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俺は一人が嫌いですよ。  作者: はんぺん
7/7

どうせヘタレですよ

奏が電撃作戦ばりに魔道都市改革を始めたあと、ミーナの家へガントルの後ろを追従飛行するウルスラ。


「なあウル、都市の皆になんか挨拶したいな。」

『そうですね。でしたら人工太陽等の都市再起動にあわせて音速航行とライトスノーでも降らせますか?』

「お、いいね。いっちょやるか!ミーナー!聞こえるー?」


奏はガントルに搭載されている通信機能に割り込み声をかける。

帰ってきたほんのりとした返答はミーナのものではなかった。


「こちらはリヒテルです。ミーナは今とある事情で通信に出ることができないので私が聞いておきますがよろしいですか?」

「あ、分かりました!今から都市機能の再起動が始まりますけど、その間ちょっとした遊びをするので少し離れますー。すぐ戻るのでリヒテルさん達はそのまま家まで飛び続けて大丈夫です。」

「遊び、ですか?もう20秒ほどでお屋敷に到着しますけど、わかりました。ミーナには話ができる状態になってからこちらから話しておきます。」

「ありがとうございます!ウル、大気の浸透率を上げて影響でないように行くよ!!」


ウルスラはガントルの後方から上空へ高度と速度を上げつつ飛び立ち、外縁部へ向かう。


『高度4000メートル地点。外縁部から起動文字散布航行開始します。大気原子及び素子特定。浸透率上昇。機体等率89%まで完了しています。現在マッハ22。原初の翼は順次出力上昇中。光速航行可能ですが速度上げますか?』

「そこまでしなくていいよ、そんなに広く無いから。ライトスノーはいけそう?」

『魔素混合率は地上の大気と変わらないのでいけます。光屈折は七色で。』

「それでオッケイ!じゃあ取り敢えず秒速35キロ。マッハ103までスピード上昇。都市上空を人工太陽中心にして螺旋航行。順次起動文字散布。全体を回り終えたら人工太陽とかの再起動と一緒に起動させるよー。挨拶がわりに綺麗な花束を!よーい、どん!!」


瞬間外縁部を速度を上げながら航行していたウルスラの機体が掻き消える。

地上からは外縁部から人工太陽の周りまでを螺旋に音速飛行する銀色の軌跡として確認できるだろう。

大気、原則に言うと大気を構成する原子とその他の素子はウルスラの機体をすり抜ける為、ソニックブームは起きず竜巻の様な大気への影響もない。


『人工太陽からの温度干渉は機体表面温度変換で対応。起動文字は都市上空78%に散布完了。都市機能再起動はすでに可能です。再起動と同時に起動文字全体発動します。』

「了解、都市機能の再起動時にでる影響は?」

『今の時間帯影響は無いようです。人工太陽は約60秒間のロスタイムで発行停止しますがライトスノーが発動しているので光源による都市への影響はありません。起動文字散布率92%。』

