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青空の向こう側へ  作者: 発光ダイオード
雲の向こうへ
5/5

05

「そろそろ部活行くよ」


放課後美空に声を掛けられ、悠介は机にへばりついた身体を引き剥がし大きく伸びをした。頬には枕にしていたタオルの跡が赤く残っている。時計を見ると部活の時間まではもうしばらく余裕があった。


「…おぉ、行くかぁ」

「ぷっ!ちょっとあんた…だらし無いって。もっとしゃっきりしてよね」


美空は悠介の顔をみて、吹き出して笑いながら言った。


「お前は俺の親か」

「阿呆な事言ってないで早く行くよ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


俺たちロケット部に部室はなく、かわりに学校からは特別棟の四階にある物理実験室をあてがわれていた。ただしその教室に集まるという事はほとんどなく、もっぱらの活動場所はグラウンドを挟んで校舎と反対側にある海岸付近の工場こうばだった。そこは島で使っていた船を修理する為に使われていた場所だったが何年か前から使われなくなっていて、それに目をつけたかつてのロケット部員が作業場として使わせてもらえる様に所有者に頼み込んだのだった。設備もある程度整っていてそれなりに高価な機材もある。色々な物が雑多に置かれているが勝手に持ち出されたり盗まれたりする事はまず起らない。今は学校が管理しているという事もあるが小さな島ならではの安心感というものが大きいだろう。


学校指定のジャージに着替えた俺と美空が工場に着くと、中には既に崎島先輩がいてロケットの側でパソコンを睨んでいた。制服の上から引きずる様に白衣を着て、長くて真っ直ぐな黒髪を後ろでひとつに縛っている。その姿は制服を着ていなければ高校生に見えず、下手をしたら中学生とまで言われるかもしれないほどだった。


「久美ちゃんっ、遅れてごめんー」


久美ちゃんと呼ばれた先輩は美空の声に気付きゆっくりとこっちを見る。


「大丈夫よ。まだ部活の始まるまで時間があるし、むしろいつもに比べれば早くらいだわ」


そう言うと崎島先輩はまたパソコンに視線を落とす。


「そう言う先輩も早いっすね」


俺はカバンを机に置いてイスに腰掛けた。美空はカバンだけ置いてそのまま崎島先輩のほうに寄って行った。


「今日は打ち上げだからちゃんと調整しておきたかったのよ。そのせいで午後の授業を欠席する事になったけどね」

「そうなんだ。久美ちゃんは今なにしてるの?」


さらりと問題発言した崎島先輩に対し、美空もまたさらりと流した。


「航行誘導システムの最終調整をしているのよ。これをインストールすれば空に向かってまっすぐ飛んで行くわ」

「へー、そうなんだ」

「それより金田君、せっかく早く来たのだから手伝ってくれないかしら」

「あっ、私も手伝うー」

「ありがとう高宮さん。だったら二人でロケットと発射台を海岸まで運んで打ち上げの準備を始めてちょうだい。ジンバルのチェックも忘れないでね」

「了解ですっ」


美空は右手を頭にやり敬礼のポーズをした。崎島先輩に名指しされたはずだったが既に置いてけぼりである。

俺と美空はロケットや発射台など、海岸まで運ぶ機材をまとめ始めた。ロケットと言っても大きさは2メートルほどで、俺一人でも持ち運べるくらいである。機体には歪んだり凹んだりしている所が幾つもあり、何度も空に挑んだ歴戦の勇姿が感じられる。ちなみにロケットは先代ロケット部員から受け継いだものであり、こいつで三代目だそうだ。


「…でも先輩、ホントにそのシステム使えるんですか?」


俺がボックスにケーブルを纏めながら聞くと、崎島先輩は真っ直ぐ俺の眼を見返してきた。


「大丈夫よ。理論上では上手くいくはずよ」

「話は分かりますけどやっぱり信じられないですね」

「そうかもしれないわね…。けどこればかりは実際にやって確かめるしか無いわ」


こう言う先輩も“今回の”ロケットを打ち上げるのは始めてだと言っていた。

そう、今回上げるロケットは今までとは根本的に違う。本来空は電磁波と暴風渦巻く雲に覆われていて、その中で電子機器を使おうとすると電磁波によって機械が破壊されてしまうため一切使う事ができないのだった。そしてそれは雲の架かっていない上空にも影響を及ぼしていて、破壊とまではいかなくても全くの制御不能に陥るほどである。そんな中で崎島先輩には航行誘導システムを機能させる手段があると言うのだが、話を聞いてもにわかには信じられなかった。


「まぁまぁ、きっと上手くいくって!ユウも言ってたじゃん、自分が造るより何倍もしっかりしてるって」


美空も準備をしながら話を聞いていた様だった。


「確かにそうだけどよ、今回のは…」

「それにユウのロケット真っ直ぐに飛ばないでかなり危なかったじゃん。それより悪くはならないでしょ」


美空は言葉を遮ってきたが確かにその通りで、俺のロケットは真っ直ぐに飛ばず、青空どころか雲にすら届かない有様だった。しかしかつてのロケット部員には制御不能のロケットを学校の屋上に墜落させた猛者もいたらしいので、それを思えばちゃんと海に墜落させる辺り、十分優秀だと言えないだろうか…言えないだろう。


「どうせ俺は役立たずだよ…」

「ちょっと拗ねないでよ」

「拗ねてねぇよ」


俺はどうやら不貞腐れた顔をした様でまた美空に小言を言われたが、そのやり取りを見ていた崎島先輩はふっと笑った。


「金田君もちゃんと役に立ってるわよ。私海水を蒸留してから電気分解するなんて思わなかったもの」

「部費も限られてますんでね。燃料も自給自足ですよ」


何だかコンビに行ったことのないお嬢様におにぎりの包みを開けられるなんて凄いと言われている様であまり褒められた気がしない。都会の高校じゃ必要なものは全部揃ってるから、無いものを造るという感覚が抜けているんだろう。


「それじゃ俺たち先に行ってますね」


俺は移動の準備ができた事を崎島先輩に告げた。色々と思う所があるがこれ以上考えていても仕方がない。それに打ち上げれば全て分かる事だ。


「お願いね。私も終わったらそっちに行くわ」


そうして俺と美空は工場に崎島先輩を残し、海岸へ向かって行った。

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