プロローグ
「ナルのばーかっ! ふん!」
この界隈一帯に冷気を呼びよせるような視線を投げかける女の子。
そんな口調からも分かるように、キッツーイ性格でほとほと手を焼いてしまう。
女の子の名は小早川 紫。
がんがんと太陽が照りつける八月一日の生まれで星座はしし座、誕生石までは分からない。
そして、俺にとっては幼馴染兼腐れ縁。だが容姿端麗、才色兼備、ナデシコ候補、一般的なイメージを挙げればきりがないほど完璧な女の子だ、あいつは。
でも、ホントのところはわがままで、つんつんとしていて、好き勝手で、ばかっていうのが口癖で、それでいて妙に世話焼きな女の子だったんだぜ。
しかし――。
この春、彼女はイメージチェンジをしちまったんだ。
それもこれまでとはまるで正反対の、慎ましくおしとやかで雪の国からやってきたような純情少女になってしまったみたいだった。
最初はふざけているのか、ネコをかぶっているのか、と。
誰でもそう思うようにさ、俺も思ったよ。
だけど、ユカリは心の底から真剣だったんだ。
俺の知らないうちにそう思い、どうやらその影響でこの世界が不思議で満ちあふれていることに気づかされていたらしいんだ。
それは、俺と小早川だけの関係を繋いでいた幼馴染という絶対的な一つの線のプロセスが破線となってうねりだし、その線が元の直線に戻った時にはそれぞれの始点から別の方向に線を延ばし始める合図であって、さらにその延びた線の続きは鋭角な角度をつけて変化していって――。
やがて、その線は複雑に交わりあい、気がつけば俺達は五つの点から構成されている星型になっていったと言えるのだろうか。
そう、このメビウスの輪で紡がれたみたいな同時進行別多角的スパイラル現象は、目前の問題が解決した今となっても、これから先の未来が何を示唆しているのかは分からない。
俺達と、その俺達に深く関係するであろうその三人。
まだ分からない。卯月の4月から皐月の5月に移り変わるこの季節。これから何かが始まるのだろうかとまたもや考える。
けど、とにもかくにもだ。あんなにも望んでいたはずの超常が実際に起こってしまったこと。それだけが唯一無ニの事であった、といえるのだろうか。
ただ、そのおかげで物凄く普遍的であり、とても大事な事に気がついたのかもしれなかった。
まあ、今となってはだから言えるんだけどな、小早川よ。