「分かった。じゃあパーッと行きますか!都市再起動カウント省略、5.4.3.2.1.ライトスノー起動!!」


カウントに合わせて、人工太陽や環境循環器などの魔道式及び起動式が置き換えられ、再起動するまでのロスタイムが生じる。

それに伴って都市は闇に包まれるがそれは一瞬のことだった。


ウルスラの航行した空からは七色の発光体が降り、むしろ人工太陽の光よりも空間を明るく染めたあげた。

空から降る七色の発光体は起動文字によって変化した魔素そのものであり、ベクトル変換の影響を受け地上に降り注ぐ。

魔素の発光は魔道具や人体には影響せず、大気中のごくわずかな量の魔素を反応させているだけのことなので環境に影響は及ぼさない。


人々はいつもの様に人工太陽が夜へと切り替わっただけと思っていたが、窓の外に降る七色の光を見て、外に出てきていた。

空から降る光の雪は人々にとって始めての光景でありその空間にはしばし誰しもが見とれた。

空にとどまる大きな翼にしばらく立って気付いた人々は、まさにセスクウィン。人類の希望が現れたのだと祈りを捧げるものたちも少なくなかった。


「喜んでくれたかな?」

『ちょっと喜ぶ方向性が想定して居たものと違う様な気もしますがライトスノーには私の核も綺麗と言う感情を表しています。』

「前降らせた時は都市の廃墟を見つけて鎮魂の為にだったなー。今は現役の人が生きる都市に来てか。なんか感慨深いな。」

『人々の希望になるのも悪くは無いかもしれませんね。』

「おお、拒否してきたセスクウィン様が降臨かな?」

『ほっぽり出してライトスノーと一緒に地面に落としましょうか?』

「すいませんっした。」


ライトスノーが地下空間の闇を彩り、一分の幻想は人工太陽の起動と共に終わりを告げる。

再起動した人工太陽の光はすでに夕日を再現している様で地下都市を赤く染め上げる。

環境循環器は起動音を大幅に落とし、地下都市は人々のざわめきに包まれている。

転移装置などは資材の関係でまだ機能化されていないがいずれ大型の物は設置、小型の物は配布される予定だ。


『再起動は都市機能全体で65%進行中。人工太陽は優先的に機能の87%を再起動。魔道式置き換えと共に光量調節による地上日照を再現しています。細かいところは後々調節しますが今の段階では樹木や都市機能等、環境への影響はありません。環境循環器は新たな魔道式、魔道回路を構築。サイズが大きい為機能の20%まで再起動。順次継続中ですが5分ほどで全機能完全復旧します。作業中の兵装を除き手の空いた物から亜空間転送開始していますがよかったですか?』

「うん、それでいいよ。さ!挨拶も終わったことだしミーナの家に向かいますか!」

『既にガントルはここから北北西6キロの地点に着陸しています。』

「おおっと、それなら急がなきゃ!」


滞空していたウルスラは北北西に進路を取り、瞬時に音速に至る。

ミーナとリヒテルが待つ場所へは10秒とかからなかった。

ウルスラのコックピットを開口しながら降りる奏。

大きな屋敷の前庭のような場所に透過率を元に戻しながら降りた為、草原の草がちぎれ、空に舞った。


「ごめーん!ミーナ!お待たせー!」

「別に良いぞ。そこまで待っておらぬしな。」

「都市の人へ挨拶替わりと思ってさ。ミーナが話せる状態じゃないらしかったからリヒテルさんに許可とったけど良かった?」

「ううういうう、うむ。べ、別にはは話せなかったわけではないのだ。いや、何でもない。忘れてくれ。先ほどは良き物を見せてもらったぞ。それに夕日が都市に訪れようとは。絵本でしか見たことなかった物じゃが、これはまっこと綺麗なものじゃのう。」


夕日を眩しそうに、しかしどこか嬉しそうに眺めるその目を、奏は嬉しく思いつつ人を喜ばせる事に幸せを感じていた。


「朝日はまたちょっと違って綺麗なんだよー。」

「なに?夕日と朝日は違いがあるのか?」

「なんか朝日は薄くぼやけてくる感じかな。夕日は赤く暗くなる感じ。」

「それは楽しみじゃ。ところで先ほどの光はまことに綺麗であったな。3日後の都市長演説で奏の事も含めてウルスラさんの来訪を伝えるつもりじゃったが、あの騒ぎからして予定を早めた方がよさそうじゃの。」

「うーん、お願いなんだけど都市の人たちへ知らせるのはウルの事だけに抑えといてもらえないかな?街とか歩けなくなっちゃうから遊べなくなる。死活問題!」

「そこまでの事か?い、いやまあ良い、隠しても無駄だとは思うがウルスラさんの事だけを演説の中で取り上げるとしよう。取り敢えず立ち話もなんじゃ、中に入るが良い。ウルスラさんには申し訳ないがここで待っていてもらえるだろうか。屋敷には自動防護システムが張り巡らされているのでそれを解除したあとに屋敷のバルコニーへとお招きしたい。」

