈して「おにぃ〜」と優しく甘えられたような疑似体験を存分に味わう。そしてその後に俺がすることは、あらかじめ組み込まれていた予定調和のように決まっている。


「はいはい、ごめんなよしよし」


 そう言って頭をなでなでしてやる。

 

 するとアキは「う……へへへっ」なんて奇妙な笑い声をあげて、


「あれれぇ〜、そういえばハルくん、アキとハルくんはなんで枕投げしているのかなぁ〜?」なんて言い出したので、どうやら手紙の事はきれいさっぱりと頭から抜けていってくれたようだとほっとひと安心する。


 よしよし。

 ん?

 だが俺まで肝心な事を忘れていたのに気がついた。

 それは最初にこのような運びとなった原因を頭の中で整理しなければならないこと。

 こんなにも平和な遊戯の発端は一通の手紙から始まったのだ、ということを。

 まあ、物凄く重要なことかもしれないし、もしかしたら笑っちゃうぐらい重要ではないことかもしれないんだけどな。





『ユカリちゃんのゆううつ☆』



 この物語は本編とは一切関係がございません。作者の気が向くままに始めたヒロイン応援プランです。

 そしてここでは、あのユカリちゃん(若干幼め)が自宅の鏡の精霊ネコミーととりとめのない会話をしているだけだったんですが……予定は未定という言葉によって見事なまでのカオス状態へ。

 ジャンル? こ不条理なパロディーコメディーでした?! どこかでみたことあるようなラノベのタイトルでありましても気にしないで頂ければ幸いです。

 というか作者はもう不条理なパロディーコメディーは挫折気味らしいです。





 第三話『灼眼のユカリ』 


「もう……サキのバカバカバカっ! あんなに本編で服まではだけさせてイチャイチャしてぇ――! うぅぐすん。あたしの見てないところですぐこうやってよってたかってハルくんを! それにそれに、この前香辛料セットをくれたときなんかあんなにも無口系だったのに、こんなにも漢字バカなんて……。あの時ひとつの唐辛子をかじりながらポッ○ーみたいな感じで誓いの友情チューをしたのに裏切ったのね……(無論、本編ではそんな関係ではございません)」


「あ―――――っ! ユカリちゃん!! 読者の皆様に届けるあとがきゾーンはもう始まっているよ」


「えっ?」


「ほら! ユカリちゃんってば」


(早くいつものやれよ! あれをやらないとこのあとがきはいつまでたっても終わらねぇーよ)


「べ、べつにあとがきなんか呼んでくれなくたっていいんだからねっ!」


「それと!」


「べつに感想――?!」


『べーべつに呼ばれてないのに、こんにちは、こんにっちは〜! ここからはあたしがあとがきを読んでるみなさんに、量子学的に基づいたマイナスイオン咒式の乱れうちで単発マシンガンの連射を一発だけぶっぱなしちゃうよっ』


「あーあんたキツネ耳の?!」


『うぅ〜うにゅ? つれない言い方だな〜怒っちゃってるねユーユカリっちぃはぁ、あたしにだってねっ、れっきとした名前があるのよっ、……それは……あっ……………、えっなんだっけ? わっ吾輩はネコである〜名前はまだないにゃー』


『あなたは今回『灼眼のシャ○』パロディーの便宜上、吉田』


『へっ?! あたしは吉田なのっ?』


『そう』


「ってーなんであんたまでいるのよー! あたしを差し置いてあんなにも好き放題やって許せないんだからっ!」


『あたしはこのあとがきをまもるために参上。瞬時概念接近縮地法と物質拡散性振動配置法でここにきた』


「な、なによ。それっ!」『うぅ〜』


『それは……、超自然的形而上状態で相互特定所在地場面を意識的に想起し脳内を高速シャフトパターンに切り替え一時的な体内結晶成長技術により万能細胞を喚起、そして瞬時概念接近縮地法を使用して移動後、無機質物情報統合解釈を利用した一時的な異種半導体空間侵食、耐熱融解値誘導作用に繋げるため単原子分子共有結合系列状態から急激な組成変化を促す振動回転を波及させた物質拡散性振動配置法を使用、それでここに進出した』


「……」『はてにゃー?』


(なあ、そろそろわしは忘れられてないか?)


