お見合い
細やかな装飾が縁を飾る大きなテーブルを挟んで、リアロナと父は、青年と彼の父と対面していた。
この方が、近い将来自分の夫となる人か、と失礼にならないよう相手を見やる。
リアロナ・アフューレ伯爵令嬢とシグルド・ヨーゼント公爵令息の婚約が決定しており、父の決めた婚約者と初めて顔合わせを行っている最中だった。
リアロナからみて、シグルドの第一印象は真面目そうで愛想のない人。
何だか堅くて、リアロナは緊張を緩和させることも出来ずに、会話を淡々とやり取りしている気がした。
両家の父達と交えてしていた話が一段落すると、リアロナは彼に庭を案内してもらえることとなった。
政略結婚は当たり前の世の中。
そして当人同士の仲が少しでも良くなるようにと、二人きりで話をする場を設けられるのも当たり前のことだった。幸か不幸か恋愛というものを一度もしてこなかったリアロナは、やはりこうなるのが必然だったかと、冷静に自分の結婚を考えていた。
無言で歩く婚約者の背中を見つつ、周りの景色を見ながら歩いている内に緊張は段々と薄れていた。
綺麗なお庭、と感心していると、突然踵を返した彼にリアロナはびくり、と肩を震わした。
す、と手を差し伸べられ、一瞬戸惑うものの、すぐに目の前に下りの階段があることに気付いた。
その階段を下りるためにと差し伸べられたのであろう彼の手に、自分の手を重ねた。
きゅ、とそれ程強くもない力で握られたのに、何故かどきりと薄れたはずの緊張が戻ってきてしまった。
階段を下りながら、目の前の池と周りに生き生きと咲く花達に見惚れてしまった。
支えてくれる彼の手がなかったら、立ち止まるか、階段を踏み外すかしまっていただろうと今は思う。
「花は、好きですか?」
ハッと彼を見れば、リアロナと目が合う。
「は…はい」
突然掛けられた言葉に驚いて、そう返事するのが精一杯だった。彼の視線が花に向けられたのを機に、眼前に広がる花々に目をやる。
小さな噴水を囲むように色とりどりの花が咲き乱れていた。
ぐるりと花々を端から順に見ていると、一番最後に目に映った花に目を止める。
じっと見つめていると、それに気付いた彼がリアロナの視線を辿って同じ花を見ていた。
「この花は、プティアと言う花ですが、ご存知ですか?」
「いえ…」
「他の花に比べると少し地味かもしれませんが」
「でも、私はこの花が一番好きです」
彼の言葉を遮って、そう告げた。
確かに他の花は華麗に咲いていて、見惚れてしまう程素敵だと思ったけれど、ひっそりと端に咲いている小さな花は可憐さと愛らしさを兼ねていた。
その花は何故か見ていると暖かな気持ちになった。
花から彼へと視線を移すと、驚いた表情でリアロナを見ていて、目を瞬かせながら首を傾げた。
「私もこの花が一番好きなんです」
ふわり、とはにかむような微笑みの彼に、一瞬目を奪われた。
*
「やあ、兄さん。今日だったんだ。婚約者様と会うの」
「ああ。リアロナ嬢、私の弟のノウルだ」
「初めまして、リアロナ嬢。お目にかかれて光栄です」
微笑む彼に、リアロナは思わず彼を見つめてしまった。
あまりに整ったお顔に、甘い微笑みがまるで天使のように見えた。
リアロナは綺麗なものや可愛いものが好きだ。愛でるというよりも鑑賞するように気に入ったものは見つめ続けてしまう。
初めまして、と慌てて礼を返すリアロナにノウルは「兄さん、すごい可愛い人じゃないか、やったね」と笑う。
シグルドは「そうだな」と無表情で返していた。
二人の温度差に思わず苦笑してしまいそうになった。
「それじゃあ、リアロナ嬢。またの機会に」
ひらひらと手を振る彼を、釣られるように見ているのを、隣のシグルドがじっと見ていることにリアロナは気付かなかった。