『了解。奏、行ってらっしゃい。』


ミーナに促されるまま、屋敷へと足を運ぶ奏。

奏の五倍ほどある外門が開き、リヒテルを先頭に屋敷へ向かう。

本殿が木で見え隠れしていた為、どの程度の大きさなのか外からではわからなかったが、次第に全貌が見え始めると、奏は顔をひくつかせる。

そこには屋敷と言える大きさを度外視した城が立っていた。

五本の尖塔を掲げ、上部からみれば屋敷自体が五角形になっているのだろう。

外から見えなかったのは木だけではなく、地盤ごと急激に下がっていた為で、奏の目の前にある尖塔は屋敷のほんの一部分だったようだ。

奏の腰程の高さまである塀が沈下した城の外縁部をぐるっと囲み、塀から向こうは120m程の崖になっている。

いくら都市長の家であっても大きすぎる屋敷だ。


「でっか!!これ屋敷って言わねえと思う!!」

「我が家はまだ地上の都市が健在だった頃の王家だったそうだ。この屋敷は大崩壊の時に地下へ潜るより前から作っていたらしく強固な防護魔道式と都市全体を監視する魔道システムを備えておる。空からみれば我が家の家紋と同じ五芒星を模しておる。妾が都市長なんぞしよるのも地下に人々を導いたのが我らの家計であると言う経緯あってのことじゃ。でなければ腹の肥え太った評議会のジジイどもがうるさかったじゃろうな。まあ既にうるさいが。」

「やっぱり権力者はマンガみたいな世界にいた。うわー、ニンゲン怖いー。」

「マンガじゃと!?奏!!お主マンガを読んだことがあるのか!?」

「まあ、昔の世界を知る為に各地の書物ログを集めて回ったからマンが含めて1000万冊ぐらい持ってるよ。」

「なにいぃい!?か、奏!頼む!読みたい物があるのじゃ!!妾にも読ませてくれぬか!!」

「別にいいよ。あ、でもウルの記憶領域に保管してある分しか無いから目的の物があるかは分からないよ?後で見せてもらうといい。」

「ふぉぉおおおお!!ずっと気になっておった【イケメン喫茶ウーパールーパー】の続きが見れるやもしれぬ!!リヒテル!!妾は今日寝れぬぞ!!!早くウルスラさんを招かねば!!」


