準備ですよ
都市につくまでまとめると文字数がえらく多くなったので分割します!
奏達は地下の都市に向かうため、簡易防護テントの防護術式を解除して出てきていた。
外はぼんやりと光を緩め始め、夕日の色彩がほんの少し出始めた頃合い。
副隊長以下8名の隊員達はテントの外に並び、装備の点検を終えていた。
「奏殿、テントを片付けるのをお手伝いいたします。」
一番早くに装備を整え終えた副隊長のリデルトが、最後にテントを出てくる奏に提案する。
先ほど奏が、カザスによる探査が終わり、森の中で魔素だまりを発見した事をリデルト達に話した時に隊員達よりも奏が今にも泣き出しそうな顔をしていた為の気遣いであろう。
隊員達は隊長を含むであろう6人の犠牲が出ている事に少しの悲しみを見せたが、しばしの間黙祷をするとすぐに引き締まった顔に戻っていた。
「地上には各々が自らの意思と覚悟を持って出てきました。その覚悟以上の価値がこの探索にはあると我々は信じていたからです。そして信じた事は間違いではなかった。・・・人類の希望をこの目で見つけることができたのですから。彼らの犠牲は無駄ではありません。」
そう話すリデルトの目には奏が映るが、今までたった1人でがむしゃらに闘い生きてきた奏は、もう少し早くアビノウンに気がつき殲滅できていれば犠牲は出なかったのではと自分を責め、顔には暗い影が落ちてしまっていた。
そんな奏の気持ちに気がつき声を掛けるリデルトは、こんなにも優しい少年が10年の長い、本当に長かったであろう間死に物狂いで戦い、そして傷付き、人を探し続けてきたと言う事に久しく無かった事だが、目頭が熱くなるのを覚えた。
当の奏はというと、未だ抜け切らぬ後悔を顔から拭おうと精一杯の笑顔を浮かべリデルトの申し出に答える。
「このテントならお手伝いは大丈夫です。ウル、収納頼むよ。」
『テントはサルメとまとめて収納します。隊員の方は魔道文字に触れないよう少し離れて下さい。』
言うが早いかテントが一瞬輝くと、その全体が魔道文字による起動式にほどけ、ウルスラの白銀の機体に黒い残光を残しながら溶けるように消えて行った。
それを見た隊員は皆改めて驚愕し、そして希望の光を目に強く宿す。
リデルトも感嘆の声を上げた。
「いやはや、やはり凄まじい技術力ですな。同じことをしようと思ったら我々の技術ではまだ200年はかかりそうなものです。」
「そんなに難しいことじゃないと思いますよ。ウルと同じような空間干渉に関しては多空間干渉型の魔道式と魔道回路、あとその起動に耐え得る媒介が存在すれば実現可能です。まあそれなりの期間安定させる為にはまだ小型か中型の魔道炉が必要でしょうけど滅びた魔道都市に使えそうなものが幾つかありますから倉庫や保管庫替わりにはなりますかね。移動式のものは例えアビノウンでも耐えうる素材が無いんです。」
アビノウンは最小型のものからその機体と魔道組織に合わせて魔導炉と呼ばれる魔素を取り込み、そこに指向性を持たせる為の機関がある。銃でいうならば魔素を火薬とした薬莢と薬室が魔導炉であり、バレルやライフリングが魔導回路と言ったところだろうか。
魔導組織とはそう言ったものの総称であり、人類が持ち得ない悪神からのギフトであった。
そのため、アビノウンの装甲や魔導組織は高次元の媒介として機能しており、地球上の媒介を使用するよりも遥かに強力な魔道を扱う事ができた。
人類がアビノウンの個体を調べ、そう言った知識を知り終えたのは、くしくも人類が地上から滅亡する少し手前であり、その知識が技術に昇華される前に人類はその栄華を散らせた。
『私の亜空間兵装変速換装戦闘術の根幹になる空間操作系魔道技術は奏が改良に改良を重ねたものです。魔導式は本機に最初から搭載されていたものですが現在はもうほとんど原型が残っていないほどなので奏のオリジナルと言っても過言ではありません。得意分野と言うやつです。私の体は奏専用にいじくりまわされてしまいました。』
「おい!人聞きが悪いこと言わないで!俺がなんか変態またいじゃないか!」
『私の持つ魔道組織全体をほとんど改良しておいて何を言いますか。ある意味での変態です。』
「初期魔道式は全部効率が悪すぎだったし、起動式だって無駄が多すぎて遅かっただけじゃん!」
『うるさいです変態。ああ、もう私の体は汚されむした。お嫁にいけません。』
