イケメン有罪~デート~
彼女と並んで歩くときも気配りできてこそイケメンだ。
ただ横に突っ立っていればいいわけではない、
彼女の歩く速度を考え、会話しながらでも気分よく歩けるように
もちろん彼女が人とぶつからないように二人分周囲を警戒することも忘れない。
いざというとき、彼女をかばえるように、
また、会話するとき前を見ていても少し視界に入って安心感を持たせれるように
半身だけ前に出るようにして心持体を彼女の方に向けながら。
さりげなく車道側をキープする。
車道側といってもここは植え込みのある歩道であるし
たいした意味はなさそうと思われがちだが、
休憩するために店にはいる時や
曲がり角でさりげなくエスコートするためには必須だ。
彼女の肩に手をまわし、やさしく体の向きを変える。
これができてこそ、イケメン。
俺のエスコートに彼女は今日も上機嫌だ。
この辺りは人通りが多いな
細心の注意を払いつつ辺りに気を配りながら、
余裕のある笑顔を彼女に向けているときに
前方の路側帯を自転車で走って来る女の子が見えた。
小学生か中学生くらいだろうか、
今の時間帯は車の交通量は少なめだがスピードが出るため
路側帯を走るのは危険だな。
と、思った刹那、自転車の女の子が転んだ。
何かを踏んで滑ったのだろうか、
そんなにスピードを出していたわけではないので
自転車はその場に横倒しになった感じではあったが
女の子の体は車道に転がった。
考えるより速く俺のイケメン力が発動する。
普段では考えられないほどの瞬発力と跳躍力で植え込みを飛び越え
車道に着地すると同時に女の子の体をひっつかみ、
そのまま着地の反動で地面を蹴り植え込みに背中から飛び込んだ。
走って来ていた車に少し手をかすめたが寸前のところで回避した、
俺、イケメン!
だが、倒れこんだ植え込みの中に
鉄の箱が、消火栓?散水栓?なんだかよくわからないが鉄の箱だ。
その鉄の箱で後頭部を強打し、
あまりの痛さにのたうち回りそうになる俺の視界に
泣きながら何か叫んでいる彼女の姿が映った。
彼女に心配をかけるわけにはいかない、
俺はイケメン力で痛みをこらえ、颯爽と立ちあがる。
ここはイケメンポーズで彼女を安心させるべきか、
いや、どんな時でもきめ細かい気配りを周囲にできてこそイケメン。
ならば、今取るべき行動はこれだ。
『大丈夫かい?けがはなかった?』
俺は植え込みに顔から突っ込んでいる女の子の手を取り
優しくおこし上げつつ、微笑みながらこう言った。
我ながら今日一番のイケメンスマイルだ。
俺のイケメン振りに彼女も惚れ直したことだろう、
ほら、あんなに真っ赤になって・・・
真っ赤になるほど怒ってる
怒りながら泣きながら速足で歩いて行く彼女を
謝りながら追いかける、俺。
後頭部に突き刺さる野次馬の視線の痛みをこらえながら。