マンガのタイトルが絶妙に気になるが奏はミーナのあまりのはしゃぎっぷりに少し、本当に少しだが引いていた。


「ミーナ?あなた今日は今度の評議会での原稿を練らなければならないでしょ?」

「いやじゃリヒテル!お主だって読みたい書物があれば妾をほっぽり出すではないか!!」

「ほっぽり出しているのではなくあなたが何処かに逃げるから仕方なく余った時間を有効に使わせていただいているだけです。」

「ああ言えばこういいおって!ふん!評議会などほっておいても進むのじゃ!」

「ああ言えばこう言うのはミーナの方じゃありませんか。はあ、仕方ないですね。夕ご飯にはキノコ類をふんだんに使わせていただきます。」

「くっ、リヒテル!妾のご飯を人質に取るとは!なんて卑怯な奴なのじゃ!!」

「私はミーナを支える者として申し上げているのですよ?それにそれだけ見たいのであれば今から原稿終わらせてからにすればいいでしょう?」

「ぐぬぬ、ご飯を人質に取られては仕方あるまい。リヒテル、妾は先に戻って原稿に取り掛かる!夕食どきまでに終わらせる為、集中するからドアを開けるでないぞ!」


早口で幕したて終えると、塀の一部分が突出したような円筒形の部分へと走って行くミーナ。

円筒形の堀は奏の二倍程の高さがあり、ミーナが近付くと縦に切れ目が入り両開きに開く。


「奏!妾は急いでいるゆえ先にいくぞ!」


円筒形が扉を閉じると、魔道式が発動するのが奏には見えた。

空間を滑るように崖の内側へと進む。


「空間干渉型移動用ボットか。大崩壊の時は開発すらしてなかったと思うけど、王族って違うなー。他にもいろいろと魔道式だらけ。」

「その通りです。さすがですね奏様。」


ミーナを乗せた円筒形のボットは、崖の内部に出ると、急激に姿を消した。


「あれなんかデジャヴ・・・リヒテルさん。あれってまさかとは思いますけど、別の場所にもある奴ですか?ここのは違いますよね?」

「慣れていない人は立てなくなりますね。」

「嘘だあーー!!!」

「少し狭くなりますけど私も一緒に乗りますから大丈夫です。」

「そう言う問題ではありません!!せめて改良する時間を!」

「時間は限られていますし、ウルスラ様を待たせるわけにはいきませんから。ささ、どーんと。」


リヒテルに後ろから押され、円筒形へともつれながら倒れこむ奏。

奏の後にリヒテルが乗り込み、移動ボットの扉が閉まる。


「いてて、ん?何か背中に柔らかい感触が。」

「んっ、奏様あまり動かないで下さい。狭いのですから当たってしまいます。」

「あた?!あたたたたあたるとは何でしょう!?そう言えば俺女性にこれだけ近づくの始めてだっt!ひあああぁぁぁぁ!!!また落ちるのねー!!!」


移動はある程度軽減されてはいるものの、縦やら横やらにきりもみ移動した為、リヒテルの柔らかいモノを全身に感じながらの移動となった。

ボットの内部の気温が上がったのは奏の白煙を上げる頭部のせいだろう。

崖から直滑降し、屋敷の外壁に空いた穴へと入り、また下降し、左右へと降られながら少し上昇して屋敷入り口の門前に止まる。

ボットの扉が開くと、いろんな意味でグロッキーになった奏が倒れこむようにして吐き出された。

ゆでダコのように赤くなっているのはリヒテルの意外と豊満な柔らかいモノを体感した為だろうか。


「す、すごい柔らかさと大きさ、じゃなくてリヒテルさん。これは二人で乗れるものではありません。俺には刺激が強すぎるので改良しますから一緒に乗るのは勘弁してくりゃしゃい。」

「あらあら、慣れればどうってことなくなりますよ。」

「いや、俺はヘタレで良いんです。それにおそらく慣れるのは無理です。」


奏は、執事服でわからなかったけど意外と大きかったと言う感想を頭に浮かべ、思い出して恥ずかしくなりしばらくの間白煙を噴出するのであった。

天涯孤独だった少年は、順調に純情に育ったのであった。

奏とは離れて待機状態にあるウルスラはセンサーなどには異常反応を検出していなかったが、その超感覚に違和感を感じていた。


『何か嫌な予感が。核の不良動作でしょうか。全機能チェック開始。機体空間異常無し。機能は完璧に動作していますが、何でしょうこのぬぐいきれない違和感。』


第一号ヒロイン(?)が危機感を募らせている頃、奏とリヒテルは屋敷内部に招かれていた。

重厚な扉の向こうは第一尖塔内部で洗練された美と機能性溢れる回廊になっている。太陽光を可変して色味をますステンドグラスや彫刻がなされた天蓋などは奏にとって初めて見るもので刺激的だったようだ。