「ねえ、何でそんな言葉知ってるの?どこからの知識なの?俺に隠してるログでもあるの?なんで顔を背けたの?ねえ?あと変態では無い。」
「オ、オリジナル魔道?ウルスラ殿に使われている技術は奏殿由来のものなのですか?」
先ほどからいろんな事に驚愕しっぱなしのリデルトが今日一番驚いたものだが、奏にとっては暇つぶしが実を結んだものだった。それを人が天才と呼ぶのかどうかは分からないが、奏にとっては10年間の日々の中でアビノウンを殲滅させる為には、と暇があるたびに考え続け、高火力高速度効率化を追い求めた復讐の為の産物であった。
「もともとウルは自立思考型飛行兵装との魔導連結、魔道管制を使ってウル本機との連携を取りながら戦闘する多目的型の人型殲滅兵器なんです。でも肝心の飛行兵装はウルと俺がいた都市の魔道圧縮倉庫に収められて10機以上は容量不足で持ち運び不可能。その管制能力も飛行兵装の自立思考も正直そんなにレベル高くなかったんですよね。兵装を都市で換装させてから殲滅に出かけるのも大変だったんでどうにかなんないかなーと考え続けてたら8年前ぐらいに東の島国にある滅びた魔道都市にアビノウンの研究機関を見つけたんですよ。そこでウルを何かしらかグレードアップさせようとした時になんじゃいかんじゃいが思いの外うまくいっちゃって。今に至ります。」
『後半いろいろはしょりましたね?』
「だって多次元への魔道干渉とか座標固定系の起動式開発とか難しい事ばっかりでめんどくさくなるでしょうもの。」
「いやはやほんとに驚いてばかりで申し訳ない。是非とも我が都市アーカイブの魔道技術者にご教授いただきたいですな。他の魔道都市を見て回っても奏殿ほどの技術者はおらんでしょう。その戦闘力だけではなく技術者としても世界一。まさに凄まじい希望の光です。消えて行った隊長や他の隊員達も本懐を遂げたと天に昇る事でしょう。」
リデルトが奏に向ける目を、奏は直視できずに顔を俯けて涙を我慢していた。
鼻声のまま紡ぐ言葉は、まだ16歳でしかない少年の声。
「俺にとってはみなさんの方が希望の光ですよ。今までのアビノウン殲滅は両親の復讐のためでした。俺が人類最後かも知れないと思って何度も諦めそうになりました。もう死んじゃおうかと思った事もあります。でも皆さんを見つける事ができて、生きててよかったと久々に思えました。ありがとうございます。皆さんが、僕の生きる意味です。」
涙を目尻に貯め光をます奏の目は新たな希望と決意に燃え、その言葉には強い意思が込められていた。
隊員達も仲間の死から堪えていた涙を流し、頬に筋をつくる。
リデルトでさえも鋼の精神が緩み、涙を目の端に貯めていた。
十年前の大崩壊の時、リデルトには二人の子供が居た。双子の娘は生きていれば奏と同じぐらいの年齢だろう。母親と共に魔素となって消えて行く二人の娘を、ただ抱きしめる事もできず、空っぽになった心に復讐心を注いで生きてきた。
しかし敵は圧倒的でリデルトも地下の都市に住む人々も諦め掛けていた。いずれアビノウンに発見され根絶やしにされる運命なのだと。
だから今回の探索は最期の生きる望みをかけてのものだった。
アビノウンゲートのデータを取り、逆転の策を打ち出す為決死隊で地上に出てきたが、あまりの敵の多さに近づく事もできず豪放磊落な隊長や快活な青年達は消し飛ばされてしまった。
隊員達には絶望しかなかったが、生への執着を捨てなかった。
生きることに必死にならなければ生きていけない世界。その世界に目の前にいるたった一人の少年が変革を起こしている。
テントを出て、ウルスラと奏を改めて目にして、隊員達の目には希望の光が強くまたたいていた。
「この先何があろうとも、皆さんには指一本触れさせやしませんよ。ウルスラと一緒に人間の生きる世界を作ります。だからこれからよろしくお願いしますね!」
奏の目はどこまでも未来に向かい、明日への希望を胸に一行は都市に足を向ける。
「ねえねえなんでこんなに遅くなったの?まだ都市にも向かってないんだけど。」
い、いやー。ちょっとリアルが忙しくて!
『奏、この変態はリアルの仕事を言い訳に書かなかったのです。万死に値します。射撃許可を。』
「ねえ今どんな気持ち?一日の半分バイト畜生やってて書けなかったとか言い訳して。ねえ今どんな気持ち?」
・・・てへぺろ!!☆
「打てい!!」
『大口径魔素粒子砲射出』
どおうごおおおん!!!
まことに申し訳ありませんです!!
ジャンピング爆発で吹き飛びながら土下座!!!