六本木で会おうよ
サルサバーに初めて行ったのは22歳の時、
東京に住み始めて2ヶ月が過ぎ
ジメジメし始めてきた6月の頃だったと思う。
新しく出来た友達に誘われたのがきっかけで
基本的なステップもわからないくせに、
その場で是非行きたいと、即答した
当時ゲバラに憧れ村上龍を読み漁っていた僕は
いつかキューバに行って現地の人とサルサを踊ってみたいと思っていたのだ
もちろんレッスンにも行ったことがない僕がいきなり
サルサを踊れるわけがなく、10分で帰りたくなった。
バーではジェントルマンというには程遠い
頭が薄くなった40後半くらいのおじさん達が、
ダンスフロアで水を得た魚のように
綺麗なお姉さん達をリードしながら
華麗に踊る姿を見て、底知れない屈辱を感じた。
それから時々週末はその友達に誘われサルサバーに通うようになり
辛うじてステップだけは踏めるようになった。
おはら節しか知らなかった男が
ラテンのリズムを刻めるようになるというのは
昔の猿が進化の過程で直立二足歩行へと移行する以上に
画期的なブレイクスルーだ、というのは言いすぎか
舞ちゃんと会ったのは東京に住み始めて1年が過ぎた4月の始めの頃で
僕は花見に行った帰りで大いに酔っ払い、気持ちも大きくなって、
その時一緒にいた友達数人を強引に誘って
初めて自分からサルサバーに行ったのだった。
サルサは男女がペアになって踊る踊りで
男がフロアにいる女性に声を掛けなければならない
僕は酔っ払った勢いですぐに 「お願いします」
と声を掛けた、その人が舞ちゃんだ。
僕のリードがあまりにも下手だったため
「最近始めたんですか」 と聞かれ 「そうです」 と答えた
もちろん1年くらい前から時々通っているんです
などとは恥ずかしくて言えない。
曲が終わった後、ゲバラとキューバの話で盛り上がり
それからは、舞ちゃんがサルサに行く時には誘ってもらい
踊り方を教えてもらったり
彼女の職場の友達や、南米の友達を
紹介してもらって一緒に遊ぶようになった。
しかし去年の夏、彼女は海外へ転勤が決まり日本を離れることになった。
色々なことを知っていて、自分にとって遊びの先輩という感じだったので
転勤の話を聞いた時はちょっと淋しかった。
そして僕もサルサバーへの足は遠のいた。
あれから1年が経って
今週土曜日から1週間程、舞ちゃんが日本に戻ってくる
僕は相変わらず踊りは下手くそだが、
来週末久しぶりに六本木のサルサバーで
彼女と会えるのを楽しみにしている。