もっとも刺激的だったのは彫刻だけではなかったが。


「「「お帰りなさいませ、リヒテル様、奏様。」」」


扉の向こうには壁伝いに総数20名程はいるであろうメイドが一挙一動を同じくし綺麗にお辞儀していたのである。

先頭に立つのは背筋は未だピントしている老齢な執事であり、気品に溢れる佇まいで腰を折っていた。


「ただいまラナー。奏様は私がお連れします。下がっていいですよ。」

「かしこまりました、リヒテル様。」


凛とした声でそれだけ発すると後ろに音もなく下がる執事ラナー。

奏はこのラナーと言う執事が相当の武人であることを体捌きや挙動から感じ取っていた。

ミーナと言う王族であり都市長である者の警護にはそれなりの人材が必要と言うことだろう。

もしくはその王族時代からの護衛者かもしれない。


多数のメイドと執事が消えるまでをあっけに取られて見ていた奏だったが、リヒテルに案内されて内部に招かれてからは周囲をキョロキョロと見回してばかりになっていた。


「綺麗なステンドグラス!彫刻は人に翼が生えてたり犬の耳が生えてたりなんか面白いですねここ!あれって本当にいたんですかね?あ!あっちのなんておでこに目がありますよ!」

「あれはスミス博士の物語に出てくる異世界の創造物だそうです。アーカイブ一族が地上にあった時博士との交流があったそうで、彼の話を聞いた幼き第24代アーカイブ当主カルディナ様、ミーナの曽祖父に当たる方が彫らせたそうです。」

「博士伝説の登場人物かー!それなら実際に何処かの世界にいるんだ!いろいろ終わったら探してみようかな!」

「あの、奏さん?博士伝説はフィクションであって実際に異世界があると私は思っていないのですが、違うのですか?」

「ああ、それは博士が後で話を作り変えたんです。彼と同じような過ちを起こさせない為に。」

「過ち、ですか?あの、私個人の願望なのですが博士伝説は私にとってとても興味深い研究対象なんです。ぜひとも詳しいお話を聞きたいのですが話を聞かせていただけませんか?」

「いいですけど、リヒテルさんは研究者なんですか?」

「はい!博士伝説における考古学を専門にしています。考古学の観点からもぜひ奏様の話をきいてみたいです!」


リヒテルの食いつきはミーナのそれとは系統が違うが熱烈なものだった。


「分かりました、この話はいろいろ長くなるので夕食後でもいいですか?」

「わかりました。」


奏はミーナやリヒテルならば特に隠し事をする必要も無いだろうと了承するが、何かを忘れていると頭の片隅に引っかかり立ち止まる。


「奏様?」

「うーん、何だろう。何か忘れてる。・・・なんだっけか。何かを不機嫌にさせるような何かを忘れている。」


奏が立ち止まって考えていると、屋敷の内部に警報のような音が響き渡る。

リヒテルは突然の事にクールな表情を驚愕に崩し、そばにいた女性のメイドに声を掛ける。


「この音は防護機能発動令!?ヤナ!何か情報はきていますか!?」

「分かりません!お屋敷始まって以来のことなので指揮系が混乱しているようです!」

「くっ!このお屋敷に侵入してくるなんて!身の程知らずも程が有りますよ!」

「あのー、リヒテルさん。その防護機能って魔道式系ですか?物理防御系ですか?」

「え、えーと確か強固な魔道防御式だったと思います。」

「じゃああの魔道式蹴散らしながら迫ってきてるのは。あー。しまった。」

『呼ぶのが遅すぎです。まちくたびれました。』


奏の頭にウルスラの声が響いた。

ひどく不機嫌なように聞こえなくも無いがやはり棒読みである。


「ウル?屋敷上空の大型魔道防御式どうした?」

『古臭い全対象防御の魔道式及び起動式は排除しました。誘導兵器や物理投擲は管制を乗っ取りました。代わりに新たな超重魔道防御式を設置しておきましたから問題はないはずです。もちろん認識対象に私は含まれないようにしています。』

