一人の理由
この日は楠見の自己紹介と簡単な連絡のみで下校となった。
その後は入学式ということで大半の人が友達作りに勤しんでいた。
やはり貴族の者は貴族の友達を、平民の者は平民の友達を、という考えの人が多いようだ。
俺には和樹や歌織、知り合いがいるのであえて友達作りをする必要は、ない!
ちなみに三人とも平民だ。
「翠帰ろうぜー!」
「おーう、和樹、明日暇?」
「暇暇!なに?もしかしてコレ絡み?!」
ニヤッと笑い小指を立てる和樹。
なにを期待してるんだか。
…おい、なんで歌織が睨むんだよ。
できるだけ目線を合わせないようにっと…
「ちがうわ」
「つまんねーのぉー」
「用がないなら明日付き合え。身軽な格好で俺の家に9時な」
「はっや!」
「えー!私行けないじゃない!明日は鈴ちゃんと新生活に向けて頑張ろうの会する予定なんだけど!」
「まず誘ってないし。そっちはそっちで楽しんどけ」
「ひっどーい!もう知りません!」
怒って一人教室を出てしまった。
まぁ、いつものことだからこの状況にも慣れたもんだ。
次会ったときには機嫌が直ってる。
歌織も本気で怒ってるわけではない…よな?
「とりあえず、俺らも帰るか」
「そだなー、帰るかー」
学校には寮があるが、俺と和樹と歌織は家から通っている。
和樹とは帰宅途中で別れ、家に向かう。
「ただいま」
返事はない。
まず人がいない。
俺、砂糖 翠は一人暮らしだ。
故郷に実家があるとかではなく、親もいない。
3年前、両親とも突然現れた『頬に傷のある鬼士』に殺された。
その現場に俺もいたが、なぜか俺だけは助かった。
すぐに町の警備隊がその鬼士の捕捉に動いたが、残念ながら捕捉には至らなかった。
そして俺は泣いて泣いて、もう一生分の涙が出たんじゃないかってほど泣き、鬼士になり必ず俺が探し出して殺してやると決意した。
親のいなくなった俺に、叔父さん夫婦が「うちにこい」と言ってくれたが、俺は今まで住んでいた家にそのまま住み続けると言い張った。
結果、一人暮らしをすることになったが、ありがたいことに叔父さんは「いつでも家に来い」と言ってくれた。
生活費はどうしてるのかって?
叔父さんから援助してもらってます。
ありがたやありがたや…。