「じ、じゃあこの人はなんでいるの?」


『へっ?! あたし?』


「そうよ!」


『ごーご都合主義でーす♪』


『ユカリ、その人の名は吉田』


「なあ、ちょっと待て。鏡の前で君たち三人は何しておる! あー無視するな――――!」


『で、君はなんていうの名前なのっ?』


『あたしはサキ』


『そうなのっ! じゃあこれからはサキっちょって呼ぶねっ』


『それは……やめて』


『そうなのっ? てか、それよりもサーサキっちょ。さっきの瞬時なんとかってなにっ?』


『……端的にいえばテレポーテーション。でも、それやめて』


『へっ?! わかった』


「あー! ちょっとー! なんであたしまで無視されるのよー!」


『ねえ、サキっち……ていうかサッカーで○ンフレッチェ広島の控え外国人選手になんか名前が似ているねサキっち』


(伝わらねぇよ、ぜってぇーつたわらねえよ……)


『そう?』


『うん。それよりもクルムって何?』


(ネタが古いよ、ぜってぇーふるいよ〜)


『さあ……』


『ねぇサキっち――』


「うぅーニコチリーノ三世。あたし……このままだと主役乗っ取られちゃうよー。なんであの二人本編では邪悪な関係だったのにこんなにも意気投合しているの? なんか裏で主役を奪い取るために合作して作者を買収したのかな。ねぇ、ゆううつを通り越してゆううつゆううつになっちゃうよー。どうすればいいのー?」


(てか、名前が……変わっとる!!!)


「ねぇってば……」


「……しょうがないな。ここはわしの世界においての先祖代々伝わるみなの注目を一気に引く歌を教えしんぜよう」


「ホ、ホントー。ネコミー。ありがとうー!」

 




 ♪





「ではではユカリの歌を聞いてくださいな〜。って、また無視してるぅー!」


(がんばれ、ユカリちゃん)


『サキっち。著作権ってなにっ?』


『史上最大の難敵』


「ごめんね、素直じゃなくて〜♪」


『へぇ。こわいねっ』


『そう』


「夢の中なら、言える〜……♪」


『ユカリちゃん大丈夫かなー?』


『これからの展開次第』


「思考回路は、ハルクンでショート寸前♪」


(なんか本編のテーマっぽい歌だな……)


『あー、サキっち。こんな音痴な歌聴いていると疲れるからねっ。そのテレポーテーションで……そうだっ! 京都へいこう! なーんてにゃー』


『了解』


『ヤンデレラ、幸せだって叫んでくれよ〜♪ 時には俺の胸で泣いてくれよ〜♪』


(誰かが吉田に憑依したのか?)





 ひゅい――――――ん。(テレポーテションの音です)





「いますぐツンってしてやりたいのに〜♪ あーなんで誰もいないのよー!」


「ユカリちゃん落ち着いて、これで願ったりかなったりじゃないかこれで好きなだけあとがきを――えっ、そろそろ作者が疲れたから『灼眼のユカリ2』ってことで次回にしたいって」


「えっ? ウソウソウソウソ! これからシャ○に憑依するから! 名前もユカリで一緒だし」


(あきらめろユカリちゃん。おとなの都合だ)


「うぅ〜ふん!」





――さて次回は、ユカリちゃんと獣耳先輩改め吉田の三角バトル!! そしてメロンパンの行方は!! こより伝説はどうなった!! 主人公はどうした!!(過剰な煽り文です)





(なあ、作者よ。こんな乱文ホントに続けていいのか? そろそろ打ち切りか?)    

 というわけで次回の『ユカリちゃんのゆううつ☆』は『灼眼のユカリ2』です。






 真面目にいいんですかねぇ、これ……。こんなスピード感で小説が書けたらこの上もなく喜ばしいことなんですが……(笑)

 でこちらのほうなんですが、とりあえずいろいろとパロッたのでファンのかたがいらっしゃたら本当に申し訳ありません!(特に歌系) そして誠に勝手ながらもここ二、三日で2000文字ぐらいの加筆修正を行いました。覗いてもらえれば幸いですがおそらく内容には支障がないと思います。どうかご了承くださいますようよろしくお願いいたします。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