「また勝手な事を!どうやってリヒテルさんとかに説明すればいいのさ!!」

『嫁がきれて迎えにきました。とかどうでしょう。』

「嫁なんかもらった覚えない!!」

『そうやって捨てられるのですね。よよよよよ。』

「そう言う訳じゃなくてえ!!」

「奏様、防護令は解除されたようですが何が起きるか分からないので取り敢えずシェルターの方へ。」


奏の百面相が切り替わるのわ見計らって声を掛けるリヒテル。

非常事態の警報は突如として解除された為屋敷の内部は防護機能の誤作動かとにわかに騒がしくなっていた。

そもそも魔道式は起動式による発動がなされないと作動せず、誤作動などするはずもないのだが。


「あの、リヒテルさん。シェルターも良いんですけどここって中心部に中庭がありますよね?そこの様子がみたいなー、なんて思うんですが。」

「奏様、いくら奏様でも今屋外の危険な場所へとわざわざ送り出せません。」


がんとして聞かなそうなリヒテルをどうしたものかと考えていると、何故か奏は聞き慣れている声で館内放送が流れる。


【先ほどの防護令は魔道式の定期点検機能によるものです。異常事態ではありません。速やかに各自の作業に戻ってください。】


「屋敷内の放送まで入り込んで!ウルも好き勝手やりはじめたな。これは注意しないとキョートでやりたい放題の二の舞だ。」


奏は、放送を聞いて警戒を解いたリヒテルに案内されるまま五つの尖塔の中心部。空間が開けた中庭へと向かう。

いろいろな色の花が咲き乱れその中にいろいろな像が立ち並び、中央には巨大な噴水がある大きな池がある。


「ここが中庭です。春の宴と言う園名がつけられて居ます。」

「魔道式の手助けで枯れない花の園庭か、綺麗だなー。さあ、出てきなさいウル。そんなとこ隠れたって図体でかいんだから丸わかりだぞ。」

『ちっ。ばれましたか。』


園庭の中央、噴水のある池から白銀の機体が持ちあがる。

多量の水が機体から流れ落ち、その白銀の輝きを増した。

リヒテルはそんなところにウルスラが沈んでいたとは思わなかったようで、ウルスラだと気付くまで奏を守るように前に立つ。イケメンだ。


「こらウル!!勝手にいろいろ行動しない!!ウルが勝手に行動したらキョートみたいな事になりかねないよ!」

『多少強引だったと反省しています。がしかし今回は私の事を放っておいた奏が原因と思います。』

「ぐっ。そ、それとこれとは別!屋敷の人に迷惑かけてごめんなさいでしょ!」

『申し訳ありませんリヒテルさん。うちの旦那がご迷惑を。』

「旦那じゃねえし!しかも迷惑かけたのウルだし!!」

「あらあらあら。お気に入りの場所が騒がしいと思ったら、初めて見る先客が。」


奏とウルスラがリヒテルに対して夫婦漫才のようなことをしていると新しい声が聞こえる。

おっとりとした柔らかい声は、花が咲き乱れる空間に似合うようにふわりと響いた。

ミーナと同じような真っ青な腰まである髪を一房にくくり、目はひまわりのように黄色味を帯びている。リヒテルより身長は低いが、奏よりも少し高いので女性にしては背が高い方だろう。その身長に紺のマーメイドドレスのような服が似合っていた。

人形のように整った顔は表情を豊かにそして華やかに映しだす。

ミーナの親族であることは髪の色でわかるが、違うのはその背丈とドレスの下からその大きさを主張しているリヒテル以上に豊満な身体だろうか。

ドレスのおかげで余計に強調されているだろう。


「ラウレル様!!まだお体の調子が戻っていないのにこんなところまで!!」

「もお、また様なんて付けて。でも新しいお客様なんて久しぶりでしょ?お姉様だけお話できて私はお話できないなんて不公平じゃないかしら?」

「しかし、まだお体が万全ではないのに!!」

「あの〜、この方は?」


奏がリヒテルの横から申し訳なさそうに手をあげて質問する。

リヒテルは自分がにわかに取り乱していたのに気付き、襟をただして紹介を始める。


「こちらはラウレル・アーカイブ・マクティス様です。ミーナの妹君に当たります。」

「どうぞラウレルとお呼び下さい。」

「あ、能見奏です。奏と呼んで下さい。こっちはウルスラ。えーと、セスクウィンと言った方が早いでしょうか?」


奏は優雅にドレスを広げあいさつするラウレルに見惚れて、少しあいさつするタイミングが遅れた。

ラウレルはウルスラのことを紹介した時、少し驚いたがミーナほどではなかった。


「まあまあまあ。セスクウィン様の事はお話に聞いておりましたが、こうして直にお姿を拝見できるとは思いませんでしたわ。」

『どうぞ私の事はウルスラと呼称して下さい。』

「分かりました。ですが呼び捨ては少し心痛が激しいので、図々しいとは思いますがウルスラ様とお呼びさせていただいてもよろしいでしょうか?」

「様は外れないみたいだよウル。」

『ミーナの動向を観察すると硬い部類のラウレルからしたら様付けでも許容した方だと思われます。』

「姉と妹でこんなに違うもんなのかー。・・・ん?妹?」


自分で口に出して引っかかるものを感じ、頭の中で先ほどのリヒテルの紹介を整理する。


「ミーナとラウレルさんは姉妹で、ありゃ?み、ミーナが姉?」

「はい。お姉様はリデルトを迎えに行くとおっしゃっていたのでミーナお姉様にはもうお会いになられましたよね?」

「・・・・え、えええええぇぇぇえええええ!!!???」


奏は今日一番の驚愕を抑えきれずに声をあげた。

中庭に見えないビックリマークとハテナマークが散乱した。


「え!?ミーナがお姉さん?!ラウレルさんの?!どゆこと!?栄養バランスとか!?悪い魔法使いの魔法とかで小さくなったり!?」

『落ち着いて下さい奏。スキャンして確かめましょう。もしくはミーナが妹と言う認識を許可しましょう。』


ウルスラも少なからずテンパっているようで、わけの分からない事を言っていた。

ラウレルやリヒテルはこの反応に慣れているようで頬に手を当ててあらあらと立つラウレルと、そのそばにはいつもよりキリッとした顔のリヒテルが奏とウルスラが落ち着くのを待っていた。



「すみません、ちょっと取り乱しました。」

「いえいえ、慣れていますから。お姉様は愛らしい姿であってこそのお姉様です。私のように・・・」

「ラウレル!!やはり無理を!!」


ラウレルが突如として力が抜けたように倒れこむのを、リヒテルは支える。

言葉が砕けたのはとっさのことだったからだろう。

執事服姿の美麗なリヒテルが、これまた美麗なラウレルを支える姿は絵画のように芸術的な光景だったが、奏は見惚れてばかりはいられないとウルスラに指示をだす。


「ウル、緊急スキャン実行!サルメを召喚させて必要ならキュロスを召喚しても構わない!」

『了承。スキャン実行します。サルメを召喚待機、内臓の一部に魔素毒症状を発見。その他にも心不全や血中癌、貧血症などの症状が見られます。サルメ完治治療開始します。』

「サルメで間に合いそうだね、良かった。リヒテルさん、あとはサルメに任せて下さい。」

「わ、わかりました。」


ウルスラが既に召喚していた医療ボットのサルメがラウレルを包み込む。

流動ボディーに浮かび上がるラウレルの身体がにわかに発光し、治療が開始された事を示す。


『症状が重なっている為完治まで4時間50分見込みです。』

「あの、奏様。ラウレルは治るのですか?」

「はい。完治したあとは薬も必要ありません。」

「本当なのですか!?本当に病気が治るのですか!?」

「リデルトさん達を治したのはこのサルメですから安心して下さい。腕がもげててもくっつきますし、何処かの部位が欠損してても元に戻ります。完治を目的とした魔道兵装ですから治せない怪我や病気はありません。」

「ら、ラウレルがっ!ああ、奏様!ミーナの事から都市やラウレルの事まで、何とお礼をもうしたら良いものか!私にできる事なら何でもいたします!おっしゃってください!この身はお捧げいたします!」


クールな印象だったリヒテルが涙を流すのが奏にとっては嬉し恥ずかしく、しばらく奏の手を握って離さなかったリヒテルは本当に嬉しそうにしていた。

しばらくして落ち着いたリヒテルはそれでも上機嫌で、奏に対して笑顔を向ける様になったのは少し残っていた警戒心がだんだん顔色が回復して行くラウレルを見て薄れていった為であろう。

もうすでに暗くなった中庭にリヒテルと奏は座りこんで話していた。


「ずっと思ってたんですけどリヒテルさんはミーナやラウレルと仲が良いんですね。ずっとミーナの護衛だったんですか?」

「その話は少し長くなりますが聞いていただけますか?」

「聞いて見たいです。」

「ありがとうございます。私は元々このアーカイブで貧相な家庭に生まれました。父は顔も知らず、母と二人きりの生活だったので生まれてからずっと盗みに入ったりスリをして何とか生きていたのです。ですがある時アーカイブ家の別荘に盗みに入った時に運悪く捕まってしまって、保養にきていた親方様にミーナとラウレルの護衛を頼みたいと言われました。私は最初この二人を飼いならせばお金持ちになれると思って引き受けましたが、ミーナやラウレルは私の事を護衛どころか家族として迎え入れてくれました。私の母もお屋敷に迎えてくれて、兄弟のようにここまで育ててもらいました。時が経つに連れて気付いたらお金などどうでも良くなっていました。私よりもミーナやラウレルの方が私にとって大切な存在で生きがいになっていたから。だからミーナやラウレルを守る事こそ、私の生きる意味であり使命だと思っています。」


語るリヒテルの言葉にはミーナやラウレルがどれだけ大切な存在なのかを感じさせるものがあった。


「いいですね、家族って。・・・

羨ましいです。」

『奏には私がいます。一人ではありませんよ。』

「そ、うだよな。ごめん、ありがと、ウル。」

「奏様。家族と言うのは新しく築いて行く事ができると思います。私が奏様の家族になる事もできるのですよ?結婚したり子供ができればまた家族が増えます。」

「けけけ、結婚!?いやそれはまだ早いっていうかなんていうか!」

「奏様。私は先ほど申し上げた通りこの身を捧げます。奏様の下僕としてお使いいただいても構いません。」

「いやいやいや、落ち着いてくださいリヒテルさん!!リヒテルさんみたいな美人な人が奥さんとかそれは嬉しいですけど俺まだ会ったばかりだし、好きとかそんなわかんないから、えーと、あのその。」


顔から湯気が出そうなほど真っ赤になる奏を、リヒテルは嬉しそうに見つめる。

だがここでそんな事を許すはずがない姑のような存在がいた。


『良い雰囲気のところ申し訳ありませんが。第一の正妻はわたくしですのでもう妻は間に合っています。』

「では愛人でもかまいません。一夫多妻が主流の世の中ですので問題はないかと。」

「俺にそんな器量と度胸はありませーん!!!もうヘタレで良いんですー!!!」


半泣きになって頭を抑える奏。

リヒテルもなかば冗談半分ならば聞き流せたが、至極真面目な顔で真剣に話をしているので奏はなおさらパニックになっていた。


静かなはずの中庭には、情けない叫びが反響し、サルメの静かな起動音と共に、奏周辺の女性関係が複雑になって行くのだった。

夜空には警備ロボットの光が、まばらに星のような光をはなっていた。

またまた長くかかりましたー(~_~;)

女の子を一気に投入しましたねー、どうなることやら!!!ww

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